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アンバランスワールド FILE.1「スキルアップガム」

作者: 9179Whiter

バイト先に好きな人ができた普通の青年。ただその青年は自分に自信が持てずにその子にアピールすらできなかった。そんなある日、ネットでとある記事を見つけ・・・。

僕はタクヤ。26歳フリーターだ。


突然だが僕は最近「恋」をした。それは最近始めたバイト先にいる女の子ミサキさんだ。

見た目も可愛く、仕事もよくできる。

そして僕が惚れてしまったのはミサキさんの笑顔だった。

つい自分も笑顔になってしまうような・・・。

なんだか気分が朗らかになって、優しい気持ちになれるような・・・。


ただ、引っ込み思案な僕にとっては「告白」なんてもってのほか、

まだ話しかけることすらためらっている。


僕は外見・性格・頭・力、どれをとっても至って普通の人間で、とてもミサキさんに似合いそうな人じゃないことは自分でも痛いほどわかっていた。

だからこそ、自信がない・・・。

そんなことを時折考えつつ毎日を過ごしていた。



ある日、僕は独り言を言いながらボーッとパソコンをいじっていた。


「へぇ〜、また芸能人の結婚の話題か。まぁ、最近は美男美女カップルだのいろいろとうるさい世の中になったもんだよ・・・。」


するとあるページに目をやった。


「なになに『このガムを使えばあなた自身の嫌いなところ、自信のないところをすべてカヴァーできます。ルックス・肌質・肉体などに自信のない方はこの『外見スキルアップガム』を、性格・頭脳・筋肉などに自信のない方はこの『内面スキルアップガム』をお使いください。効果は2週間ほど続きます!』ふぅ〜ん、ほんとかねぇ?」


半信半疑でページに目をやっていった。

すると「現在、お試しモニター募集中!当選者のモニターの方々には直接好きな方のガムをお届けします。」と書いてあることに気づいた。


「まぁ、ただなら応募してみるだけしてみるか・・・。」


とりあえず、外見が変わったらややこしくなりそうなので「内面スキルアップガム」の方を応募することにしてみた。


「こんなものに頼ろうとする自分が情けないな・・・。」


そうため息をつきながら応募した。



―そして、1週間後。

すっかり、応募したガムのことを忘れかけてたそのころ、謎の荷物が届いた。

中を見てみると一通の手紙が。


「おめでとうございます!厳正なる抽選の結果、当選とさせていただきます。あなたのご応募した『内面スキルアップガム』をお送りいたします。詳しい使い方については商品に同封してある説明書をお読みください。」


