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はじめましてこんにちわ
これは過去に書いた作品です。
文章に拙い部分が多々あると思いますが楽しんでいただけたら幸いです。
目覚ましの音。
今日も私はいつも通りの時間に目が覚めた。
居心地の良い布団の中から窓のある方を向くと、カーテン越しにぼんやりと朝の陽ざしが入り込んでいるのが見える。
名残惜しさを押しのけ、布団から出て窓を開けると、うっすらと冷たさを残した風が柔らかく頬を撫でた。
ゆっくりと深く息を吸い込むと、スーッと脳に沁みていく。
一日の始まりを感じる朝の匂いが、割と好きだ。
階下に降りると、寝起きの胃をじんわりと刺激する、美味しそうな匂いが漂っていた。
洗面所に寄ってからリビングに入ると、例のごとく、テーブルには既に朝食が並べられている。
サラダにトースト、スクランブルエッグにウインナー。
朝はパン食派の私に合わせたメニューだ。
最後に野菜スープを母がことりと置いた。
「おはよう、瑛茉さん」
「おはようございます、朝食ありがとうございます」
「どういたしまして。でもそんな毎日言ってくれなくてもいいのよ?」
困った顔で笑い、促すように椅子を引くとキッチンのほうに戻っていく。
欠伸をしながら、父もリビングにやってきた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
ゆっくりとした動きで、私の斜向かいの席に着いた。
おっとりとしていて眼差しの柔らかい母も、母と同じく柔らかな光を蓄えた目元を持つ父も、私の本当の両親ではない。
この両親のもとに来てから七年が経とうとしているけれど、未だに距離感を上手く掴めずにいる。
本当の両親だと思って、と何度か言われてはいるけれど、そもそも本当の両親というものがわからないのでぴんと来ないのだ。
よそよそしさが抜けない私の態度が母を困らせているのはわかっているけれど、未だにどうすればいいか、わからない。
パンを齧りながらテレビを見ると、今日一日傘は必要ないと気象予報士が告げていた。
「ごちそうさまでした」
食器を片付け、洗面所で歯を磨いてから、準備をすべく自室に戻る。
今日は平日、高校二年生の私には学生の務めがある。
制服に着替え身だしなみを整えるため鏡台の前に座る。
目の前には人形のような顔をした女がいた。
まぎれもなく、私の顔だ。
陶器のような肌に血色の良い唇は不自然なほどに映え、瞳の色は灰青色をしていて少々日本人離れしている。
作り物のようなその顔が不気味で、私は自分の顔ながら好きになれなかった。
当たり前だけれど、養子である私は両親にかけらも似ていない。
その顔を塗りつぶすように軽めではあるけれど化粧を施す。
波をかたどる亜麻色の髪はオイルをつけて梳く。
荷物の最終確認をしてから、朝食の片づけをする母に声をかけて家を出た。
校門の向こう側に葉を茂らせた木々が並んでいるのが見えた。
ひと月前までは薄紅色の花びらを散らしていたのが今は、風に吹かれて葉をさわさわと鳴らしている。
校門から校舎前までをつなぐ桜並木道がこの高校の売りの一つだった。
並木道を歩いていると登校中の他の生徒たちの声が葉の音に紛れて聞こえてくる。
今日の授業の話、昨日見たテレビの話、色恋の話、共通の友達の話、それと…
「瑛茉、おはよ」
さわさわと鳴る葉の音に重なって聞こえてくる声を無意識に辿っていたところで、後ろから肩を叩かれた。
「紗梨おはよう、びっくりした」
振り向いた先にいたのは友人の紗梨だった。
驚かせてごめん、と垂れ目がちのヘーゼルの目を少し細めて笑いながら隣に並ぶ。
毛先だけ内側に丸めた濃いミルクティー色のストレートヘアが、身体の動きに合わせて揺れた。
私と同じく色素が薄いけれど、社交的な彼女は私と違い友人が多い。
花のようにふんわりと笑う彼女を見て、少し心が和むのを感じた。
少しだけ、気持ちが沈みかけていたから。
「ねえ、今日の放課後何か予定ある?」
「ううん、今のところ何もないけど」
「じゃあ今日もいつものところ行かない?」
その提案に少しクスリと笑ってしまう。
「いいよ、行こう」
今日の楽しみが一つでき、自然と心躍る。
「やった、今日を頑張れる~」
今日は紗梨の苦手な教科で小テストが行われるから、放課後の予定は自分へのご褒美なのだろう。
テスト対策は何をしたかとか、今日の授業のことなど話していると、いつの間にか教室前だった。
同じ教室に入り、各々の席に着く。
今日使うものの整理などをしていると、チャイムと同時に入ってきた担任がホームルームの始まりを告げた。