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「え、いつの間にそんな仲に?!」
予定通り南国風カフェにて。
まるでバカンスに来たかのような、雑誌で見たとおりの独特の雰囲気がある半個室の席で、二人で出かけることになったと打ち明けると、思っていたよりも驚いた反応をされた。
何故連絡を取り始めるようになったのか、簡単に説明する。
浮かれたようなこの雰囲気に、この話題はある意味合っているのかもしれない。
ドキドキしながらも、紗梨の顔を窺う。
紗梨は、あの後そんなことがあったのね…と言いながら、目の前のドリンクの氷をストローを使ってくるくると回した。
「そりゃあ最初に話しているのを見た時は、ちょっと怪しいなとは思っていたけど…」
いつの間に…とじっと私の目を見つめながら呟くように言う。
「私も連絡を取り合うようになるなんて、思わなかったよ」
少し照れて俯きながら、紗梨の真似をしてくるくる氷を回した。
溶けて角が取れた氷が重なりを崩す。
簡単に、とは言っても途切れながらこれまでの経緯を話したので、それなりに時間が経過していた。
グラスは結露を纏っている。
「それで、あの、はっきり聞いちゃうけど…。その成瀬さん?のこと好きなの?」
「え…⁈いや、それはわからないんだけれど、気になってはいるとは、思う」
好きな人なんて今までいたことがないから感覚がわからないけれど、このずっと浮足立ったままの心はきっともう、自分自身だってごまかせない。
「なんだかとっても新鮮な気持ち…」
これまで私がずっと、なるべく男の人を避けて生きてきたことを知っている紗梨は感慨深そうに言う。
でも親鳥のような眼差しで見つめられているのは、きっと気のせいだと思いたい。
二色の層を作り出すドリンクを啜って飲み込み、渇いた喉を潤わせる。
甘くて、けれど重たすぎず後味がすっきりとした、果物をふんだんに使った夏季限定ドリンクだ。
今日の目当ての一つでもある。
紗梨の前には私のものとは色味の違う二層のドリンクが置かれている。
「あの瑛茉がねえ…」
と未だに呟いている紗梨に、少しだけ勇気を出して切り出した。
「あのね、それで急で悪いんだけれど今日、出かける用の服とか買うの付き合ってほしい」
「そんなこと!もちろん!なんか私のほうがドキドキしちゃう」
お願い、と言い終わるより早く、向かい側の席に座る私に飛びつかんばかりの勢いで前のめりになりつつ、ぱっちりと開かれた愛らしい両眼を輝かせて手を組みながら、大きく頷いてくれた。
テーブルに置かれた小さなハイビスカスが少し揺れている。
「普通にお買い物するのも楽しいけれど、友達のデートのための買い物とか、実は憧れてたの!」
先程までの呆然としたような様子からがらりと一変、切り替えが早いことはとりあえず置いておくこととして、頼もしい親友に心が温かくなる。
「ありがとう…」
「瑛茉がそんなお願いするなんて初めてだし、何より嬉しいからいいの。是非付き合わせてほしい」
そこまで言ってくれるなんて、本当に頼もしい。
胸の中同様、目の奥も少しだけじんわりと温かくなった。
じゃあ早速この後どこに行くか決めよう、と今日のこれからの予定を話している間に、このお店でのもう一つのお目当てだったパフェが運ばれてきた。
夏と言えば、で思わず連想してしまう、マンゴーが沢山乗せられた、こちらも期間限定のメニューだった。
大好きな果物なので本当に楽しみにしていたし、もちろんとっても美味しいのに、頭の中は今日この後のお買い物と数日後の約束事でいっぱいだった。
食後すぐに店を出たけれど、舌に残っていたのは味の記憶ではなく、マンゴー自体の独特の甘い風味とパフェ特有の冷たい名残だけだった。




