【04】ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン
今回は『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン (以下、ガンゲイル・オンライン)』である。作者は時雨沢恵一先生。
実はこのガンゲイル・オンラインは、ここ近年の中で筆者がもっとも影響を受けた小説のひとつであるといっても過言ではない。
多分、こんな事を言うと拙作を読んだ事のある読者から「どこが影響を受けているんだ。一センチも……いや、九ミリパラベラムも作風被ってねーじゃねーか!」と叱られそうなのだが、事実なのだから仕方がない。
では、何をどういう風に影響されたのか?
取り合えずあらすじから。
富と名声を欲しいままにして満たされているかに思えたピトフーイは、心に深刻な破滅願望と暴力衝動を秘め、鬱屈した毎日を送っていた。
そんな彼女の心の安らぎは、フルダイブ型VRMMOのGGOである。
そのゲーム内の世界で、銃をぶっぱなしている時だけは、鬱屈したリアルを忘れられる……彼女は今日も死を求めて、血のような赤色に染め上げられた荒野をさ迷い続ける……。
そんなある日、ピトフーイはゲーム内でひとりの少女と出会う。
その少女の名前はレンといった。
レンが、自分と同じ鬱屈とした感情を抱えている事を見破ったピトフーイは、彼女に興味を抱き接近する。
しかし、このレンこそ、自分以上のやべーやつである事に、このときはまだ気がついていなかった。
……一応、誤解なきように断っておくが、レンというキャラの方が主人公である。
上記のあらすじも滅茶苦茶なので信じないように。しかし、嘘は吐いていない。
まあ冗談はさておき、筆者はこの作品を読むまでミリタリーとかには一切興味がなく、銃に対しても「引き金引けば弾が出て人が死ぬ感じのやつ」くらいの曖昧なイメージしか持っていなかった。
しかし、何となく、本当に何となく、この小説のアニメがやっていたので観始めた。それが最初のきっかけだった。
そして、アニメ第一話の「レンちゃんがはまぐりのようにぱかっと現れて敵をぶっ殺す」シーンを見て「これ、文章ではどう書いているんだろう?」と興味を抱き、書籍の一巻を購入した。
まんまと原作を買わされているチョロい谷尾銀である。しかし、こういうのって小説書いてる人は割りとあるあるだったりする(と、思う)
そうして、一巻を読んでみたところ、正直言ってしまえば、ミリタリーとかに心底疎い人間なので、ピンと来ない部分も多かった。というかミリタリーマニアのツボがよく解らなかった。
しかし、それでも、何かもう凄く面白くて、楽しくて、一気に最後まで読んでしまった。
その面白さの原因は、言ってしまえば「作者の熱量」だろう。
作者の銃に対する熱量だけで、最後まで読めてしまった。
これは当時の自分にとっては、本当に衝撃的だった。
なぜなら、このときは、他人に面白いと思ってもらえる作品を書くには自分の「好き」を封印しなくてはならないのだと、諦めて、決めつけていたからだ。
しかし、このガンゲイル・オンラインという作品はどうだろう。
作者のミリタリーやこのGGOの世界への愛に満ち溢れている。
作者の「好き」がたくさん詰まっている。
読み終わった瞬間、大袈裟でも何でもなく価値観がぶっ壊れた気がした。
何かへの「好き」という気持ちだけで赤の他人の心を動かせるのだと、ちょっと真面目に感動した。
もちろん、時雨沢先生はライトノベル業界でも有数の実力と実績をお持ちの作家である。この作品を面白い物にする為に、こちらが想像している以上に考えを巡らせ、技巧を凝らしたのであろう。
また、ガンゲイル・オンラインの世界観のベースとなった『ソードアートオンライン ファントムバレット編』がそもそも面白くて人気があった。
など、この作品が面白くなる要因が、作者の「好き」以外にもたくさんあった事は考えるまでもない。
自分の好きな物を書いて大勢に評価されるだなんて、この作者のように一部の才能のある人に許された特権であって、自分ごときがそれ目指すのは烏滸がましい事なのかもしれない。
しかし、それでもまったく興味のなかったミリタリーへの「好き」という気持ちだけで、面白いと思わされた奇跡のような体験は現実の物である。
その理想は夢や幻ではなかったのだと、筆者は実感してしまった。
この鮮烈な読者体験以来、自分がつまらないと思っている事は、例え流行りだろうがテンプレだろうが書かない事に決めた。
そして、流行ってなかろうがテンプレじゃなかろうが、自分が面白いと感じた事は、何でも書いてやろうと開き直った。
そうして、この直後に書いた作品が、現時点においても自作でもっとも評価の高い作品になった事と、このガンゲイル・オンラインは無関係ではないだろう。
……とはいえ、やはり自分の「好き」を赤の他人に伝えるのは凄く難しい。
なぜなら、大抵の人はたいして関わりのない人間の「好き」など、どーでもいいからだ。
合コンとかで初対面の異性が「自分、刺身のツママニアなんですけど……」とか刺身のツマについて語り始めたとしたら、誰だってつまらないはずだ。
その異性がレベル99のトークスキルでも持っていない限りは……。
だから、なろうのエッセイジャンルは、○○叩きやそれに対抗する○○擁護みたいなテーマの作品が多く並んでいるのだろう。
そんな中で、この筆者の好きな物をただひたすら列挙してゆくエッセイを読んでいただいた読者には、本当に感謝の言葉しかない。
本当にありがとうございます!(急に読者へと媚び始める)