表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎冒険者が成り上がる術  作者: 焼じゃけ
1/1

01,自らの情けなさ






風が呼吸をするかの様に一定のリズムで吹く

羊の鳴き声が鼓膜を激しく揺らし雑音を奏で、

雑草は醜くも立派に地から目を出し

僕の心に何かを訴え懸ける、

僕はその雑草が何を訴えかけているのか

分からない、只何処かにぽっかり穴が間気分だ

何故そんな気持ちに成るのかは自分自信でも

理解できない

いや、理解したく無いのかもしれない。


田舎に拠点を置く冒険者は少ない

田舎のギルドには依頼が少ないしその

依頼を請け負う冒険者も居ない。


悪循環だ、

冒険者が少ないことによって依頼が減る、


依頼が減ることによって冒険者が減る


この繰り返しで依頼、冒険者共に

王都に流れる形になった。


今この田舎に腰を下ろしながら

冒険職を全うするのは

僕と中年のおじさん冒険者のみ。


依頼は全くと言っても良い程無い

そのせいか体を動かす機会が無く

鈍くなる一方だ。


辺り一面の緑

この光景こそが僕が田舎に留まる理由..

なのかもしれない、正直な処分からないのだ

自分でも、何故この田舎に拘るのか。


分からない、しかしそれで良い

其程のものがこの田舎にあるのだ

いつか自分にも自分の役割が分かるだろう

そんな軽い気持ちで今の今まで生きてきた。


それ故にこの雑草の厳しい境遇

そして、健気に頑張り地に目を出す努力

その輝かしいものが堪えるのかも知れない。


一面の緑の土地を抜けると

僅ばかりしか人の居ない田舎の町にたどり着く

家は百軒あるかないかの小さな町だが

ギルドは一応存在する。


町の主道を歩くと目の前に噴水が見える

その噴水を右手に曲がると

僕の目指すギルドに到着だ。


ギルドと言っても冒険者が二人しか居ないので

ギルド嬢は一人しか居ない、

王都では、併設施設に酒場や、宿屋等があるが

当然この田舎町の二人しか冒険者の居ない

ギルドには必要ない

よって小さな受け付けに依頼張り出しのボード

必要最低限の椅子&テーブルしかない。


その粗末なギルドの扉を開けて

室内に入るとたった一人の受け付け嬢が

目を丸くして此方を見つめる。


その視線に一瞥してボードを確認するが

張り出しが何も無いことを確認し

安堵と落胆が混ざった溜め息が漏れる

そんな様子を見て若い受け付け嬢が

此方に声を掛ける。


「すみません今日は依頼は0でして。」


申し訳無さそうに頭を下げられるが

分かりきっていた事だ。


(今日はじゃなくて今日も、だろ)


内心はそんな事を思っていたが

口にする勇気が無いので心の声として

蓋を閉じる。


「そうなんですか、やはり冒険者の数といい

依頼の数といい、減るばかりですね。」


皮肉めいたこと事を口にしたのだが

受け付け嬢は嫌な顔一つせず笑顔を向けてくる

その笑顔を見ていると何だか自分が小さい男に

思えてくるので、目を反らした。


「ヤスさんは今日来てないんですか?。」


笑顔の受け付け嬢からは目を背けたかったが

常連のヤスという中年冒険者が居ない事が

気になったので、仕方なく問い掛ける。


「えぇ、今日はいらしてません、

何時もならこの時間に新聞を両手に

世間への愚痴を溢してらっしゃるのに。」


何が面白いのかさっぱりだが

受け付け嬢は堪えきれない笑いをフフッと

吹き出した、

真面目な彼女が普段は見せない笑いだったので

何故か不思議な気持ちになった。


「そうですか、まぁ酒場で酒でも

飲んでるんでしょ、多分。」


「昼間からですか?、そんな怠惰は許しませんよ

臨時の依頼が入ったらどうするんですか

この町には冒険者が貴方を含め二人しか

居ないんですよ、もっと自覚を持って下さい。」


そう言うと受け付け嬢はムスッとした表情になり

そっぽを向いた

僕は全くの飛び火だったのだが

この表情を見ては言い返す事など出来ない。


「......」


「......」


「じゃあ、臨時の依頼が入ったら教えて下さいね

この町の何処かに夜までは居るつもりですから。」


「....」


沈黙が続き気まずくなったので

ギルドを出ようと思ったが、

何も言わずに出るのは

その後ギルドを訪れるときもっと気まずく

なるので、声を掛けたしかし

受け付け嬢は、依然ムスッした表情で拗ねている。


(これは時間が解決してくれる)