「まさか、本当に当たるとは・・・。自分ってこんなに運が良かったなんて・・・。」


驚きと喜びを抑えつつ、すぐに中に入っている商品を見てみた。

長方形の箱に4種類の丸いガムが入っていた。

そして早速説明書を読んでみた。


「この『内面スキルアップガム』には4種類の内面状のスキルを上げる効果のあるガムが入っています。それぞれの効果の持続時間は約2週間。使い方は以下をお読みください。

1. まず使いたいガムを口に入れ味がなくなるまでよく噛みます。

2. 次に、よく噛んだガムを膨らまします。

3. するとある程度膨らむと割れるので、後はガムを口から出して銀紙に包んで捨ててください。

4. これで2週間は効果が続きます。なお、効果は途中では消せないのでご了承ください。

もし、不都合などがあった場合はご報告してくれたらありがたいです。」


「なるほど、この4種類のガムを使えば内面が変化できるのか・・・。そうだ、これで自分のイメージチェンジをしてミサキさんにアピールしてみよう!」


僕はそう思って、左から一つ目のガムを手にした。

そしてそのガムの説明書を読んでみた。


「このガムは『筋力ガム』です。これを食べれば2週間ずっと凄い筋力を発揮できます!」


「ほう、筋力をアップできるのか。まずはこれをためしてみるか。」


そう思いながら、濃い情熱的な赤色のそのガムを噛み、膨らました。

そして「パチンッ!!」とゴムが切れたような少し大きな音が鳴った。

ガムを口から出してみると、さっきの赤色はすっかり落ちていた。


気づいたら体中に力がみなぎっていくのをひしひしと感じた。


「おおっ、なんだか無性に動きたくなってきたぞ!」


すぐにバイト先へと向かった。

いつものように雑用をさせられたが、今回はいつもとは違う。


「おおっ、とても体が動くし、それに全く疲れない!」


いつもは1時間かかる雑用も今日はたったの10分で終わった。

当然ながらみんなは驚き、一部からは尊敬のまなざしも感じる。


「う〜ん、力があるって最高!!」


僕は心の中でそう叫んだ。

仕事っぷりではミサキさんからも感心されるようになり

気分は上々だった。

おかげでミサキさんとも話すようになってきたが

話すのはすべて仕事関係のことばかり・・・。


「これじゃアピールはできても、仕事以上の付き合いなんてもってのほかだ・・・。」


そう感じつつも精力的に仕事を続けて2週間後。


すっかりガムの効果のおかげだということを忘れて働いていると

重い荷物を運んでいるとき、急に力が入らなくなったことに気づいた。

しかし、時すでに遅し。

落としそうになったのを必死にこらえようとしたその時「グキッッ!!」っと

辺りにも確実に響いたような音が周りに鳴り響いた。

そう、「思いっきり」腰をやってしまった。


すぐに病院に運ばれ、3日間の入院を余儀なくされた。



そして、3日後腰の痛みをすっかり落ちつき退院。

すぐに家に戻り、2つ目のガムに目をやった。


「ふぅ〜、すっかりガムの効果が2週間で切れるってことを忘れてた。死ぬかと思った・・・。」


そう思いつつ、2つ目のガムの包みを開けると今度はエネルギッシュな黄色い色をしていた。


「このガムは『健康ガム』です。これを食べれば2週間ずっと健康優良児の状態を維持し続けれます!」


「んな、健康になったってなんの意味もないような・・・。」


そう思いつつも一応ガムを食べてみた。

「パチンッッ!!」今度も部屋中に響くような音をたててガムが割れた。


「よしっ、今日からまたバイトをがんばるか!」


そう意気込んで仕事場にいった。

もちろん、ミサキさんや周りからは心配の声をかけてもらったが

「大丈夫ですよ。」と軽く笑いながら答えた。


今度は力仕事じゃなくて普通の仕事をやるようにした。


「これなら、周りの人からは腰をやったことで力仕事をやらなくなったと思われているだろう。さすがにガムの効果が切れたことは誰もわかるまい。」


そう思いつつ、仕事をこなした。


そしてガムの効果が続いてから1週間後。

突然、風邪がバイト先を中心に流行り始めた。

周りのバイト仲間の人たちはどんどんその風邪による体調不良で休んでいった。

とうとう次の日には自分とミサキさんと他数名しかバイトに来なくなった。

店長も風邪をこじらしてしまったようなので、その日のバイトは休みになり、

風邪をひいていない僕とミサキさんとバイト仲間とで一緒にお昼を食べた。


「まさか、ここまで風邪が流行るとはね・・・。」

「オレも若干のどに違和感を感じるよ。」

