18
ジュンの話を聞き終えてしばらく、私は言葉が出てこなかった。
ジュンは果実の話だけではなく、本当にこれまであったことを全て話してくれた。
私がいつの間にかシンに想いを寄せていたように、ジュンも気づかずに私に想いを寄せてくれていたことに、全く気が付かなかった。
本人も気づいていなかったくらいだから仕方ないのかもしれないけど。
それでも良き友人であったジュンは、元々は私を告発する気は無かったみたいだ。
あの果実を食べるまでは。
あの頃のシンが話してくれた禁断の果実は、真実は違えど実在するものだった。
本物の禁断の果実は、欲を掻き立て自我を失わせる、堕天使そのものだった。
終始驚く話ばかりだったけれど、その中でも特に気になったものが一つ。
堕天使になってからのことだ。
私を見つけてから、人間を使って私を手に入れようと何度も試みたと、確かにそう言った。
では私がこれまで恐ろしくて、気持ち悪い目に遭ってきたのは、残った魅了の力などではなく、ジュンのせいだったの?
私を手に入れるために人間の身体を借りて…。
「…ねえ、ジュン。もしかして私がこれまで嫌な目に遭ってきたのって、全部ジュンのせいなの?」
「これまで仕掛けてきた男たちのことを指しているなら、全てとは言わないがほとんど俺が原因だ」
先程まで身を宿していた男を見ながら言う。
これまでも気づかなかっただけで、今日のようにジュンが翳に潜んでいたんだ。
いつも助けが来るまで本当に恐ろしくて、気持ち悪くて、被害に遭う度に抱いた感情は心の澱として幾重にもなっている。
その心の澱が、ふとした時に何度でも私を傷つける。
事件に巻き込まれる度に、両親に迷惑をかけてしまうことを申し訳なく思い、悩んできた。
この容姿のせいなのかとも思い、自分自身の姿をこれまで好きになることができなかった。
これまで積み重なってきたこと全てジュンのせいなの?
原因を作ったのが幼馴染だと理解した途端、遣る瀬無さが体を覆う。
思い出すのは幼体期の頃。
自由時間のほとんどを共に過ごし、たくさんの思い出を共有してきた。
思い出はどれも楽しいものばかりで、ぶつかり合うこともあったけれど、身を案じて怒ってくれる、とてもいい友人だった。
たった一つの果実が、良き友人を変わり果てた姿にしてしまった。
欲に呑まれ、私を間接的に手に入れようと画策し続けたことは到底許せることではない。
私がジュンの忠告を無視した云々は置いておいて、とりあえず一発は顔に食らわせてやりたい。
けれど、ジュンもまた苦しんでいる。
彼自身よりも、彼を堕天使へ導いた禁断の果実と、果実を渡した堕天使のほうが何倍も許せなかった。
「正直、私はジュンを許せないよ。ジュンのせいで最悪の気分を何度も味わった。でも、やっぱり幼馴染でもあるから、助けてあげたいとも思う」
「…ありがとう」
こんなに弱弱しいジュンの姿も、これまで見たことがなかった。
いつの間にか空は中程まで藍に染まり、藍色の空をバックにして立つジュンは、夕闇に溶けてしまいそうに見えた。
「助けてくれって言っていたけど、具体的に何をすればいいの?」
「マリエルを、ここに呼んでほしい」
マリエルが今下界にいるなんて一言も言っていないのに、何故呼べる場所にいるとわかるのか。
怪訝な顔をしていると、マリエルの気配がする、と言われた。
先程まで、変化を解いたマリエルと一緒にいたから、マリエルの聖力が少し私の周りに残っていたのかもしれない。
それか、私がマリエルからの加護を宿しているからか。
理由はともかく。
ジュンが先程まで語ってくれていた話を思い返してみて、私は彼がこれから何をしようとしているのか、なんとなく理解した。
