7.脅し
「僕は藻ノ 守理です。」
「はい。」
医者と話していると、前世の記憶を思い出す。
俺は24歳だった。
初めて入った会社でそこそこの成績を収めつつ過ごしていただけだった。
「は、はい。」
「…由々子さんと仰るんですね。」
「…先生?」
この人を信頼したものか……どうなんだ?
名前も言わないし。
「あ、僕の名前ですか。僕の名前は、」
「うん。」
「早吹 萱です。」
「萱!?」
は!?
かや?
萱、
かや?
俺が頭の中でずっと頼っていたお兄さんだ。
俺と一つ違いで……いや、もう良いんだ、前世のことは。
俺はどうせ死体だったんだし。
「萱、せんせい?」
「はい、そうですよ。藻ノくん。」
「萱!」
「…え?」
なんか、怖い。
早吹 萱って言うんだ。
先生なんだ。
早吹 一志だった俺は、今となっては藻ノ 守理。
「父さんの名前は藻ノ 筒木だぞ。」
「つづき?」
「ああ。」
あー、と溜め息を吐いた我が父筒木は、藻ノという苗字に似合って真面目さの中にも一途さと適当さがあるような人だった。
かくして、私は仕事人間ではなかったのだが……という適当さを思い付いたのだが、僕は、俺は……早吹 一志、だった。
一回くらいは私と言ってみたくなるものだ。
「萱ではありますが。」
「先生、この糸どうするの?」
え?




