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第8話 あの日の記憶


 そこは見るも無惨な光景だった。山は大きく削られ穴だらけとなり、山の麓すらも悲惨な状況となっている。そこには子供を預かる孤児院があったと言われても信じられないほどの惨状だった。


「素晴らしい、素晴らしい力だ!これだけの力があれば十分戦える!実験は大成功だよ!」


 香苗は自らが生み出したエンブリオの力を見て歓喜した。海乃の襲撃により一時はどうなることかと思ったが、多くの犠牲を払ってでも完成を早めたのが功を奏した。


「これまで慎重に研究をしてきた甲斐があったようだ。これだけの力を得られたのもお前のおかげだよ、優香」

「え、恵美……」

『…………………』


 無数の光の槍で海乃を攻撃した恵美は、その場に立ったまま次の命令を待っていた。すでに自我は失くされ、香苗の命令でのみ動く人形と化しているのだ。


「私の右腕を奪った報い、しっかりと受けてもらったよ。その命を対価にね、ハッハッハハッハハハ!!!」


 海乃は恵美の放った無数の槍を防ぎきれずまともに受けたことで、その姿は瓦礫に埋もれてしまっていた。


「私の復讐は済んだ。次は、お前の番だよ優香」

「え?!」

「エンブリオは完成した。しかし完璧とは言えない。計画では十分な力を得られるはずだったんだが、襲撃により計画を早めたことで中途半端になってしまった。そこでオリジナルであるお前の力を取り込むことで計画通りの、いやそれ以上の作品となるのさ!」


 香苗の作り出した恵美を始めとした八体のエンブリオは、優香の持つ力である魔導王の力を取り込んでいる。当時の計画では八体全てが強大な力を持つはずだったが、計画を早めたことでエンブリオたちの力にバラつきが出てしまっていた。それを修正しさらなる力を得るため、香苗は優香すらも標的に定めたのだ。


「さぁ優香、最後の仕事をしてもらうよ!」


 恵美は再び力を増幅させ白いオーラを纏う。手と足に魔法陣を展開させ臨戦態勢に入った。


「い、嫌、嫌だ!恵美と戦いたくない!」

「私に恩返ししてくれるんだろう?ならば大人しくその力をよこしな」

「また力を、貸せばいいの?」

「いいや、貸すんじゃない。譲るんだよ。ちなみに神の力を失った神殺しは、死ぬ。神殺しにとって神の力は、自らの生命力でもあるからね」

「そ、そんな!」


 優香は子ども達を救うためなら命をかけるつもりだった。しかし今となっては、子ども達は香苗によって改造されてしまった。今自分が命をかけ、力を親友である恵美に与えれば、香苗の研究が完成され、子ども達がさらなる苦しみを受けることになるかもしれない。


「だからこそ、親友に力を与えさせてやろうじゃないか!自らの命と引き換えに親友に力を与えられるんだ、名誉なことじゃないか!私への恩返しにもなるし、子供達を救うことにもなる。これはお前のやりたかった事だ、そうだろう?」

「違う、私は……」

「ま、なんだっていいさ。……覚悟はいいかい?優香」

「ま、待って、やめて!!」

「恵美、やりな!私の研究完成のために、親友の願いを叶えてやるために!岡本優香を殺し、力を奪え!!」


 瞬間、閃光が発せられ恵美は姿を消した。それは高速で移動したのではなく、先程までいた七体のエンブリオ達も使用した、転移魔法だった。そのことに優香は気づいたが、すでに恵美は両手に白く光る槍を持って優香の後ろを取っていた。


