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19

「では私は、報告の為一度天界に帰る」

別れの余韻に浸った後、マリエルはそう言い残し飛び去っていった。

またな、と最後に言っていたので下界には戻ってくるはずだ。

お店もあるし、そうでないと困る。


すっかり暗くなった空の下に、慎と二人取り残された。

先程までの出来事のせいか、微妙な時間が流れた後、慎がおもむろに口を開いた。

「少し、話がしたいんだけど、時間大丈夫かな?」

その申し出に考える間もなく私は頷く。


心配をかけないように母に連絡を入れた後、近くの公園に移動した。

いつもは近所の子供たちが遊んでいる場だけれど、すっかり日が暮れているので今は私達しかいない。

生垣の傍に設置されたベンチに、並んで座る。


「今日のことって、現実、だよね?」

確かめるように聞いてくる慎にただ頷いた。

当たり前のようにマリエルたちのことを受け入れているように見えていたけれど、そうではなかったようで少し安心する。

慎は少し考えるようにして間を置いて、躊躇いがちに話し始めた。


「僕さ、さっき少しの間白昼夢を見ているような心地だった時があって。頭がおかしいと思うかもしれないけど、聞いてほしい」

もしかして、と思う。

真剣な顔つきではあったけれど、瞳が僅かに揺れていて、不安を感じているのが伝わる。


「ちゃんと聞くし、頭がおかしいなんて絶対思わないから、話してみて」

安心させるように言うと、ありがとうと一言言ってからジュンは語りだした。

「僕は、今日あの迸る光を見て、自分が一度あの稲妻を受けて死んだことを思い出したんだ」

案の定、慎の言う白昼夢は過去のシンの記憶だった。

途中、まだ混濁する記憶に惑いながらも見たことをすべて話してくれる。

話し終えるまでは、私はただ相槌を打って聞き続けた。


全てを話し終わったあと、(うかが)い見てくる慎に

「それは全て過去の真実だよ。私も昨日全て思い出したばかりなの」

と笑って言った。

「次は私の話を聞いてくれる?」

目を見張ったまま頷く彼に、私も過去の全てを話した。




お互いの過去を語り合った後、気づいたら私はすっぽりと慎の腕の中に納まっていた。

陽が落ちたことで肌寒くなり、余計にお互いの体温が心地よく感じる。

昨日までも充分慎を愛しく想っていたけれど、過去をお互いに思い出し共有した今、より一層愛おしい。

胸板にぐりぐりと頭を擦り付け、背中に回した手に力を込める。


「あの時、また今晩って約束、守れなくてごめんなさい」

「気にしないで。僕に嫌気が差したわけじゃないって知れて本当によかった」

「嫌になるなんてこと、あるわけないじゃない」


牢に入れられたあの時、こんなふうにまた話せる日が来るなんて、思ってもみなかった。

想いを自覚した途端に永遠の別れが訪れて、切なさが胸を締め付けた。

もう二度と叶わないと思っていた再会が叶えられ、またこうして言葉を交わし、触れ合うことができ、思い返して胸に焼き付けていた大好きな顔も、また間近で見つめることができる。

その全てが、これ以上に無く幸せだった。

今世では、苦しく辛い思いもたくさんしたけれど、またこうして慎に出会うことができて本当によかった。

胸元にうずめていた頭をあげ、自然に緩んだ顔で慎を見つめながら言う。


「ねえ慎、大好きよ」

「僕も、大好きだよ」

私の大好きな柔らかく笑んだ顔で、同じ気持ちを返してくれる。

自然にお互いの顔が近づき、唇を寄せ合う。

二人の睦み合う姿を、月だけが見ていた。


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