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第10話 進むべき道


 ドゴオオォォンン!!ドゴオオオォォォォンンンン!!!!

 魔女と王の戦いは苛烈さを増していた。疫病でできた紫色の波動が放たれれば炎の波によって飲み込まれ、炎の渦が放たれれば瘴気が取り巻き腐敗させた。


「ほう、俺の炎を腐敗させるか。図体がデカいだけじゃないようだな」

『ハッハハッハハッハ!!貴様の炎は私には効かないんだよ!』


 神斗の炎と香苗の瘴気は何度もぶつかり合い、相殺し合っていた。それはまるで互角の戦いに思えるが、実際はそうではなかった。


『ハッハッハハ……ハァハァ、なぜだ。なぜ私が押されている……』


 香苗は徐々に神斗に押されていた。最初は圧倒的なエネルギー量で神斗を押していたが、時間が経つにつれ神斗の力が押し返し、神斗の炎が香苗に届くようになっていたのだ。


「たとえお前がどれだけ力をつけようと、俺には勝てん」


 神斗は炎の渦を香苗に向けて放つ。香苗はもう一度瘴気で炎の渦を腐敗させようとするが、炎の渦の勢いに瘴気は近づくことができず霧散してしまう。香苗は疫病の波動でなんとか炎の渦を防ぐが、渦の中に紛れ込んでいた神斗が特大の火球を超至近距離で、香苗もとい疫病の怪物にぶつけた。


『があああぁぁぁ!!!……ぐうぅぅ!こっのガキが!!』

「俺は自らの力を磨き、神殺しの王の座まで上り詰めたんだ。自らを高めようとしなかった貴様に負けるわけがない」

「すごい……これが、神殺しの戦い」


 超至近距離で巨大な火球をまともに食らった香苗は、その高熱に苦しみの声をあげた。しかし疫病の怪物はすぐに体勢を整え、その疫病で出来た紫色の巨腕を天に振り上げた。


『私を舐めるのもいい加減にしな!!』


 振り上げられた巨腕に疫病の力が集まっていく。やがてそれは禍々しい紫色の巨大な球体となった。


「来い疫病の魔女!俺は貴様の全てを焼き尽くすと決めた。そして貴様に完全なる敗北を与える!」

『くらいな!!救い無き苦行ーー”病苦の弾痕“(モアネナ・ラササ)!!!』  


 疫病の怪物は生み出した紫色の巨大な球体を投げ放った。それはゆっくりだが周辺を腐敗させながら確実に神斗に迫っていく。


『さあ苦しめ!全てを腐敗させる瘴気と全てに苦しみを与える疫病の力だ!!焼き尽くせるものなら焼き尽くしてみろ!!』

「……確かに、この瘴気と疫病の塊はそう簡単には焼き尽くせそうにないか」

「神斗!逃げて!!」


 香苗の放った瘴気と疫病の球が神斗に直撃した。やがてその禍々しい球体は神斗を覆っていく。


『終わった。これは完全に終わったよ。奴の炎ではこの攻撃を焼き尽くすことは絶対にできない』

「そんな、神斗……」

『優香、お前さんは知らないと思うから教えといてやるよ。私の力、ネルガルはバビロニア神話の戦争と疫病の神だ。しかし神話の中では別の姿があるんだよ。それは、太陽神。ネルガルはバビロニア神話では太陽神の側面もあるんだ』

「太陽神ということは、炎に強いってこと?だから神斗の炎では焼き尽くせないってこと?」

『ざっくり言えばそうだな。奴の力も私の力と同じ太陽神の力なんだよ。奴の生み出す炎は太陽の力。私の力には太陽神の側面もあるため、奴の生み出した炎は効きにくいということさ』


 香苗はネルガルの力を操る。それは疫病を操り、戦争の火種を作り出すこと。そして太陽神の側面もあることから、香苗は太陽の力に対する耐性を持っていた。そして香苗が明言したとおり、神斗の持つ力も太陽神の力だった。そのため神斗の炎では耐性のある香苗にはダメージが通りにくいのだ。


