鬼軍曹「ウチに来て妹をファックしても良いぞ!」 → 行く家を間違えた。
訓練終了後、鬼軍曹が俺の部屋を尋ねてきた。
「いるか?」
「サー!」
軍曹が部屋を尋ねてくるなんて珍しい。恐らくは非常事態かもしれない。
「寺門二等兵……お前は有望株だ。だからウチに来て妹をファックしても良いぞ!」
「サー! ……え?」
思わず鬼軍曹にアホ面をかましてしまう。慌てて顔を引き締めた。
「俺の妹も年頃だ。だから、ファックしても良いぞ!」
「サー! 説明になってないサー!」
「妹は108、75、78だぞ?」
「サー! ボン、キュッ、シュッ、サー!」
入隊以来渾身の『サー!』が自然と出た。
鬼軍曹がボソボソと何か言っているが、よく聞き取れない。まあいいだろう。
「学生時代はクラスで二番目に美人だったんだぞ?」
「サー! ヨッシャ! サー!」
またしても軍曹はボソボソと何かを呟いている。
「住所を書いたメモだ。明日は休み、早速今夜行くが良い。話はしてある、思う存分ファックしてこい!」
「サー!」
俺は手渡されたメモ紙を頼りにお目当ての場所へタクシーで向かった。
「……えーっと、ココ……ですかね。お代は2820円になります」
「サー! イエッサー!!」
上機嫌で2850円を差し出し「釣りは要らないぜ?」と運ちゃんに手を振った。
運ちゃんは不思議そうな顔をしていたが、きっと照れ隠しだろう。
「おお……凄い家だ」
それはTHE・金持ちの豪邸だった。
黒塗りの高級車、なんか凄そうな盆栽の数々、庭に池があり、鯉が泳いでいる。そして家の中からは悲鳴みたいな声。金持ちってすげぇ。
「ちわー、ファック屋でーす」
緊張を隠すため悪ふざけ100%で家に入る。返事はないが悲鳴とドタバタと何かの物音が凄まじい。
「ちわー、ファック屋ですがー……」
これまた勝手に上がり込むと、二階で複数の男達が一人の娘を押さえ込み、衣服を剥ぎ取ろうとしている場面に遭遇した。どうやらファックしに来たのは俺一人ではなかったらしい。先客が居るなんて聞いていない。
「整理券あります? あ、ここで待っていても良いですか?」
「なんだテメェは!!」
カメラを回していた男が怒り声を発した。どうやら見られていると出来ないタイプの奴らしい。
「軍曹にファックしても良いと言われてので」
「つまみ出せ!!」
男達が襲いかかってきた。仕方ないのでその場に置いてあった手頃な壺でぶん殴った。値段は知らんがこいつらに払わせよう。
「ぐわっ!」
「何してんだやっちまえ!!」
二人目を倒した時に壷が壊れたので、今度は木彫りの熊で応戦。多分コイツは安いだろう。お土産コーナーで見たことあるしな。あ、ミケランジェロが彫ったやつじゃねーだろな?
「ぐわぁっ!!」
「クソッ! なんなんだコイツ!?」
カメラ野郎を木彫りの熊の鮭のサビにした所で、全員を外に投げておいた。デコに『最後尾』と書いておこう。
「あ、あのー……」
それまで泣き顔だった女が、キョトンとした顔で声をかけてきた。
「軍曹に言われて君をファックしに来たんだけど、コレ住所合ってる?」
女の前に座り、メモ紙を見せる。
「……隣です」
「マジか……」
立ち上がり窓から隣の家の方を見ると、▲みたいな体系をしたオバサンが鏡台の前で口紅を片手に『んー、まっ!』をしていた。都会の夏は暑い。多分蜃気楼だろう。軍曹から聞いていたイメージとはまるで違う。
「どうやらココで正解みたいだ。君、名前は?」
「……かおり」
「かおりちゃんか。俺は寺門雅人二等兵。宜しく」
腕をビシッと組み、笑って見せた。ついでに上着をかけてやり、どうしたものかと考える。
「本当は君をファックしに来たんだけど、冗談でも言えなくなっちゃったね。さっきの奴らは?」
「恐らくは父上に恨みを持つ人達かと……父は仕事柄敵が多いので」
「お父さんの仕事は?」
「純愛系の表紙でガチ寝取られの同人誌を書く仕事です」
「そりゃあ敵が多そうだ」
とりあえず軍曹に連絡をしておこう。彼女を保護して貰わねば。
「良かったら来ないかい? ここよりは安全だ」
「……ええ」
こうして、彼女は保護され、乱暴を働いた男達は逮捕され国外追放となった。
「寺門二等兵!! 気合が足らん!!」
「……サー! イエッサー!!」
日々の訓練は熾烈を極める。守る物を守るための力をつけるべく、俺達は毎日訓練を欠かさない。
──ビーッ
「む、午前の部はこれにて終了! 速やかに昼食を取り休息に励め!!」
「サー! イエッサー!!」
「あ、雅人さんお疲れさまです♪」
「かおりさん。お疲れさまです」
軍の食堂で働くこととなった彼女。彼女が作る食事は実に美味い。
「今日も地球、守れてますか?」
「勿論! 君を含めて全てを守って見せるさ!」
「……今度のお休み、どこかに行きませんか?」
「よし、遊園地にでも行こうか? お化け屋敷でもジェットコースターでも守ってみせますよ!?」
「わぁ、それはたのしみです♪」
こうして、俺は彼女を護るべく、日々奮闘をしている。