表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
指輪転生  作者: ナーロッパ大使館員
一章 ピアルノー氏の蒐集品
10/40

ピアルノー氏の葬式


 イズーダン子爵邸(ししゃくてい)をオーデン一行(いっこう)(おとな)ってから数日後、帝国(ていこく)()()せた冒険家ピアルノー・アンダマンの訃報(ふほう)が 帝室(ていしつ)から国内(こくない)に向けて公表(こうひょう)された。


 布告文(ふこくぶん)は彼の偉業(いぎょう)と帝室への貢献(こうけん)(たた)え、当代(とうだい)皇帝(こうてい)王太子(おうたいし)それぞれから その死を()しむ一文(いちぶん)()せられた、簡素(かんそ)ながらも(おごそ)かなものだった。


 同時に市井(しせい)ではピアルノー・アンダマンに関わる様々な(うわさ)大衆紙(たいしゅうし)三文記事(さんもんきじ)と共に流布(るふ)し、莫大(ばくだい)遺産(いさん)()(すえ)や、(とし)(はな)れた若妻(わかづま)()に関わる荒唐無稽(こうとうむけい)なゴシップ、(さら)には10年以上前に書かれた、ピアルノー・アンダマンを主役に()えた官能小説(かんのうしょうせつ)復刻(ふっこく)されたりと、人々にとって恰好(かっこう)娯楽(ごらく)(まと)となっていた。



 ◇◇◇



 (ほど)なく帝国南領の主要都市(しゅようとし)チタ・パルマ郊外(こうがい)邸宅(ていたく)で ピアルノー・アンダマンの遺族(いぞく)によって遺体無(いたいな)葬儀(そうぎ)が行われた。

 イズーダン領アンダマン家からアーロン・アンダマンとリアンノン・アンダマンが参列(さんれつ)し、アンダマン本家からも代表として数名が参列した他には親族と極親(ごくした)しい人々だけが招待(しょうたい)され、葬列に加わった。

 (から)(ひつぎ)(かこ)んで(おこな)われた埋葬式(まいそうしき)は、(つつ)ましく(しず)かなものであった。


 その(かん)、エリオン・アンダマンは不在(ふざい)の兄に代わってイズーダン領主(りょうしゅ)代行(だいこう)(にん)を預かりながら、遺産分割協議にむけた数多(あまた)根廻(ねまわし)しを手配(てはい)し、さながら八面六臂(はちめんろっぴ)に仕事をこなしていた。



 ◇◇◇



 「エリオン様。 失礼しても(よろ)しいでしょうか」


 声をかけられたエリオンが書類(しょるい)から顔を上げると、執事(しつじ)神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで、イズーダン子爵に来客(らいきゃく)があります、と()げた。


 朝、母と兄から手紙が届いた。

 葬儀(そうぎ)が終わって間もなく、南領を出発する直前に送れられたその手紙によれば 二人は一週間以内に帰還(きかん)してくる。

 アーロン(領主)が戻り次第(しだい)、予定通り南領へ出立(しゅったつ)する準備に取り掛かる為にも 彼らの不在期間(ふざいきかん)に発生した要件(ようけん)早急(さっきゅう)(あらた)める必要があった。

 その()()ぎ準備の他に()く時間など()く、面会申請(めんかいしんせい)当面(とうめん)は断るようにと申し付けていた(はず)だが……


 「急ぎの用件(ようけん)なのか?」


 「用件は(おっしゃ)られませんでしたが……」


 執事(しつじ)(いわ)く、彼がその男性客に対して領主は不在(ふざい)代行(エリオン)目下(もっか)多忙(たぼう)の為、後日(ごじつ)(あらた)めて来館(らいかん)するよう伝えると、


 〝自分はアンダマン本家の(つか)いで来ている、使用人(しようにん)(ごと)きが私を追い返すと、後で領主と本家の(しか)りを受けることになる〟


 と怒鳴(どな)りつけられたらしい。

 その(あま)りに(はげ)しい剣幕(けんまく)に、異論(いろん)(はさ)むことが出来なかったことを、彼は(もう)(わけ)()さそうに謝罪(しゃざい)した。

 

 「この旦那(だんな)の言う通りですよ」


 (ちぢ)こまった老執事の背後(はいご)から声が()こえるや、大女(おおおんな)がヌッと顔を(のぞ)かせた。



 ◆◆◆



 長身と(あざ)やかな赤い(かみ)

 色素(しきそ)(うす)(はだ)虹彩(こうさい)

 北方人(ほっぽうじん)特有の容姿(ようし)


 目の下の(くま)

 酒精(アルコール)と汗の匂い



 ◆◆◆



 「……(ひど)有様(ありさま)だな。 スヴェンセン」


 「へえ、おかげさまで。

 野郎(やろう)のキーキー言う声で起こされちまいました」


 スヴェンセン。

 エリオン・アンダマンがイズーダン領内に(よう)する密偵網(みっていもう)構成員(こうせいいん)にして、彼直属(ちょくぞく)護衛(ごえい)

