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仮面の大公殿下とお嫁様  作者: 高瀬 紫
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プロローグ

思い付いて書き始めたので、行き当たりばったりです。

 

 それはある日突然の事だった。



「私に縁談、ですか?」



 エリザベス・スターリング(17歳)、一応伯爵家の令嬢をしている。ただ3年連続で相次いだ自領の水害により財政は瀕迫しているので、使用人は代々家に仕えてくれている家令のロダンと元家政婦頭のアニスだけだし、ぶっちゃけてしまうと2人の給料もままならないのに仕えてくれているという状態である。


 家族は両親と兄と姉。有難いことに姉は5年も前に嫁いでいた為今回返される事もなく婚家にいる。実家の後ろ盾が無いので多少社交会では肩身が狭くなるかもしれないけれど、それは我慢してもらうしかない。

 何しろこちらは衣食のレベルを落とし、尚且つ皆総出で内職をしている始末だ。私と母は刺繍やレース編みに精を出し、父はツテを頼って借り入れをしにゆき、兄は同じく知り合いの子女相手に家庭教師のバイトをしている。


 焼け石に水なのは知っているけれど、何もしないよりはマシだ。家族は皆こんな状態で自暴自棄になって散財して自己破産出来るほど神経が太いわけでもない。元々慎ましく穏やかに生きてきた。一体我が家が何をしたのだと神を恨みそうにもなったけれど、私財さえ吐き出したお陰で自領の民は何とか生きてゆけているのだ。その辺りは感謝しなければ。


 毎年大雨で川は決壊して堰を作っても作っても壊れたけれどね……。お陰で農作物も満足に育たず、民は飢え税を納めることすらままならなくなったのだ。私財を投げ打つ父を、家族の誰も止めはしなかった。現在は貧しくなってはたして貴族と呼べるかどうかは謎だけれど、家族が揃い健康で日々を暮らして行けるのだ。それ以外に何が必要か。


 ただ、今年以降に災害が起こらなければという前提なのだ。もしまた大雨で川が再び決壊したり、農作物の出来が悪く税を納める事が出来なければ……自領は破綻し国預かりとなる。父は責任をとって兄共々牢に入れられ、母と私は路頭に迷うことになるだろう。


 そんな綱渡りの我が家だったせいか、一昨年までいた私の婚約者は解消を言い渡して去って行った。

 まぁ元々家の繋がりのための婚約だったので、特に愛が無かったのが救いだろうか。でも将来のために寄り添おうと努力していた情はあったので、それなりには寂しかった。

 けれど彼も家の跡取りとして守らなければならないものもあり、自分の感情だけで突き進むわけにもいかなかったのだろう。穏やかで優しい人だった。そのまま結婚出来たなら、平穏な生活を営めたのだろう。




 そして話は冒頭に戻る。こんなに貧窮した伯爵家にわざわざ縁談を申し込むとは、はたしてどんな家なのだろう?


 暫く目を泳がせて唇を舐め、ため息を一つ吐いた父はゆっくりと話し始めた。



「お相手の方はお前に相手がいない事を知って申し込んでくださった。年は26歳で9歳ほど離れてはいるが身分も高く広く豊かな自領を治めておられる優秀な方だ。6年前に拝領され赴かれるまでは近衛騎士団の任務にも就かれ、剣の腕もその人徳も広く知られておられた」


「そのような立派な方が、何故我が家のベスに申し込まれたのです? いえベスは立派な淑女に育ち何処に出しても恥ずかしくない娘ですが、これ程までに没落してしまった我が家を実家に持つ娘を欲しいと願うのには、何かあるような気がしてなりません」



 母が兄や私の気持ちを代弁して父に膝を詰めると、更に大きなため息を吐いた。そうして真剣な目で私を見つめる。



「その方はお前が嫁に来れば、我が家に援助して下さると確約してくださった。そればかりか息子のアルバートの能力次第では国の中枢に推してくださるとも」



 国の中枢?

 援助の話は嬉しいし、きっと両親も喉から手が出るほどの良い申し込みだろう。けれどその言葉に何か引っかかるものがあった。



「ただ……私はお前を売るような事だけはしたくないし、その方も無理やりどうこうしたいわけではないと仰った。お前が嫌ならお断りしても構わない」



 父がまだその方の名前を口にしない理由を、なんとなく察する。つまり御名を知ってしまったら、断れないお相手だという事だ。


 今現在自領をよく治め、過去は近衛に所属して剣の腕も良く人徳もあったーーー身分も性格も頭脳も運動能力もあるということになる、普通に聞けば超優良物件だ。なのに『26歳になるまで結婚していない』という。

 更に聞けば過去に婚約者はいたのだが、相手側に懇願されて解消されたらしい。



 なんだろう、特殊な性癖でもあるんだろうか……。



 閨事は子孫繁栄の為には必須事項なので、エリザベスもそれなりには学んでいる。稀に変わった事が好きな殿方もいるらしいとは聞いていたが、はたしてそのお方がそうなのか否か。


 少し考えるがどう時間をかけたところで、これ以上良い話はないだろう。何しろこのまま行かず後家か何処かの後妻になるだろうと諦めていたのだ。それならば望まれて結婚など喜ばしいことに違いない。少なくとも家族と自領の民は救われるのだ。自己犠牲で身を売るつもりはもちろんない! 私は幸せになりたいのだ! 多少の性癖の違いなど、週に一度ほど我慢すればなんとかなる(筈……)。



 私は意を決して父を見つめた。



「お父様、お相手の方はどなたなのですか?」



 聞いてしまうのか。そんな顔で父は私を見つめ、母と兄を見つめる。何度か言いかけて止めるように躊躇った後、やっとその名を口にした。



「お前に縁談を申し込んだのは……現大公殿下で辺境伯のヴィクトル・キングフィッシャー殿下だ。お前達には『仮面の王子』と噂されてらしたお方と言えば分かるか?」





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