半ば祈る様に信じてギルドの扉を開いた、

外は陽射しが強く朦朧としている。


ギルドを後に町を歩く、

腰に巻き付けたおんぼろ袋を揺らし

足早に目的地に向かう。


今回町に来た目的はギルドでは無い

おんぼろ袋の中身を売って枯渇した食料

を手に入れることだ。


事実僕の生活は今非常に困窮している

住は父の所有物なので金の苦労は無いが

問題は食と衣だ。


父は足が悪いので売り込みは出来ない

本来なら僕が冒険者職でお金を稼いで

少しでも父に楽な生活をさせるのが道理だろう

しかしここは田舎の田舎、

冒険者など無職に等しい。


そんな境遇でも優しい父は

表では「頑張れよ。」そう声を掛けてくれる

しかし、僕が今頃父のために農業や王都への

出稼ぎに出ていたらこんな厳しい生活には成らない

だろう、父も裏では怠惰な息子に呆れている

きっとそうだ。


レンガ調の家を何件か越えると

町の人々が集まる、物凄く小さな市場がある

実際店として機能しているのは

数件だけなので

市場とは言い難いが今は市場呼ぼう。


「おぉ若年冒険者よ、親父は元気にしとるか?。」


六十代とおぼしき老人が

震えた手で肩を叩いてきた

何処の誰かも分からないが父の事を聞いている

ようだ。


「体調は優れているですが、足を悪くしまして

家で横になっています。」


実際分からないが自分なりに丁寧に

答えたつもりだった

すると、老人は顎に手を当て、黒目を上向ける

少々考えて此方を見据えると。


「そうか、そうかそれは気の毒じゃの。」


さんざん考えた挙げ句捻り出した言葉

にしては普通だななんて思ったが

父の足の事を心配してくれているのが様子で

伝わる。


「あの、これを売るところが何処か存じて

いるでしょうか?。」


腰に巻き付けたおんぼろの袋に手を置き

老人に見せたところ、

驚いた、と言わんばかり目を開いて

顔とおんぼろ袋を交互に見つめる。


「お前さん、薬草売りをしとるのかー

そうかー、親父さんの代わりをのー。」


顔には和やかな笑顔が見られた

どの感情からその表情に至ったのか

僕には丸で分からない

しかし、老人は懐かしいものを見るような目で

此方を見ると

「こっちじゃ。」そう言って案内を始めた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



老人が立ち止まる

どうやら目的地に着いた様子だ。


「ありがとうございました。」


一礼をして感謝の意を伝えた

老人はウンウンと首を動かし

「頑張れよ。」と言った。


何故かその言葉が胸に刺さった

何時父から掛けられる言葉、

どんな時でも父は僕を見放さず「頑張れよ。」

それだけを言って応援してくれる。


老人と父が何故か重なって見える

和やかな雰囲気に

優しい笑顔、

後を去る老人に向かってもう一度一礼をした

これは重なって見えた父の分の礼だ。


老人が角を曲がり見えなくなると

僕は恐る恐る魔術屋の扉に手を掛ける

薬草を売るのは初めてだ

父が足を悪くして三ヶ月程たったが

今日初めて出稼ぎをする

いや、出稼ぎと呼べるレベルなのかは分からない。


手をかけた扉をゆっくりと、ゆっくりと押す

中には沢山の薬草、魔術薬、魔術品がある

一体この田舎の町の何処でこんな物を作って

いるんだ?そんな疑問が頭に浮かぶ

カウンターには魔術帽に黒いローブを身に纏った

美人な女性がパイプ片手に此方を見据えている。


「こんにちわぁーなにかぁ、おさがぁしでぇー?。」


独特な喋り方で接客をする魔術師

美人だが何処かSっ気が有りそうな

一言で表すなら"悪女"が相応しいだろう。


「薬草を売りたくて。」


腰に巻いたおんぼろ袋に手を掛ける

何故かこの美人にこのおんぼろな袋を見られる

のは躊躇いがあった、美人に幻滅されたくない

