傷だらけの拳
そして現在に至るわけだが。
今も変わらず俺はスランプの真っ最中。
チームの大半は「この糞みたいなボールが治るまで試合には参加しない」などと口走り結局残ったのは俺を含め5人というプレイする競技を改めた方がいいのではないというくらいの体制で試合に出場している。
そのせいで練習試合もまともに相手をしてくれるチームもいなくなり、連盟に駆け寄っても相手にすらしてくれない。
無論公式試合なんぞ以ての外だ。
俺達は四冠王者だぞ!!と最終兵器「権力」を駆使したが、ふんっと鼻であしらわれた。
鼻でだぞ?悔しいからその場で泣きじゃくってやったよ。
そのおかげもあってか、良くしてくれる連盟の会長が練習試合を組んでくれた。
‥‥それがこれなわけ。
今回の相手アマチュアシニアチームのジジイ共という強豪チーム(笑)にすら12点も獲られ未だ1回の表という危機的状況に俺は心を失っている。
それに加えてジジイ共の提案により「ここから1点とられる事にピッチャーが一枚服を脱ぐ」という安い挑発に乗ってしまいもう既にパンツ一丁で恥辱に塗れながらマウンドに立っている。控え目に言って死にたい。
もう失うものは何もない。
もう過去の栄光に縋るしかないのか。
弱気な俺の心を奮い立たせようとしたのか、幼馴染の奏風塔子ちゃんはマウンドまでギリ聴こえるくらいの声量で呟いた。
「‥‥無様ね。」
うん、全然奮い立たなかったよ。控えめに言って死にたい。
まあ無理もない。
塔子ちゃんの本職は俺と同じ投手。しかも世間からは「終わりの巫女」と称される程の天才的な抑え(クローザー)である。
それなのに俺のリハビリに付き合わされここ数ヶ月まともにマウンドに立っていない。
チームの団結力の無さと俺のスランプで負けを重ね続けている事により彼女のストレス値はおそらく沸点ギリギリ間近なのだろう。
「‥‥‥負けました。」
負の感情が急速に溢れ出し俺は既に心がズタズタのグチャグチャに踏み潰され再び襲うであろう終わりなきリンチ(エンドレスゲーム)を予測し、13時46分。深く頭を下げ己自ら8度目の投了を下した―――。
まるで将棋だな。