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仮面の大公殿下とお嫁様  作者: 高瀬 紫
4/6

対面した方は

 

 いくら神経が図太い私でも、流石に初対面には緊張する。クライヴに先導されて馬車を降りて振り返ると、広く素晴らしい庭が見渡せた。門からかなり時間がかかったけど、この広さは家の何倍だろうか。庭もお屋敷の外観もセンスが良くて品よく無駄がない。きっと采配する人物の腕も良いのだろう。


 本当に私はこんなお屋敷を持つ大公殿下の妻になるのだろうか。夢なんじゃ……? などと考え込んでいるとクライヴに促されてお屋敷の扉をくぐった。

 玄関ロビーも広い、ここでパーティが開けるほどに広い。左右に曲がり階段が展開する玄関ロビーなんて、デビュッタントで見た王城にしかないと思ってたよ。


 そしてその中央の階段の踊り場に、大公殿下であろう人物が立っていた。

 その周囲を執事と侍女と侍従と使用人に固められてズラリと並ぶ様子は、とてもとても私が釣り合うと思えないほどのカリスマが放たれている。仮面しててこうなんだから、外したらもっと凄いのかもしれない。


 柔らかなブロンドの髪、長めの前髪がアシンメトリーに左目を隠す辺りまで被っている。長身でスラッとした細身のバランスの良いスタイル。近衛騎士をされていたというのだから、ジャケットに隠された身体はきっと鍛え抜かれているのだろう。腰の高さで脚の長さが判るという何とも羨ましい容姿の、正に王子様だ。ーーー仮面さえ付けていなければ。だが少なくとも顔半分を仮面で隠されているとはいえ、口元は整っていてデビュッタントで拝謁した国王陛下にも似ており、精悍なその姿は上品な佇まいでとても婚約者が泣いて拒絶したとは思えない。


 私はと言えば、栗色の髪とありふれた緑色の瞳。特に背は高くはないけど目立って凹凸がある訳でもない。クレアが頑張って寄せてあげてくれた努力の賜物で取り敢えずそれなりになっているが、私脱いだら凄いんです。……初夜はガッカリされそうだ。



 クライヴが先に大公殿下の前に進み出て何やら報告を済ませると、大公殿下の視線が改めて私に向けられた。緊張の余り私の身体がビクンと震えてしまう。そんな自分を叱咤激励して奮い立たせ、出来る限り品よく見えるように大公殿下に向かってカテーシーをした。



「初めてお目にかかります、スターリング伯爵が次女エリザベスと申します。

 ……大公殿下におかれましては私を婚約者に選んでいただき、家族領民共々感謝の念に堪えません。どうぞ末長く宜しくお願い致します」


「……」



 間違えてはいない筈。そう思って深々と腰を落として俯いていたが、一向に声がかからない。母から礼儀作法はきっちりと教え込まれている筈だが、何かやらかしたのかと冷や汗が背中を流れた。


 どれくらい時が流れたのか。私にとっては永遠にも感じる沈黙が流れて暫し、頭の先で何やら動きがあってからやっと声がかかった。



「あ、ああ……私がヴィクトル・キングフィッシャーだ。遥々よく来てくれたね、スターリング嬢。そなたを歓迎しよう」



 やっと顔を上げると大公殿下がゆっくりとこちらに歩み寄り、やがて二歩ほど手前で立ち止まった。

 背が高い大公殿下を仰ぎ見て、マスクをつけていてもやはりスマートな男性だと惚れ惚れする。正真正銘王子様だし。


 マスクから見つめられている瞳が金色にキラキラ光っていて、とっても綺麗だった。

 王族の方は瞳まで高貴なんだわ。

 思わず見惚れてボーッとしてしまう。私が大公殿下の瞳に見惚れていると言う事は、殿下も私を見ているーーーというのは頭の中からすっかり吹っ飛んでいた。



「コホン」



 急に咳払いが聞こえて我に返った。大公殿下に付き従っていた執事(バトラー)の咳払いだったらしい。殿下と見つめ合っていたという事実を認識して、思わず顔に血が昇る。



「申し訳ございません、初対面で殿下を見詰めるなど御無礼をっ!」


「っいや……そなたは、()()()()()()()?」



 慌てて謝罪を述べて礼をしようとすると、それを押し留めて大公殿下に問われた。意外な質問に思わずきょとんとしてしまう。



「……怖い、ですか? 恐れながら王家の方との対面に緊張しない方が嘘になります、それを怖いと評されるのでしたら答えは『是』ですが」


「そうではなく、お前は()()怖くは無いのか? 仮面をしてはいるが金眼だぞ?」



 大公殿下が何を言いたいのか判らないが、嘘をつく理由も無いので素直に答える。



「恐れながら殿下の金色の瞳のあまりの美しさに『さすが王家の方』と、感心しておりました。……これほど綺麗な瞳を拝見させて頂いたのは、生涯で2度目になりますが」


「……2度目?」


「はい。デビュッタントで王城に赴いた折、中庭でお会いした方の瞳もとてもお綺麗でした。暗がりの中でも煌めく瞳というのは夜空に瞬く星が舞い降りてきたようで、それだけでもデビュッタントに行った甲斐がありましたわ」



 笑顔でそこまで答えてハタと思う。


 そう思うと大公殿下の金色の瞳も、暗がりならばあの方のように煌めくのかもしれない。……もしかしてあの方は王族の方だったのだろうか。『ちゃんとした挨拶をしていないのだから、気にせずとも良い』と言葉を頂いてその優しい声にも絆され、随分と親しい話をしてしまった気がする。

 そう、あの時の声も殿下とよく似た低く心地の良いテナーで……。


 あれ?



「……あ、あの、不躾で大変失礼な質問だとは思うのですが」



 私の顔色が変わった事に気付いて、殿下の金色の瞳が細く笑みを浮かべた気がした。そのまま私の眼を見つめながらこちらに近づいて来る。



「許そう」


「あの夜、中庭でお話したのはもしかして……?」



 不意に左手を掴まれて引かれる。あっと思う間も無くその腕の中に閉じ込められた。



「リズ、そなたに逢いたかったっ……!」



 その口調は確かに、あの夜話しかけてくれた紳士のものだった。




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