『そして今の攻撃には太陽神の力も含まれている。それは、太陽の力に対する耐性を持ったあの攻撃を焼き尽くすことはできないってことさ!』

「じゃ、じゃあ、神斗はあの攻撃を防げずに、あのまま……」

『そう!あの愚王は私の力を見誤った。結果永遠に苦しみを味わい続けることになったのさ!ハッハッハハハッハ!!』

「そんな……神斗までいなくなったら……私……どうしたら……」

『安心しな。お前さんは親友の恵美の力として生き続けるんだからね!』


 優香はこの日、命を救ってくれた恩人だと思っていた人に裏切られ、助けるべき子ども達と親友を失った。ついには恋人である神斗まで失ってしまえば、生きる意味を失うも同然の状況に追いやられたのだ。

 優香に怪物となった魔女の手が伸びてくる。その手に捕まれば力を奪われ、命までも失ってしまうのだろう。しかし、香苗はその腕で優香を捕らえる前に、周囲の異常に気づいた。


 『なんだ?この暑さは?さっきから奴の炎のせいで暑かったけど、なんだかより一層暑くなっているような……』


  その熱が発せられていたのは、香苗の放った疫病の球体に覆われそうになっていた神斗からだった。神斗を覆おうとしていたその球体は、神斗の発する熱の前に焼かれており、覆うことができないでいた。

 

「残念だが、この攻撃も俺には効かないようだな」

『……なぜだ、今の攻撃は太陽神の加護があったのに……なぜだ!?』

「単純な話だよ。お前の力であるネルガルは確かに太陽神の側面も持っている。しかし主な神格は戦争と疫病の神、太陽神は副次的な力に過ぎない。対して俺の持つ力は……」

『エジプトの太陽神にして天空神、ホルス!』

「そう。俺の力であるホルスの主な神格は太陽神。つまりは貴様の持つ太陽神の力は、俺の持つ太陽神の力の下位互換にあたる。貴様程度の力では俺の力を防ぐなど絶対にできないんだよ」

『それでも、ただ力を高めただけで私の疫病の力ごと焼き尽くすなんて、これが神殺しの王の力か……』


 その時優香は悩んでいた。自分は何もできないのか、ただ守ってもらうだけなのか、自分のやるべきことは何なのか。自分は今なんのためにここにいるのか。


『なんで、なんでそこまで邪魔をする!私が非人道的な実験をしたからか!?お前の恋人を傷つけたからか!?私はただ、あの人のために!!』

「お前が誰のために何をしようが俺には関係ない。俺はただ、自分の信じる道を進むだけだ!誰かのためでも、何かのためでもない、ただひたすらに自分を信じる!それが、俺の"覇道"だ!!」


 優香は思い出した。香苗に消されていた記憶の中にあった、その言葉を。勇気をくれ、自分の進むべき道を教えてくれる、魔法の言葉を。


「貴様は俺が突き進む覇道の邪魔になる。だから倒すんだよ。さぁ、覚悟はいいか?」

『ちっ!なら、私も自分の信じるもののために戦うよ、こいつとね!!』


 その時突然、神斗の背後に一つの影が現れた。


「ぐッ!魔女の子供!?」

『忘れていなかったかい?私の作品、エンブリオの存在を!私の力でお前を倒せなくても、私の研究成果がお前を倒す!覚悟をするのはそっちの方さ!』


 神斗の背後に現れたのは、先程神斗の放った巨大な火球を受けた恵美だった。体のいたるところが焦げ黒い煤が付いていたが、怪我は全く負っていなかった。さらに力を増幅しているようで、両手には濃密な光で出来た槍を持ち、頭上に構えていた。恵美が両手の光の槍を神斗に向け振り下ろそうとしたその時、さらに神斗と恵美の間に一つの影が現れる。


「神斗、香苗先生をお願い。恵美は、私が必ず助ける!!」

「なッ!優香!?」


 神斗と恵美の間に現れたのは優香だった。優香はその手に風を纏わせた光の槍で恵美の振り下ろした光の槍を受け止めていた。しかしその姿は一瞬で消え去った。攻撃を受け止められた恵美と共に。