という幼稚な理由かもしれないが、


魔術師はカウンターから身を乗り出して

おんぼろ袋を見つめると

僕の顔と交互に見比べてプッと笑った。


「少し若返ったんじゃーなぁあーい。」


何故笑われたのかは分からないが

この美人に笑ってる頂けるなら結構

そう思えるほどの美しい笑顔だった。


「そうですが?若返りましたか。」


今はこの人のノリに合わせようそう

思って調子を会わせたのだが

これまた彼女はプッと笑って「冗談よぉー。」

そう言って僕の目を力強く見つめる。


「ホントにぃー似てるぅーフフッ

薬草を売りにぃー来たんでしょぉー。」


何が冗談かも分からないまま話が

進むが、きっとこの人は父の知り合いなのだろう

そんな気がした、いや、似てる等という時点で

彼女は父の知り合いなのだ、

父の交流がとても広い事に感心している

本来ならば僕が父を感心する資格など無いのだか。


「父が足を悪くして、動けないので代わりを。」


その言葉を聞いたとたん彼女は驚いた顔をしたが

暫くして此方を見ると

カウンター越しに僕の肩に手をポンッと置き。


「お気の毒さまねぇー、頑張るのよぉー。」


さっきまでの驚いた顔から一転

彼女は笑顔だった

きっと僕の事を考えてのことだろう

この人はとても優しい人なんだそう思えた。


「はい、これからは自分が頑張らないと

いけませんからね。」


僕は自分が情けなく感じる

口では頑張る等と言うものの実際の僕は

親の気持ちを考えず田舎で冒険者という

肩書きだけの職業をやっている

実質田舎の冒険者は無職と等しいというのに。


僕の表情を見て何かを察した

彼女は「薬草ぉー買いとるわよぉー。」と

言って機転を利かしてくれた。


その行動でさらに自分という人間が情けなく

感じたがこれ以上彼女に迷惑を掛けまいと

おんぼろ袋に手を掛けた。


「最近わぁーこの薬草がぁー手に入らなくってぇー

困ってぇーいたのよねぇー。」


そう言って父と育てた

"カロウ草"を手に取り眺めている。


(ガロウ草、珍しいのか?)


家には幾らでも生えるので珍しい事が

疑問に思えたが

彼女は手早くカウンターの下の棚にある

銀貨の入った袋をドンッと僕の目の前に置く。


明らかに対価が合わないので

首を傾げると彼女は笑顔で


「これはぁー気持ちよぉー受け取ってぇー

くれたらぁー嬉しいなぁー。」


「いや、この量は頂けません。」


明らかにおかしい量の銀貨を前に

少し手が震える

両手を前に出して精一杯遠慮します感を

出したのだが彼女は悲しそうな顔をする。


「すみません、じゃあ半分だけ頂きます。」


彼女の顔がみるみる笑顔になり

本当に優しい人だと思った

世界がこんな人ばかりだったら

貧困なんて概念が無くなるんじゃないか

本気でそう思える。


「ありがとう。」


本当はこれ程の醜態をこんな優しくて素敵な

女性に晒したくはなかった

自分の情けなさがみるみる肥大していく

其なのにこの田舎で冒険者を続ける他ない

対立する二つの気持ちで押し潰されそうになるが

どうしても、王都に出る気にはなれない

あんな事があったのだから。


かといって、ここで農業をやる気にもなれない

冒険者をやりたいという気持ちは本物だから

そんな僕が、彼女に金を貰う資格が自分にはあるのか

銀貨を持つと何故か罪悪感すら感じる。


持っている銀貨の質量が倍に感じられる

この銀貨が罪悪感という感情を上乗せして

僕に重くのし掛かる。


あまり長くこの魔術屋に居るのも気が引けて

「ありがとうございます」そう言って

足早に魔術屋を出た。


外の空気が物凄く軽かった

自分という者を考えなくていい時間が

これ程に素晴らしいものなのかそうも

感じられた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