 比類(ひるい)なき戦士もとい蛮族(ばんぞく)だ。


 「どんな奴だった?」


 「あー……

 見たことない顔でした。 身なりは 良かったと思います。

 あの怒鳴(どな)(かた)は、(いじ)めに()れたクソ野郎ならではって感じで。

 聞いてるだけで胸糞(むなくそ)が悪くなりました。

 最悪の目覚(めざ)ましでさ」


 「そうか」


 エリオンは立ち上がって上着を(まと)ってから執事の肩に手を置き、来客(らいきゃく)応接室(おうせつしつ)(とお)すよう言いつけた。



 ◇◇◇



 応接室でエリオンを待っていたのは、面識(めんしき)の無い人物であった。

 ()るからに高価な仕立(した)ての衣服に身を(つつ)んだ、(エリオン)より(いく)らか年嵩(としかさ)のその男は、非常に丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をしてイズーダン領主代行への謁見(えっけん)に感謝する口上(こうじょう)()べると、自分はホト男爵(だんしゃく)()御用商人(ごようしょうにん)でコルゾ・キーリバという(じゅん)貴族だと名乗った。


 「使用人からの報告では、アンダマン本家の(つか)いという話だったが……私の記憶(きおく)(ちが)いだったかな?」


 「恐らく、彼は聞き間違えたのでしょう。 私めは遣いで来た(わけ)ではなく、アンダマン本家の類縁(るいえん)なのです。

 本家(ほんけ)当主(とうしゅ)カリバン様の妹御(いもうとご)であらせられる、シゼル様が私の家と婚姻(こんいん)(かい)して(つな)がっております」


 張り付いた笑顔。 慇懃(いんぎん)口調(くちょう)で、(わる)びれる様子さえ無い。

 ホト男爵家? シゼル・アンダマンの類縁?

 この男が言う事の真偽(しんぎ)確認は後に回すとして、アンダマン本家の名を出して執事にした放言(ほうげん)を 聞き間違いで済まそうとするとは……

 それとも、叔母(シゼル)の名前を出せば押し通せるとでも思っているのだろうか?


 「なるほど。 本家の遣いで無いのなら、失礼させてもらおう」


 エリオンが立ち上がると、コルゾ・キーリバは(あわ)てて(まく)()てた。


 「お、お待ちください! (こと)貴家(きけ)のピアルノー様に関する事なのです! 

 遠からず故人(こじん)遺産(いさん)()けが行われる(はず)です!」


 「どう言う事だ?」


 思いがけず出てきたピアルノーの名前にエリオンが反応したのを受けて、()かさずコルゾ・キーリバは話しを始めた。


 「先達(せんだっ)て皇帝陛下から、ピアルノー様の訃報が発布(はっぷ)されたのはご存知(ぞんぢ)の事と思います。 ご存知ですよね?

 ……私どもの様な商人(しょうにん)の耳には日頃(ひごろ)から貴賤(きせん)()わず(あら)ゆる(うわさ)が流れてきますが、ここ最近は中でもある(しゅ)(はなし)……ピアルノー様が(のこ)された莫大(ばくだい)な遺産と秘宝(ひほう)数々(かずかず)が隠されている場所について、また、それらの相続人の近辺(きんぺん)()(まわ)る様な(はなし)が特に多く聞かれます。

 実態(じったい)がどうあれ、(とみ)があると聞けば人は(あつ)まり、(むら)がって来るものですし……物騒(ぶっそう)輩族(やから)も少なくありません。

 そういう者たちへの枝払(えだはら)いはじめ、我が家には、過去にも 貴族(きぞく)(かん)会合(かいごう)補佐(ほさ)した実績(じっせき)が有ります。

 (くわ)えて 私自身(わたしじしん)遠縁(とおえん)ではありますが、相続人であるアンダマン本家と繋がりも御座(ござ)います。

 そこで 遺産(いさん)()けのお役に立てれば、と思い立ちまして此度(こたび)訪問(ほうもん)(およ)んだ所存(しょぞん)なのです」


 「成程(なるほど)。 だが、何故(なぜ)当家(とうけ)にその様な話を?