『き、消えた!?まさか、転移魔法か!』

「だろうな。模造品であるあの子に使えるのならば、オリジナルである優香も使えるに決まっている。それにしても、かなり遠くに転移したようだな」

『ありえん、転移魔法は超高難易度の魔法だ。それに転移する距離に応じて大量の力を必要とする。炎の壁の外まであの一瞬で、さすがは魔導王の力といったところか』


 優香は転移魔法を使用したのだ。神斗の邪魔をさせないために、そして親友を救うために。


「そうか、優香。君は自分の進むべき道を見つけられたんだな。そう、それが一番大切なことだ」

「何をほざいている、お前の恋人のピンチだぞ?優香じゃあの子には絶対に勝てない、死ぬよ?』


 神斗は振り返り、疫病の怪物となった香苗を真っ直ぐ見据える。


「優香に託されたんだ」

「なに?!」

「貴様を、絶対に倒すことを!!」


 先程までとは明らかに火力の違う炎を纏った神斗は、瘴気と疫病を振りまく怪物に向かって飛び出していった。



 ――――――――――――――――――――――



『………………ッ…………ッ!!』

「恵美!……くッ!」


転移させられたことに気がついた恵美は、槍で優香を弾いた。


「絶対に、絶対に約束は果たすからね」


 恵美は優香の力を信じてくれた。そのことで優香は自信を持て、覚悟を決めることができた。優香は子ども達を救うことができなかったが、せめて目の前で苦しみ続けている親友を救いたいと思った。


「恵美、ここがどこかわかる?」


 優香が恵美と共に転移してきたのは、とある学校のグラウンドだった。


「ここはね、何度か恵美に話した私の通う雁光高校だよ」


 そこは誰もいなくなった夜の学校だった。


「学校に行ってみたいって言ってたよね。だから、連れてきたんだよ」


 恵美はカース・マリーを患っているとされていたため、水鳥院の外に出ることができなかった。そのため優香は、外の世界について色々話をしていた。学校の話をしていた際には恵美は学校に行くことに憧れを持っていた。優香はそれを思い出し、転移で神斗の邪魔をしないようにするのと同時に、恵美の願いを叶えようと思ったのだ。

 しかし、恵美は構わずに優香に攻撃を仕掛けた。


『…………ッ!!』

「ぐぅぅぅッ!まだ、まだだよ恵美!」


 優香は恵美の攻撃を風を纏わせた槍で防ぐ。さらに優香は力を増幅させ、足元に白く輝く魔法陣を展開させた。


「もっと、恵美が外で行きたがってたとこに連れて行ってあげるから!」


 足元に展開された魔法陣が輝きを増していく。その白い光は優香と恵美を包んでいく。


「自我を失っていても、記憶は残っているはず。私が恵美の自我を取り戻して、目を覚まさせる!」


 優香と恵美は白い光に包まれながら新たな場所へと転移していった。



 ――――――――――――――――――――――



「トール様、侵入者の討伐完了しました」

「そうか、わかった。下がってよい」

「はっ!」


 そこは巨大な城の中だった。椅子に座る大男の前に跪き、報告を終えた兵がその場を後にする。


「しかし、人間界から侵入者が来るとは、予想外にもほどがあるぞ」

「申し訳ありません。これは我々神殺しの失態であります」

「よい。しかしあいも変わらず強いな、お主らは」

「お褒めに預かり光栄であります」


 大男の隣には、眼鏡をかけ刀を持った青みがかった黒髪の女性が立っていた。


「にしてもだ、そなたら神殺しも大変よの。神界の神々からは毛嫌いされるも人間界と神界の調和を保つ任を持っているのだからな」

「我々神殺しは神の力を持った人間、当然の任であります。それに今回は我らが王からの勅令でありますゆえ」


 大男の隣にいる女性は、神斗からの命令で各神話体系で暴れるエンブリオの討伐に向かった神殺しだった。


「侵入者は対して強くはなかった。被害もないに等しい。しかし、気になるのは侵入者の持っていた力だ。あの力、まさかとは思うが……」


 その世界に侵入してきたエンブリオは即座に大男の隣にいる女性と、その世界の戦士達によって討伐された。しかし大男はエンブリオの持つ力に気がかりがあった。


「まぁ近々神王会議もあることだ、その時にでも確かめればよいか」


 大男は笑みを浮かべる。巨大な槌を持ち、雷を迸らせながら。


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