俺の友人は死語がお好き
俺の通う学校には一人変わり者がいる。小学校からの親友である前田篤則。何が変わっているかは会話を聞いてもらえれば分かると思う。
「皆さま、おっはー!」
「篤則、それは女子が言うセリフだと思う」
「良平、男子が言ってもいいじゃあ~りませんか」
なんといううざさ。俺以外の生徒だったら脇腹に一発食らわせていたかもしれない。周りの生徒はドン引きしている。
「前田、あんたが使う言葉古すぎんのよ。いつの時代に生まれたの?」
「これはこれは生徒会副会長の安室由紀さん。あなたのお母様はアムラーですか?」
「なんで安室奈美恵の話になってんのよ」
「あなたアムラー知ってたんですね。じゃあシノラーは?」
「関係ない話しないでよ。『安室』が出た時点で安室奈美恵のこと言ってるのはわかったわよ」
由紀は篤則を睨み付けた。由紀、篤則とまともに相手したら疲れるだけだからやめとけ。
このように篤則は会話の中に最低一つは死語を出してくる。父親の影響らしいが影響されすぎだろ。
その後も篤則はホームルーム直前に来た生徒に「おそよう」と言ったり、担任の教師が来たら「皆さま、口チャックです」と言って勝手に仕切ったりとうざさ全開だった。授業中でも篤則の暴走は止まらない。
「前田、ちゃんと授業聞いてるのか」
「あたり前田のクラッカーです」
「じゃあ、何で寝てる」
「今日、耳日曜です」
「今日は金曜だ。ちゃんと授業聞け」
先生に対してこの態度は悪い意味ですごい。というか先生は意味知ってんのか? 俺にはさっぱりだ。
篤則の勢いは昼休みになっても止まるところを知らない。
「ご飯の時間ですね。では、いただきマンモス」
篤則は一人で何かを言っていた。誰に言ってんだろうな。
「この味は…インド人もびっくり! 美味しすぎてバタンキュー!」
クラスは失笑の嵐、お前の発言にびっくりするわ。
「ふー、結構食べましたがまだお腹は余裕のよっちゃん。購買部にでも行きますか。ではレッツラゴー!」
五分後、篤則が戻って来ると、ドアにセッティングされた黒板消しが篤則の頭に当たった。クラスは爆笑の嵐。
「ふっ、僕としたことがこんなものに引っかかってしまうとは…せっかくの花金なのに」
みんなは一斉に「は?」と言って篤則を見た。お前は何を言ってるんだ…。
六時限目が終わりホームルーム。
「前田、頭の白い粉みたいな奴はなんだ。チョークか?」
「ええ、昼休みにチェベリバなことがありまして…」
「もういい、お前とは話が成立しない」
先生にまで相手にされなくなった。篤則は「はぁ」と素っ頓狂な声を出した。
ホームルームが終わってみんなが教室を出ていく。
「良平、僕は先生に変なこと言っただろうか。MK5みたいな顔をしてたんだが…」
「朝から変なこと言ってるだろ。そもそもMK5ってなんだよ」
「良平『エム・ケー・ゴ』じゃない『エム・ケー・ファイブ』だ」
どっちでもいい。小学校から一緒だけど篤則はわからんことだらけだ。わかろうとする気は一切ないが…。
昇降口に着き篤則は靴を履き替え、「お先にドロンするよ。バイナラ」と言って颯爽と帰っていった。
今回出てきた死語 18個
おっはー(おはよう)
…じゃあ~りませんか(チャーリー浜のギャグ)
アムラー(安室奈美恵を模倣したファッション)
シノラー(篠原ともえを模倣したファッション)
おそよう(遅い+おはよう)
口チャック(静かに)
あたり前田のクラッカー(前田製菓)
今日、耳日曜(聞こえません)
いただきマンモス(バブル時代に流行ったらしい)
インド人もびっくり(すごく美味い?)
バタンキュー(バタンしてキュー)
余裕のよっちゃん(余裕)
レッツラゴー(レッツゴー)
花金(花の金曜日)
チェベリバ(超ベリーバッドの略)
MK5(マジでキレる5秒前)
お先にドロン(先に帰る)
バイナラ(さよなら)