「…わかった、すぐ来るかはわからないけれど今呼んでみる」
こんなことを願ってはいけないのかもしれないけれど、できるだけ遅く、来てほしい。
慎の元へ向かったはずのマリエルは、まだ外出中かもしれない。
ジュンの手前、とりあえず連絡を取ろうと鞄の中のスマホを探っていた時。
上方から、僅かな風を感じた。
「私に何か用か」
顔を上げると、丁度マリエルが私とジュンの間に降り立ったところだった。
私に背中を向け、ジュンを見据える。
「久しぶりだな、ジュン。やっと会えたな」
「マリエル。…久しぶり」
ある種再会を望んでいた上司が突然現れ、面食らっていたものの、すぐ気を取り直してジュンもマリエルを見返した。
宵闇の中で、真っ赤な瞳が揺れている。
「もう、逃げるのは終いか?」
冷ややかに放たれた言葉にたじろぐことなく、ジュンはただだんまりとしていた。
「そんな姿になって、これまで逃げ続けて来たんだ。何か言ったらどうだ」
ここからじゃマリエルの背中しか見えないけれど、顔を見なくてもマリエルが鋭い顔つきをしていることが声からわかる。
マリエルは、懸念があるから下界に来ていると言っていた。
濁されてしまったけれど、きっとジュンのことだ。
マリエルはジュンと親しかった私とサリーを慮って、ジュンのことを伏せたのだろう。
ジュンは誰にも見られないように門に堕ち堕天使になり、今日までずっとこうして見つからずに過ごしてきた。
「何も言わないのならば、こちらの用を先に済ませてやる」
痺れを切らしたマリエルは、遠慮なくジュンに近づき、その額に手を添えた。
ジュンはただそれを大人しく受け入れる。
再会して直ぐに、半狂乱で喚いていたとは到底信じられない姿だった。
このままでは慣例に法り、ジュンは消されてしまう。
おそらくそれがジュンを助け解放する唯一の方法であり、本人が望んでいることではあるけれど、こんなに呆気なく終わるのはあまりにも寂しかった。
「待って!」
と気づけば制止の声を上げていた。
「瑛茉、なんのつもりだ」
額に添えた手はそのままに、マリエルが眉根を寄せてこちらを振り返る。
「堕天使が大罪人であることは、わかっているはずだろう」
「ごめんなさい、それはわかってるんだけど、でも」
止めたはいいものの、続く言葉が見つからない。
ジュンが犯してきたことは許せないし、相応の処罰を受けなければならないと思っているけれど、目の前で親しかった幼馴染が罰され消えることを、心の内で割り切れなかった。
「エマいいんだ、これで。少しでも元の俺の意識があるうちに、消えたいんだ」
悲痛を滲ませた声に、何も言うことができなかった。
「瑛茉、私だって元部下を手にかけることに何も思わないわけではない。だがこれも掟だ」
マリエルは何も間違ってはいない、それでも別れは悲しいものだと知っている。
逡巡した後に静かに頷く。
それを認めるとマリエルはすぐにジュンに向き直り、添えた手に力を籠め始めた。
静かに見守る中、マリエルの掌に眩い光が集まっていくのがわかる。
これが最後になる、無意識のうちに胸の前で組んでいた両手に力が籠った。
その時。
「待ってください!途中で置いていくなんて酷いじゃないですか!」
場違いにも程がある様子で脇道から現れたのは、慎だった。
その場にいた誰もがそちらを見る。
誰かの「あ、」と言う声が、聞こえた気がした。
張りつめていた空気の糸がぷつんと切れた。
「慎?なんでここに?」
こんな状況でミスマッチな人物が現れたら、誰だってそう問わずにはいられないだろう。