 遺産相続(いさんそうぞく)証人(しょうにん)相続人(そうぞくにん)達の(あいだ)処理(しょり)される。

 彼らに直接(ちょくせつ)相談すべきだろう」


 事実(じじつ) 我が家はアンダマン家の一員ではあるが、今回の遺産相続に権利を有していないため、関わりは無い。 

 私が証人の補佐役(ほさやく)だという(てん)(のぞ)けば。

 

 「残念ながら、アンダマン本家の方々とは、いまだ謁見(えっけん)(あず)かることが出来ていないのです。

 ……証人は何と言えば良いか、かなりの御高齢(ごこうれい)で、その時は 会話になりませんでした。

 もしかしたら、痴呆(ちほう)(わずら)(はじ)めておられるのやも……」


 軽く眉を(ひそ)め、小さく首を振って続けた。


 「……ですから、私が閣下(かっか)にお願いしたいのは、(わたくし)めと我が商会(しょうかい)を遺産分割協議の〝補佐役〟として 相続人の皆様へと御推挙(ごすいきょ)(いただ)くことなのです」


 成程(なるほど)

 オーデン氏には(ことわ)られ、アンダマン本家からは相手にされなかった、と言ったところか。

 やはり、この男はエリオン・アンダマンが(すで)に証人から依頼を受け、(とう)の補佐役として活動している(こと)は知らない。

 もし知っていれば、補佐役(ほさやく)への推薦(すいせん)依頼(いらい)しに来たりなどしないだろう。

 オーデン氏は (おの)職務(しょくむ)()せられた守秘(しゅひ)義務(ぎむ)徹底(てってい)している様だ。

 であれば、尚更(なおさら)何故(なぜ)この男は態々(わざわざ)ここイズーダン子爵領まで来た?

 関係者の推薦(すいせん)が欲しければ叔父の遺族が居る南領か、アンダマン本家の膝下(ひざもと)売込(うりこ)みをするべきだ。


 「キーリバ殿、貴殿(きでん)の立派な心がけに感心します。

 しかし、そうであれば尚更 当家(とうけ)ではお(ちから)になれないと思うのですが」


 エリオンは長椅子に(こし)をゆっくりと下ろし、不自然にならない程度に(くだ)けた表情(ひょうじょう)を作って話しかけた。


 「ご謙遜(けんそん)を、アーロン様は…… おっと失礼、イズーダン子爵は当主(とうしゅ)カリバン様の(おぼ)えめでたい秀才……アンダマン本家でも一目(いちもく)()かれておられるとか。

 それに証人のあの、オーゼン?と言ったか……貴家(きけ)は彼とも親しくしていらっしゃるのでしょう?」


 アーロン・アンダマンに対する評価は(おおむ)ね正しい。

 アンダマン本家(ほんけ)当主(とうしゅ)カリバン・アンダマンは父アエル亡き後のアーロンにとっては師匠であり、貴族としての見本(みほん)とも云える存在だ。

 師弟(してい)(なか)良好(りょうこう)で、それだけにアンダマン本家(ない)では(みと)める者と(ひが)む者がいる。

 (アーロン)の評判は()()半々(はんはん)といった所か。

 この男の言う通り、アーロンが補佐役を推薦(すいせん)すればカリバン・アンダマンは便宜(べんぎ)(はか)るか、少なくとも考慮(こうりょ)はするであろう。

 だが、一方(いっぽう)のオーデン氏と当家は、特に親しくしていない。

 それどころか、彼が叔父の遺言状を応接室で読み上げたあの日に初めて会って以後(いご)は、書簡(しょかん)のやり取りはあるものの、一度も会っていない。


 エリオンの沈黙(ちんもく)をどう(とら)えたのか、コルゾ・キーリバは胸元(むなもと)から布袋(ぬのぶくろ)を取り出して卓上(たくじょう)に置いた。


 「()容認(ようにん)を下されば、当商会は感謝を()しみません。

 無論(むろん)(あらた)めて()()もさせて(いただ)所存(しょぞん)です。

 こちらはまず ほんの気持ちですが…… 」


 彼が手を離すと、布袋はザラっという硬質(こうしつ)な音を立てた。


 さて 金貨か宝石か……

 一瞬(いっしゅん)、受け取ってこの男を利用することも考えてみたが、無理だな。

 手を組むには余りにも怪しい。

 それに、スヴェンセンの反応を見るに、私の部下とこの男では何処かで()()いがつかなくなる。


 「この様なものは必要ありません。 (おさ)めてください」


 「え、いや」


 「不要です」


 「しかし……」


 「……」


 「……」


 コルゾ・キーリバがノロノロと袋に手を伸ばし、その胸元に仕舞うのを見送ってから、エリオンが呼び鈴を手に取って素早く鳴らす。


 「残念ながら 当家は協力できそうも無い」


 その余韻(よいん)が消えきらないうちに応接室の扉が開くと、長身の衛士(えいし)が応接室へと入ってきた。


 「客人(きゃくじん)はお帰りになるそうだ」


 誤解です、お待ち下さい、と弁明(べんめい)するコルゾ・キーリバをスヴェンセンが(せい)し、そのまま(はか)ば持ち上げる様に連れて行った。


 扉に向かうスヴェンセンの背に向けて指示(しじ)を出す。

 「間も無く日も落ちる。

  安全な所まで見送って差し上げろ。

  ()()()()()()()()()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