「しかし、ミサキさんとタクヤは最近ずいぶん元気だな。」


すると僕とミサキさんは答えた


「いや〜、僕はなんだか最近健康体で。すこぶる元気だよ!」

「私も最近健康体だよ!夜更かししちゃった次の日も体が軽いし。」


それを聞いてバイト仲間の一人が冗談まじりで言った。


「いや〜、二人はまさに『健康体カップル』だな!」


そう言われて僕は顔を赤くしながら


「そ、そんな・・・。カップルだなんて・・・。」


と言って、みんなで笑った。

その後家に帰るとさっきのことを思い出した。


「カップルか・・・、そんなの言われたの初めてだなぁ。」


と少しばかり自分に自信を持ち始めるようになってきたことを実感してきた。



そしてさらに1週間後経つと、風邪は嘘みたいに落ち着いて

みんなは普通どおりバイトに復活してきた。

それと同時にガムの効果も切れた。


そしてバイトが終わり帰ると、早速3つ目のガムに目をやった。


「よし、次のガムにも期待してみよう!」


そう言いながらガムの包みを開いた。

今度は落ち着きのある青色のガムだった。


「このガムは『頭脳ガム』です。これを食べれば2週間ずっとIQ180の超頭脳の持ち主となれます!」


「へぇ、頭が良くなれるのか。でもうちのバイトは頭をあまり使わないタイプだからな・・・。」


そう思いつつガムを噛んだ

「パチンッッ!!」とまた今回も爽やかな音を鳴らして割れた。



次の日、早速僕はバイトに行った。

もちろん頭を発揮するような仕事は特になく、

今日ももの運びやらをやっていた。


しかし、1週間後。商品の仕入れであるトラブルが生じた。


どうやら入荷する商品の値段が間違っていたらしい。

しかも今回はいつも以上に多くの種類のものを大量に入荷するため

とてもすべての金額を計算する余裕なんてなかった。

店長は慌てふためきながら「誰か、助けてくれ〜!」と

神頼みに近いことを叫び始めた。


すると僕は何かにとりつかれたかのようにその入荷一覧表に目を通し

すぐに紙にペンで様々な計算式を書き始めた。


周りの人や店長はあっけをとられたかのように僕のほうを見た。



そして10分後。僕はペンを置き、店長などに指示を出した。


「この商品は○○円で次の商品は△△円です!□□業者様にご連絡お願いします。次に・・・。」


店長はふとわれにかえり、僕の指示通りに周りのバイトたちと行動した。



そして、無事すべての商品の入荷が終わった。


「いや〜、君のおかげで今日は一命を取り留めたよ。本当にありがとう!さぁ、みんなも彼に拍手を送るんだ!」


その店長の指示で僕はみんなから惜しげもない拍手をもらった。


もちろんミサキさんも尊敬の目で僕を見てくれた。


その後も1週間の間は頭がよく働き、みんなからも「すごいな!」「頭いい!」といった言葉をもらうようになった。

もちろんミサキさんからも。


ただ、ガムの効果が切れた日の夜。

あることに気づいた。


「大分ミサキさんともバイト仲間を通じて親しくはなれた。でもまだ『友達』としてしか付き合えていない。このままじゃずっと気持ちを伝えきれないままになりそう・・・。」



そう思って、次の日最後のガムを手にした。


「このガムにすべてをかけよう!そしてガムの効果が切れる前にミサキさんに想いを伝えるんだ!!」


そう意気込んで最後のガムの包みを開いた

今までで一番平凡な緑色のガムだった。


「このガムは『感情ガム』です。これを食べれば2週間自分では気づかないような小さな内面の変化が起こります!」


「ずいぶんアバウトな説明だったな・・・。でもこれにすべてをたくそう!」


そう思って最後のそのガムを噛んだ。

「パチンッッ!!」といつものように部屋に音を響かせ割れた。

なんだか最後ということもあってか、どことなくむなしさが残った。



次の日、覚悟を決めて告白しようとしたが

何回言おうとしてもタイミングが合わず失敗・・・。


お昼休み。バイト仲間とミサキさんと食事を食べに行ったとき

バイト仲間がトイレに行ったとき2人きりになれたが

何気ない世間話しか出来なかった。


「このままじゃ、あっという間に2週間経ってしまう!」


あせりながらもその日は言えずに終わった。



次の日、バイトが休みで街中をぶらつきながら

「どういう風に告白しよう・・・。」と考えていると

重い荷物を持ったおばあさんが休み休みとぼとぼと歩いているのに気づいた。


僕は何気に通り過ぎようとし、おばあさんの横を通りすぎようとしたその時!

自分の中で「何か」が目覚めだした!