『……ッ!』

 「くッ!!」

「ほう?今のを避けるとはね。だがそう長く続くのかい?海鳴り姫との戦闘はさぞかし疲れただろう?ハッハッハッ!!」


 優香は再び風を纏い、恵美の攻撃をなんとか避けることができた。優香は後方に飛び恵美との距離をとったが恵美はさらに力を増幅させ、足元に魔法陣を展開する。


「また、転移!」

「さあさあ今度はどこに転移するのかねぇ?」


 優香は纏う風の勢いを強くし、周囲を警戒した。そしてまたもや一瞬の閃光と共に恵美が転移する。しかし優香の周囲に恵美は一向に姿を現さない。


「ど、どこに、まさか……ッ!?」

『…………ッ!!!』


 恵美は優香の頭上に転移していた。優香はその重力落下によって重みが加わった一撃を暴風を起こすことでなんとか受け止めた。


「ぐッ!こんのおおぉぉぉぉおお!!!」


 優香は暴風をさらに強め、恵美を押し返し吹き飛ばした。恵美はバランスを崩しそのまま瓦礫の上に落下した。


「え、恵美!!」

「おいおい、敵を心配するのかい?優しいねぇ。しかし、もっと自分のことを心配したらどうだい?」

「え?……きゃッ!」

 瓦礫の上に落下した恵美はすぐさま立ち上がり、両手に持っていた光の槍を優香に向け投擲した。優香はそれを暴風の壁で防いだが、投擲と同時に優香の背後に転移していた恵美の白い光の波動によって大きく吹き飛ばされてしまう。


「ぐッ、恵美……」

『………………………』


 優香を吹き飛ばした恵美は再び白い光の槍を持ち、優香に向けて歩き出す。優香は吹き飛ばされた影響で動けず、風を起こすこともできないでいた。

 ついに恵美は優香の目前まで迫り、手に持つ光の槍を頭上に振り上げた。


「ようやく、ようやく私の研究が実を結ぶ!本当に感謝しているよ、優香。これで、終わりだ!!」

「お願い……目を……覚まして」

『………………………………ッ!!!!」

「目を覚まして!!!恵美!!!!」


 恵美は振り上げた白く光る槍を優香に向けて振り下ろした。しかし光る槍は優香に到達しておらず、槍を持つ恵美の腕は何かに遮られるように停止していた。


「………優………香………」

「恵美!?」

「ッ!何をしている恵美!そいつをやれ!そして力を奪うんだ!命令だ!!」

『…………ッ!』


 一瞬止まった恵美の腕が再び振り上げられた。さらに恵美は力を増幅させ、白く光る槍を巨大化させていく。やがて白く光る槍は天にまで届くほどの超巨大な槍となった。


「こ、これは!?力が、暴走している!?」

『…アッ……アアッ…ユ……ウ…カ………ウッ………』


 恵美は超巨大な光の槍を振り下ろしていく。それは膨大な光を放ちながら徐々に迫り、やがてあたり一帯、視界全てを白く染め上げていく。


(ごめんね、みんな。救ってあげれなくて。ごめんね、恵美。苦しい思いさせて。ごめんね、神斗。もう、会えないよ)


 優香は超巨大な光の槍が放つ輝きに包まれた。

 しかし、その時だった。視界全てを染め上げていた白い光が、赤い閃光に塗りつぶされた。やがて光がやんでいくと、周囲が燃え盛る炎によって囲まれていた。天まで届くほど巨大な白い光の槍は炎に包まれ、崩壊を始めていく。その後炎は生き物のように動いていき、恵美を炎でできた壁に閉じ込めた。


「こ、これって……」


 優香はこの不思議な光景を見て、何かを思い出しそうになった。しかし当時の記憶は香苗によって消されており、思い出すことができない。


「な、何が起きてるんだい?!いや、この現象、前にも……まさか!!」


 赤い閃光と共に、先程まで雨を降らしていた空の厚い雲に大穴が開いていた。大穴が開いているのは優香たちがいる場所だけで、それ以外の場所は未だ雨が降り続いている。そして、ぽっかりと空いた大穴から何かが落ちてくる。それはだんだんと近づくにつれ人の形を成していく。大穴から落ちてきた、もとい降りてきたのは赤を基調とし、黒や白、金色で装飾されたロングコートを着た黒髪の青年だった。


