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黄昏の剣と盾  作者: イ尹口欠


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19/42

19.吸血姫、脱出!

 なんとかヴァンパイアを倒すと、影のマントという〈隠密〉にボーナスのある装備をドロップしました。

 ふたりの厚意で私がもらいうけることに。

 これでますます背後を取りやすくなります。


「いや~危なかったね。麻痺の視線、強すぎ。麻痺解除薬、私は使い切ったけどバタフー、幾つ残ってる?」


「私はひとつ余ってますね」


「うへえ。じゃあ私があと二回、麻痺したら危なかったね」


 麻痺解除薬が六個というのは、ちょうどいい数だったみたいですね。


「よし、ボスも倒したし帰ろうか」


「くふふ……レベルも上がりましたしね」


 さすがレベル40のボスです。

 経験値ガッポガッポですよ。


 おっと、しかしその前にふたりには伝えなければならないことがあるのです。


「帰る前に、隠し扉があるんですが……探索していきません?」


「なんだよバタフー、それを先に言えよ!」


「そうそう。こっちはもう帰る気まんまんだったし」


「ゴメンゴメン。なんか端っこに扉があるんですよ……うん? 鍵まで掛かってる。これはお宝かな?」


 私は扉の鍵穴に〈解錠〉を使って、シーブズツール、いわゆるピッキングツールを使って鍵をこじ開けます。


「トカゲ泥棒だ」


「トカゲ泥棒だね」


「黙らっしゃい」


 鍵を開けて扉を開けると、中はこじんまりとした生活空間になっていました。

 ほんのりと香る紅茶の香り。


 奥のソファには、女性と少女が身を固くしてこちらを見て怯えています。


 …………?


 一体、どういう状況でしょうか。

 私たちは揃って首を傾げます。


「うぬう、どうやら父上の書斎のヴァンパイアはお主らが倒したようじゃな」


「のじゃロリだ……」


「のじゃロリ様が降臨したぞ……」


「のじゃロリ……くふふ」


「な、なんじゃ三人揃って妾を笑い者に……く、確かに笑い者になる状況じゃが……」


「しかも一人称、妾……」


「コテコテですねえ」


「くふふふふ……」


 口に覗く長い八重歯からするとヴァンパイアです。

 というか、


《??? ヴァンパイア・プリンセス》


 モンスターではなくNPCですね。

 思いっきりヴァンパイアと書かれていますが、敵ではないようです。


 話によると、ヴァンパイア・プリンセスことアレクサンドラちゃんは、父親であるヴァンパイア・ロードが急死したため、書斎の奥の隠し部屋から出られなくなってしまったとのこと。

 書斎には父親を狂信的に信仰している正気を失ったヴァンパイアがいて出れば襲われるため、隠し部屋に軟禁状態にあったそうです。


「妾はこの造血ホムンクルスがおれば食事には困らないんし、ホムンクルスは妾の魔力で活動できるからやはり食事には困らん。しかしいかんせん暇を持て余して……と、ともかくここから出たいのじゃ」


「もうヴァンパイア・ファナティックは倒したから、出ていけば良いのでは?」


「まだブラッドサッカーどもがおるじゃろう! 妾は自慢じゃないが、錬金術をかじっておるくらいで戦う(すべ)はないのじゃ。どうか外に連れ出してくれんか?」


《クエスト『吸血姫、脱出!』を受注しますか?》


 おっとクエストですよ。

 しかも足手まといを連れての脱出クエスト。


 私たちは顔を見合わせ、クエストを受けることにしました。


《クエスト『吸血姫、脱出!』を受注しました!》


「おお、助かるぞ。妾たちは戦うことはできぬが、回復ポーションの手持ちくらいならある」


「お。回復してくれるの?」


「そのくらいは手伝おう。しかし問題は外に出てからじゃな……。どこかヴァンパイアでも住める場所があれば良いのじゃが……」


 私たちはまたも顔を見合わせ、「あそこに連れて行く?」「ちょっと遠いね……」「でもあそこしかないでしょ」と覚悟を決めました。


 行くぞ、目的地は遥か南のアルジミーリッヒ!!


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