声をかけられたことで私がいることに気付いたらしい慎は、すぐさま傍に寄ってきた。
「瑛茉!良かった、無事だったんだね」
一応往来の場だというのにも関わらず、強い力で抱き竦められた。
離してほしいと軽く背を叩いて意思表示すると、ゆっくりと身を離してくれる。
そこでもう一度、何故ここに?と聞く。
「そこにいる天使様が瑛茉が危ないかもっていきなり言い出すから、思い切ってお願いして一緒に連れてきてもらったんだ」
始め部屋に現れた時は大きい翼が生えているし、びっくりしたけどね、と最後に付け足す。
マリエルの方を見ると少し気まずいのか、こちらを振り向こうとはしない。
「すまなかったな青年。何せ人間を運びながら飛んだことなんてなかったからな。疲れて途中で置いてきてしまった」
二人の話にたくさんの疑問を浮かべながら、何とか情報を整理する。
「でも間に合ったみたいでよかったです。途中まででも連れてきてくれてありがとうございました」
憶測を交え話を纏めると、マリエルが暗示を解きに慎の元を訪れた時、今世でも聖の力が強く生まれた慎に姿を見られ、丁度そこで私の身に危険が迫っていると聞き(加護の力で察知できるのかな?)、ここまで来たみたいだ。
マリエルがこれ以上ないタイミングで現れたのにも合点がいく。
何より、わざわざ助けに駆けつけてくれたことが嬉しくて、顔が緩んでしまう。
天使様、の存在を受け入れているみたいだけど、見た感じでは記憶は戻っていないみたい。
「…誰が来たんだ?」
慎の飛び入りに、置いてけぼりを喰らっていたジュンは遠慮がちに口を開いた。
どうやらジュンの位置からでは、マリエルの翼で丁度顔が見えていなかったらしい。
会わせてはいけない二人な気がするけれど、ジュンは今とても平静であるように見えるし、どうなのだろうか。
その気の緩みがいけなかった。
地平に沈みゆく夕陽が、朱く私たちの顔を照らす。
マリエルが僅かに身体の角度を変えた瞬間に、ジュンの赤い瞳がシンを捉えた。
途端に、ジュンを取り巻く空気が変わる。
「お、まえ…!お前は、また、エマの隣にいるんだな」
「え?」
指をさされながらそう言われた慎も、ここでやっとジュンの姿を認めた。
マリエルとはまた違う姿に、心底驚いた顔をする。
「天使様って色んな方がいるんですね…」
呆けるようにずれたことを言った慎に、怒の籠った鋭い言葉が飛んでくる。
「黙れ!お前はまたそうやって、俺の手に入れたかったものを簡単に!」
ビリッと空気が震えたかと思うと、存在を忘れかけていたジュンが宿主としていた男が突然動き出し、虚ろな顔のまま慎に向かって突っ込んできた。
ジュンの声に驚いていたものの、慎はすぐに反応し、鳩尾に深く一発減り込ませ、あっと言う間に気絶させていた。
隣でその様子に呆気に取られていた私を見て、
「ごめん、怖がらせたかな?」
なんて不安げな顔で、通常運転で聞いてくる。
声をかける間もなくあっと言う間に気絶させた手腕は、とばっちりを受けた男の人は可哀想だけど、文句無しに格好いい。
無言で首を横に振って否定すると、安心したように柔らかく笑んだ。
「俺を忘れんなよ!なあエマ、俺を助けてくれるって言ったよな?裏切るのか、なあ!」
しおらしい態度は何処へ行ったのか、ジュンは再び喚き散らし始めた。
ジュンの周りに稲妻のような光が迸り、側にいたはずのマリエルも、少し距離を取った。
さっきまでと同じような言葉をまた繰り返し叫びながら、頭を抱え苦しそうに顔を歪める。
赤い瞳は瞳孔を開き、揺れていた。
「どうやら青年は地雷だったようだな。連れてくるべきではなかったか」
稲妻から私たちを庇うようにマリエルは大きく両翼を広げる。