「十年ぶりだな、疫病の魔女」

「神殺しの王、天帝!!!」


 その青年は神殺しを束ねる王だった。優香はその青年を見て驚愕した。なぜなら、その人物は優香にとってよく知った人物だったからだ。


「か、神斗?神斗なの!?」

「ああ、俺だよ、優香。また会えて本当に良かった」


 大穴から降り立った青年、香苗が神殺しの王と呼んだ人物とは、優香の一つ下の後輩で、雁光高校の生徒会長で、優香の恋人である王谷神斗だったのだ。

 

「な、なんでこんなとこに?!て、ていうか、え?え?!」

「お、落ち着いて優香!ちゃんと説明するから」

「お前たち、知り合いだったのか?!」

「まぁな。知り合いというか、恋人の仲だが」


 優香は混乱のあまり頭の中が真っ白になってしまった。普通の高校生の彼氏で、自分と違って一般人だと思っていた人が、自分と同じような不思議な力を持っている人間で、ましてや神殺しの王と呼ばれる存在だったのだ。すぐに理解できるほど小さな話ではなかった。


「こ、恋人だと?!そんな偶然起こりえるのか!?……いや、これは偶然というより必然と言うべきか。お前が十年前の山火事の時に現れた時から、こうなるのは運命だったと言うのか!」

「……山火事の時?……神斗が?……ッ!!うッ!、くッ!うぅぅぅぅ!!」

「どうした優香!?大丈夫か!?」


 優香は突然頭を抱え、何かに耐えるようにその場でうずくまった。


「あ、頭から、な、何かがッ!」

「おいおい、嘘だろ?消したはずの記憶が、蘇ろうとしている?!」

「消したはずの記憶……ッ!そうか!優香落ち着くんだ。落ち着いて、頭の中を集中させろ」

「頭の中を、集中?」

「そうだ。魔女は確かに優香の記憶を消した。しかし記憶が消される瞬間に記憶のコピーを作り出していたら、記憶を再生させられるはずだ!自分の頭の中を覗き込み、探し回るんだ」

「な、何を言っているんだ?!記憶のコピー?そんなことできるはずないだろう!ハッタリだ!」


 確かに神斗が言っていることはなんの根拠もない。しかし優香の消された記憶が蘇ろうとしているのも事実だった。優香は神斗の言う通り、頭の中を集中させ記憶を探す。すると優香の頭の上に白い光の魔法陣が現れた。魔法陣はまるでデータをスキャンするかのようにゆっくりと優香の頭を通過していく。やがて優香は頭の中にかすかに光る何かを見つけた。その瞬間光る何かは爆発したかのように優香の頭の中に広がっていった。


「こ、これが、私の消えていた記憶……」

「どうやら上手くいったみたいだな」

「そんな、馬鹿な……ありえない。消した記憶が蘇るなんてこと」

「いや、消えた記憶が蘇ったんじゃない。優香は記憶が消される瞬間、無意識に複製魔法で記憶をコピーしていたんだ。そして今、記憶のコピーを見つけ出し、再生魔法を使って記憶のコピーを復活させ記憶に定着させたんだ」

「複製魔法に再生魔法!?そんな高難易度の魔法使えるはずがない!!」

「いいや使えるさ。なんたって優香の持つ力は、あらゆる魔法を操る“魔導王”の力だからな」


 優香は立ち上がる。


「全て、思い出した。家のことも、追いかけられたことも、山火事のことも、そして自分の力のことも。私はもう悩まない!迷わない!私は、私の信じる道を堂々と突き進む!!」


 強敵との戦い、驚愕の事実の連続、この日優香は何度も悩んだ。何度も迷った。しかしその全てを乗り越えて立ち上がった。その姿は凛々しく自信に溢れた姿だった。


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