四冠
暑さで身体中が汗まみれだ。
六回の裏ツーアウト満塁ワンボールツーストライク
得点は4対3で俺達が一歩リード――。
この回を抑えてそれであと一回無失点で抑えれば全国リーグ戦四冠達成となる。
いくら半アマチュア野球大会だろうが前代未聞の栄冠となるだろう。
きっとプロ球団のスカウトマンは皆俺に注目する(筈だ)。
しかしもう既に俺の肩はぼろぼろ。
肩を上げるだけでも激痛が走る。
伝家の宝刀ナックルボールを酷使しすぎたのか、いやきっとそうだろう。
自分で言うのもなんだがこの歳でこんなイレギュラーな変化球を投げるなんてそもそもどうにかしている。
あと一球投げでもしたら、選手生命に関わるだろう。
だけど、投げるッ――。
四冠もそうだが、ここまで一緒に頑張ってきた皆と優勝トロフィーを掲げたい。
そしてなにより―――。
優勝賞金一億円が欲しい‥‥!!
あと一球さえ投げて抑えることが出来れば、あとはきっとクローザーの塔子ちゃんが何とかしてくれる。
気温28度を超えるこの猛暑日にひゅっと一筋の風が吹く。
普通の投手ならこれが心地よいとだけ、もしかすれば邪魔くさい風と思うはずだろう。
しかしこのそよ風こそ今の俺にとっての大船であり相棒とも呼べる。
この風が止まぬうちに‥‥。
――今だァッ‥‥!!
次の呼吸をする暇もなく投球フォームへと移る。
これを勝てば四冠‥‥。
四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠四冠‥‥‥!!!!!!!
「四冠ンンンンンンーーーーーーー!!!!!」
その雄叫びと共に放たれたナックルボールにより六回裏は無事に抑えられたらしい。
そして七回裏も無事クローザーが抑えて優勝。晴れて俺達鼻水カッパエンジェルズは四冠達成。良かった良かった。
‥‥いや、正直それ以降のこと全然わからないんだわ。
だって俺それと同時にぶっ倒れて救急搬送されたから。
てへぺろ♪