自治会費7
毎日午前2時掲載
夏華は、コーヒーショップの仕事をクビになった。
狩場涼の上司からコーヒーやコーヒー碗のセットやコーヒーポットを粉々にしてしまったトラブルについて、ショップのオーナーに対して説明が行われ、ショップのオーナーも説明に一旦は納得はしていたものの、結局、夏華はコーヒーショップの仕事をやめることになった。
夏華も失職ことを、狩場涼の上司に報告した。
夏華がクビになった報告をして、その日に狩場涼の会社から夏華に連絡が入った。
夏華へ連絡してきたのは、狩場涼の上司の部下の「ふじみ」と名乗る女性であった。夏華への連絡の内容は、狩場涼の上司が、夏華の立派な学歴に見合う仕事といえるのかは分からないが、やりがいがありそうな仕事があるので、次の仕事が見つかるまでの短期でも良いので働いてみたらどうかという連絡であった。夏華はこの申し出に飛びついた。しかし、夏華の新しい仕事について、実際に事が動き出すのは、狩場涼の上司の「ハルキ」という人物が出張先から戻ってからになるという。
夏華は、「ふじみ」と名乗る女性に二つのことを聞いた。夏華が仕事を始めるまでどれくらい待てばよいのかという事。狩場涼の上司の「はるき」という名前は、苗字なのか、名前なのかということ。「ふじみ」と名乗る女性の話では、仕事の事については、「ふじみ」という女性も正確には知らないが、当座必要な金であれば、会社の方で融通するので、遠慮なく伝えて欲しいということであった。
また、狩場涼の上司の「はるき」というのは、苗字でも、名前でもなく、「はるき」は、「はるき」であって、彼の苗字や名前についての質問には答えられないという。ただ、「はるき」というのは、晴天の「晴」の字と、赤鬼、青鬼の「鬼」の字を合わせて「晴鬼」と呼んでいるという。
「ふじみ」という女性からの電話の直後、狩場涼から夏華へ連絡が入った。狩場涼からの連絡は、晴鬼という人物、狩場涼の上司である男が先日他界した、つまり死んだという報告であった。
晴鬼は、身近に迫る自分の死を予期していたらしく、自分の死後やるべき事を記した指示書(遺書)を部下の狩場涼のために残していたらしい。晴鬼の遺書には、夏華の仕事についてはすでに準備を整えてあるので、とある場所に夏華を連れてくるようにという事であった。
狩場涼という人物、まったく信用の出来ない人物ではあった。狩場涼の言うことも本当かどうか分からない。しかし、夏華は自身も無職の緊急事態にあり、少しの危険なら冒しても、なんとか仕事を得たいと言うのが本音でもあった。そこで、狩場涼の言うことを聞き、翌日の早朝、新宿の繁華街にて狩場涼と落ち合う約束をした。
夏華が、夏華は異空間(異世界)なるものに生まれて初めて足踏み入れることになったきっかけはこのようなものである。
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新宿中にこれまでなかったような勢いでサイレンの音が鳴り渡った。
それは、夏華が、着任の日の早々新宿の繁華街のオフィスから闇を通って、訳の分からない雑居ビルの一室のオフィスへと飛ばされてしまったことについて、狩場涼が、いいわけがましい説明をしに夏華のところにやってきた。そして、その説明を狩場涼がし終えた、ちょうどその時に起こった事である。
夏華は、サイレンのこの耳をつんざくような轟音の正体について見当がつかなかった。夏華は轟音の正体を探るようにそこここに目を向けるばかりだった。
そろでも、夏華は、狩場涼に起こった異変について気がついた。
夏華のそばにいた狩場涼の顔は青ざめ、ガタガタと体中が震え出していた。狩場涼は、足をもつらせながら、部屋から駆けだしていった。
このサイレンは、この狩場涼という男に対して、相当な意味を持っているらしかった。夏華は、このサイレンは何なのか誰も教えてはくれないが、サイレンのもつ重大な意味は、自分とも無縁なものではない事も分かった。