その瞬間僕は無意識におばあさんに


「その荷物お持ちしましょうか?」


と声をかけた。

もちろんおばあさんは「いいですよ」と言いながら断ろうとしたが

どうしてもその荷物を持ってあげようとうずうずする。


「いえいえ、ご遠慮なさらずに。」


など言いながらおばあさんの荷物を持ってあげた。

そして、おばあさんの家の前に行くとおばあさんは


「いや〜、本当にありがとうございます。実は本当は誰かの手を借りたかったんですよ。これはそのお礼としてもらってください。」


と言って、荷物の中からお茶をくれた。


僕は「じゃあ、お言葉に甘えていただきます。」と言ってそのお茶を片手に、おばあさんに別れを告げた。


「いや〜、人助けっていいもんだな!もしかしてこれがあのガムの効き目かな?」


そう思いながら街中で困っている人をほぼ無意識に手助けしていった。


その夜、僕は街中を歩き回った疲れで倒れこむように布団に寝転んだ。

そして今日1日のことを思い出した。


「今日はなんかいい1日だったな〜。人助けすることでこんなにいい気分になれるなんて知らなかった!」


そして次の日もバイト仲間と遊びに行くときも

親切心が大いにはたらいた。


電車で座れないお年寄りがいたら席を譲り、点滅の早い信号に困っているお年寄りがいたら手を貸してあげたり・・・。


「正直、自分でもこんなに親切をできるとは知らなかったなぁ。この調子ならばミサキさんに告白できるかも・・・!」


しかし、休みが終わり再びバイトが始まっても、ミサキさんとはバイト仲間を通じて話したり、一緒にお昼を食べるだけでそれ以上は何もない。


そして1日が過ぎ・・・、気づけば1週間が過ぎ・・・。


その間様々な人に親切心がはたらいたりはしたが

それも全くの無意味だったのかも、と今となっては思う。



そして、いよいよガムの効果が切れる日となった。


「どうしよう、このままじゃガムの意味が全くなくなっちゃう・・・。」


慌てながらもその日のバイトに行った。


仕事をこなしながらもいつ言うか何度も考えた。

でも気づけばバイトが終わる時間に・・・。


「もうこうなったらヤケクソだ・・・。」


そう思って「ちょっと話があるんだけど・・・」とミサキさんを呼び出した。


そしてミサキさんのほうを見た。

なぜだか今日は不思議ミサキさんの目を見つめながら話ができそうだ。

多分、いろんな見知らぬ人に親切なことをやってきたおかげかもしれない。


そして僕は言った。


「ミ、ミサキさん。ぼ、僕は前からあなたのことが好きでした!!もしよければ一緒に食事をするとかそんな程度でいいので僕と付き合ってください!!!」


台詞はまったく考えてなかった。

もう思いつく言葉を並べただけだった。


頭の中はほぼ真っ白になりながらミサキさんのほうを見た



ミサキさんはあの笑顔を見せてくれた。


まるで今まで待っていたかのように・・・。



そしてから1ヵ月後。

僕はミサキさんと手をつなぎながら街を歩いていた。


そして笑いながらあの僕の告白についての話題になった。


「実は私もタクヤさんのことが少し気になっていたの。色んな力仕事をテキパキとこなしていた時や、風邪が流行ったときのこと。それにあのトラブルのときのこととか、そして・・・。」


そこでミサキさんは少し黙った。


「そして・・・、何?」


「実は1ヶ月ほど前タクヤさんを街中で見かけてね、ちょうどおばあさんの荷物を持ってあげてた時だったの、それで親切にしているのを見てつい気になっちゃって。多分あの時から特にタクヤさんのことを気になっていたのかも。」


と微笑みながら言った。


僕も思わず

「見てたんですか(汗)あの時はなぜか、あのおばあさんが辛そうに荷物を持っているのが気にかかっちゃって・・・、いてもたってもいられなくなって持ってあげたんです。急にはたらいた親切心ですかね。」


と少し笑いながら言った。


そんなことを話しながら街の外れまで行った。


すると道の端の溝にハマってしまった車があった。

中に人も乗っていて


「誰か〜、時間がないんだ!早く溝から車を出してくれ〜!!」


と叫んで助けを呼んでいた。


どうやら中に乗っている人も、車体が大きく傾いているため

下手には動かないみたいだ。


でも、さすがにあの『筋力ガム』がない今は車なんか持ち上げられるわけないし・・・。


「さすがに助けようがないな・・・」


と僕も周りのみんなも思っただろう。

その車の周りの人が救助を呼ぼうしたらミサキさんがおもむろに


「ちょっとトイレ行ってくるね。待っててね。」


と行ってその場を離れた。


そして2分後ミサキさんが戻ってきた。

するとすぐに車に近づき

車体の下に手をやった。


するとその瞬間「ガッッ!ガガガ・・・。」と音が鳴り

車が持ち上がった!


僕はもちろん周りの人たちも口をポカーンと開けてその様子を見ていた。


「ガタンッ!!」と車が溝から外れ、車道に戻った。


「いや〜、ありがとうお嬢さん!それにしても凄い力だね〜!感謝するよ!!」


と言ってその車は去っていった。


周りの人は思わず拍手をし、僕もあっけにとられた。


そしてミサキさんのポケットから銀色のガムの包み紙が落ちた。


「なるほど・・・、風邪が流行ってたときにミサキさんが元気だったのも、今車が持ち上がったことでわかったな・・・。」


・・・END・・・

今回が僕のデビュー作となります!内容は「世にも奇妙な物語」をイメージした、この世界とはまた別の世界を舞台として書きました(だから「アンバランスワールド」ってなわけで・・・)。これからもこういった作品のアイデアが思いつき次第書いていきたいと思います!コメント・感想などお待ちしています♪

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