2 ロジックの考察(盲点となっている矛盾について)
今回は、ロジックについての考察をする。僕は、ロジックを仮に、手がかりの配置として考えてみることにした。どこにどんな手がかりを配置するか。
実をいうと、ロジックは苦手である。毎回、悩まされている。僕は、ロジカルなミステリーを書かれている作者様を何人か知っているので、その方々の創作論とは到底比べものにならないことを自覚しているが、いい機会だから、僕は僕なりに、理論を整理しておきたいと思った。もし理論を整理することができれば、もっと上手にロジックを展開することが可能になるかもしれない。
考えてもみてほしい。僕はミステリーとは謎さえあれば良いのだ、と述べてきた。その根本は変わらないと思う。しかし、本格推理小説というものを書いてみたいと思った時に(僕の中で、この言葉の意味は異なる)謎があって、真相があるならば、それをつなぐ「推理」が必要になってくる。謎があって、真相があっても、推理がなかったら、それはただの想像である。想像小説である。本格想像小説ということになってしまう。
○謎→推理→真相
×謎→想像→真相
さて、ミステリーにおける推理とはなにか。それは「手がかり」から論理的な過程を経て「真相」を導き出すことだろう。
そして、手がかりとは何かと言ったら「犯人のミス」なのである。
犯人側のトリックを作る場合も、これは逆説的な話だが、それが完全犯罪として成り立ってしまったら、推理小説にはなり得ないのである。
もう一度記す。手がかりとは犯人のミスのことである。
犯人のミスがなく、手がかりがひとつも残されていなければ、探偵は、謎から真相を「想像する」しかなくなってしまう。つまり、犯人はミスをしなければならない。
犯人の足跡が現場に残っているのは「犯人のミス」だが、こうしたものが「手がかり」として機能するから、推理の足がかりとなる。
しかし、露骨すぎる手がかりは、残念ながら推理小説の手がかりにはふさわしくないのである。
犯人は男性で、女装して殺人を行ったのだとしよう。目撃者は「犯人は女性だった」と語っているとしよう。この場合、犯人が実は男性であったことが分かる「ミス」をどこかに作らなければならない。ここで、もし、ミニスカートから見える足に、すね毛のジャングルが広がっていたとしたらどうだろうか。
刑事「しかし、どういうわけかね。そろそろ真相を教えてくれんかね」
探偵「おかしいとは思いませんか。この犯人と思われる人物は、ミニスカートを履いていました。そこから見えている足は、すね毛のジャングル地帯だったそうです」
刑事「それが、どうしたのかね」
探偵「いくら毛深い女性だったとしても、ジャングルとまで化しているのはいくらなんでも不自然です。そこで、僕は考えました。この犯人は、女性ではないのでは、と。女性ではないとしたら……」
刑事「男……?」
探偵「ええ。2ー1=1です。男女ー女=男。つまり、犯人は男性だったのです!」
このようになる。どうだろうか。手がかりにはなっているが、あまりにも露骨だと、たちまち読者にバレてしまうし、そもそも他の人がこの矛盾に気がつかないのは不自然である。もちろん、面白みのある推理でもない。
ここで、重要なのが、手がかりとは「犯人のミス」であり、それは主に状況の矛盾点、あるいは状況的に不自然な点であるが、それが一見分かりづらい「盲点となっている」ことが条件になってくるのである。
手がかり=犯人のミス=盲点となっている矛盾点