ジュンの姿が視界から消え、宵闇に走る幾線の光しか見えなくなった。
苦しげに叫ぶジュンの声だけが響く。
湧き上がる欲と、僅かばかりの自我が、ジュンの中で戦っている。
「僕、もしかして邪魔だったのかな」
上手く状況を呑み込めないでいる慎が困った顔で言う。
そんなことないと言ってあげたいところだけど、マリエルの言う通り慎はおそらく地雷だ。
何も言えずに微妙な顔を返してしまう。
「よくわかってるじゃないか!お前はいつも、いつも俺の邪魔をする!この前だってもう少しだった!あの時、折角消してやったのにまた当たり前のようにエマの隣にいるお前が!心底邪魔だ!」
「この前?あの時?僕達初対面のはずだけど」
怪訝な顔で翼越しにジュンを見、慎は首を傾げた。
なんと説明したらいいかわからなくて、私はまた答えられない。
文字通りビリビリと空気が震える中、何か言わなければと頭を悩ませていると、マリエルが軽くこちらに顔を向けた。
「夏に瑛茉が攫われそうになったのを、青年が助けただろう」
「天使様が何故そのことを知って…?」
慎の問いかけには答えず、マリエルはジュンのほうにすぐに顔を戻した。
ジュンが不安定な状態だから仕方ないけど、言い逃げだ。
返答を得られなかった慎は、少し考えるような仕草を見せた後、閃いたかのように勢いよく顔をあげた。
「もしかしてあの時の男も、さっきの人も、黒い天使様が操っていたんですか?」
「そういうことだ」
マリエルから短い返事を貰った後、確認するように私の顔を見てくる。
おずおず頷くと、慎は今まで聞いたことがない程大きな声をジュンに向かって張り上げた。
「どうしてそんなことを!そのせいでどれだけ瑛茉が辛い思いをしたと…!」
「うるさい!全てはお前のせいじゃないか。お前がエマを誑かしたから!俺はただエマが欲しいだけだ。もう渇いて、渇いて。欲しくて、欲しくて、たまらない」
「何を訳の分からないことを」
ジュンを取り囲む、迸る稲妻の光が激しさを増す。
マリエルの翼を通り抜け、今にもこちらへ光が飛んできそうだ。
「ジュン、正気を保て。瑛茉達に当たる」
マリエルが注意する傍から私と慎のすぐ近くに稲妻が迸り、思わず小さく悲鳴をあげてしまう。
私には加護があるから最悪の事態は避けられるとは思うけれど、慎はどうだろう。
想像しただけで、目の前が暗くなる。
翼の向こうから、苦しそうな呻き声が聞こえた。
自我が欲を抑え込もうとしている。
身の内の鬩ぎ合いは相当激しいのだろう。
不安定な稲妻は空気を揺らし、辺りに散る。
隣にいる慎を見ると、迸る稲妻の光を眺め、呆然としていた。
心配になり名前を呼ぶも、こんなに近くにいるのに私の声が聞こえていないようだった。
どうする?このままじゃいけないのはわかる。
マリエルは私たちを庇っていて動けない。
ただ迸る光を眺めている慎を、ちらりと確認する。
このままマリエルの翼の陰にいれば、当分は安全だ。
私が、ジュンを止めなければ。
覚悟を決め、マリエルの前へ飛び出す。
頭を抱え、苦しみ踠くジュンが見えた。
「ジュン、頑張って!」
私の声に反応したのか、一段と大きく呻く。
けれどまだ、周囲に光が激しく散ったままだ。
「瑛茉、危ない、下がっていろ」
「マリエルの加護があるから、大丈夫よ」
不安を隠し、強気に笑って答える。
呆れ顔を見届けてから、ジュンをしっかりと見据えた。
「大丈夫、ジュンは強いから、絶対自我を取り戻せる、だから負けないで」
稲妻は一層激しくなる。
いつの間にか完全に陽が沈み、空には藍色が広がっている。
薄闇の中バチバチと迸る光は、必死で欲に抵抗するジュンの自我そのものに見えた。
「やめろ、やめろ…」
欲に抗おうと戦う姿を、傍でただ見守る。
両手を胸の前で組んで強く握りしめ、ジュンの自我が欲を打ち破ることを、強く願った。
幼馴染を見守ることに集中しすぎて、周囲への注意が散漫になっていた。
「瑛茉!」
マリエルの叫び声で、自分に激しい一閃が迫ってきていることに気付く。
避ける間などなく、当たる、と思ったその時。
身体の周りに膜が張り、稲妻を散らした。
目の前で瞬き散った光が目の奥でぱちぱちと弾けるのを感じながら、加護の力が働いたことを理解する。
加護があるからと強気になってはいたけれど、直に稲妻が向かってくるのを見て、流石に腰が抜けてしまった。
「まったく…」
と背後でマリエルが溜息を吐くのが聞こえる。
苦笑しながら、ありがとうとマリエルに感謝を伝えた。
「瑛茉、立てる?」
マリエルの叫び声で、我に返ったのだろうか。
いつの間にか傍に来ていた慎が、手を差し伸べてくれる。
手を取りながら、ここまで歩いてきて大丈夫なのかと回りを見まわす。
先程まで迸っていた稲妻の光は、どこにも見えない。
急いでジュンを見ると、目を大きく見開いてこちらを見つめていた。
「エマごめん、俺、」
薄闇の中で赤い双眸が揺れる。
真っ赤な瞳の中にエメラルドの瞬きが一瞬見えたような気がした。
「ジュン、元に、戻ったの?」
確かめるように聞くと、困った顔をする。
「わからない。けどエマに俺の稲妻が当たるのを見た瞬間、衝動が止んだんだ」
理由はどうであれ、正気を取り戻してくれたことに安堵する。
ジュンの自我が、欲に勝ったのだ。
一息ついていると、慎が私を庇うようにして、ジュンの前に進み出た。
険しい顔でジュンを睨んでいる。
「瑛茉、あんまり近付いちゃ駄目だ」
「こいつをこんなに近くで見ても、我を忘れない」
慎を一瞥して、肩を竦めながら昔と同じ調子でジュンが言う。
良き友人だったころのジュンを思い出して、ふふっと笑みが零れた。
慎は訳が分からないという顔をして私とジュンを交互に見る。
「エマ、今まで本当に悪かった。無かったことになんかできないけど、謝罪だけは言わせてくれ」
ジュンはしばらく深々と頭を下げ続けた。
マリエルに背中を叩かれ姿勢を正す。
「マリエルも、こんな部下でごめん」
「まったくだ」
マリエルは厳しい顔つきだったけれど、声は少しだけ優しかった。
「あと人間。お前も色々と悪かったな」
謝る気あるのか、と言いたくなるほどにぶっきら棒に言い捨てるジュンを、慎は返事もせずにただじっと見ていた。
「マリエル、今度こそ俺が正気を保っているうちに頼む」
「ああ」
頷いて、マリエルは再びジュンの額に手を添える。
今度こそ、本当に最期だ。
「サリーも、ジュンに会いたがってたよ」
何も言わずにいられなくて、痛む心を紛らわせるように話しかける。
ジュンは強張った顔を緩め、懐かしそうな顔をした。
「そうか。サリーによろしくな」
マリエルの掌に眩い光が集っていく。
その光が、やがてジュンの全身を包む。
ああそうだ、と眩い光に包まれながら口を開いた。
「マリエル、多分B地区に堕天使が潜んでる。後で探してみてくれ」
「情報感謝する」
その堕天使がジュンを唆した堕天使だといい。
彼の者を一番許せない私は密かにそう願った。
ジュンの身体が光の中に溶けていく。
徐々に輪郭が失われていく中で、真っ赤な瞳が元のエメラルドに戻ったような気がした。
輪郭が全て失われる直前に、エメラルドの瞳と目が合った。
「エマ、幸せにな」
最後にそう残し、眩い光の中、幼馴染は消えていった。




