36話 森の中で2
遅くなりましたが投稿しました。24時というのは予定でしたので……
それでは、どうぞ。
「バーキィが暴れてる間に奴を捕らえないとね……けど」
オーゼンは今走っている。バーキィが現れた瞬間に、物凄い速度でローブは逃走したのだ。
その瞬間を逃さず、オーゼンは追跡している。
だが、オーゼンの速度ですら追いつくことが出来ない。
(なんて速さだ……)
ローブは木々をすり抜け、出来るだけ速度を落とさないように逃走していた。
オーゼンも木々をすり抜けはするが、素の速度が違うため追いつけない。
このままでは見失ってしまう、と思ったオーゼンは戦技を発動した。
「【風脚】」
移動系戦技【疾風】とは別の戦技だ。この戦技は【疾風】とは違い、一瞬の速度ではなく、速度を持続と強化させる戦技だ。【疾風】より瞬間速度は遅いが、普通に走るよりは速い。だが、その戦技を発動している間は闘気を消費してしまうため、長い間の発動は使用者を苦しませる。オーゼンの闘気の量なら、持って三分が限界だ。
(早く捕まえないと僕がくたびれちゃうからね)
戦技を発動したオーゼンはグングンとローブ迫っていく。
(捕まえたッ!)
手を伸ばしてローブを捕まえようとする。
が、それに気づいたローブは更に速度を上げた。
もう少しで手が届きそうなところで加速されたため、突き出していた手は空を掴んだ。
「……まだ上げれるのか」
その後ろ姿に向かって呟いた。驚いたオーゼンだが
引き続き追跡を開始する。
だが、加速したローブには追い付けずにただ後ろをついていくだけだ。
むしろ少しずつ距離を離されていることにオーゼンは焦る。
この時点で一分は経った。
(仕方ない……。【疾風】」
オーゼンの体が前へ加速する。
短い間隔で【疾風】を使い、ローブに接近していく。
そうすることによってオーゼンの闘気は残り少なくなっている。
(【疾風】……!!)
「ぐっ」
途中、木に激突しかけるが、回避する。
少しだけ肩を掠った。
オーゼンが【疾風】を発動しなかったのは木々が原因だ。
密集というほど木が生えているわけではない。
だが、ローブはその木々を縫うように逃走しているために、【疾風】を使って距離を詰めるということは出来なかった。【疾風】は発動すると、使用者の体を瞬間的に加速させる。しかし、途中で停止はできないのだ。ローブを追って加速し、その先に木があると激突してしまう。そのため、オーゼンは【疾風】の発動を避けていたが、相手の速度が異常なために仕方なく【疾風】を発動させた。
(広い場所じゃないと【疾風】は活かせないっていうのに……全く、嫌になるね)
必至に木を避けながら追跡していく。
そうして少しずつ近づいていったが、オーゼンの体が突然固まる。
そして転倒。木に激突しなかったのは幸いだろう。
「くそ……闘気切れか……気絶しない程度には残ってるだろうけど、動けないなぁ」
手や顔は動かせるが、肝心な足が動かないため、立ち上がれない。移動系戦技を長く発動していたためだ。その状態で腕を使い、なんとか仰向けにする。
「はぁ……逃してしまった。けど、このままじゃ魔物に食われちゃうな。バーキィ、早く来ないかなぁ……」
上を見ながら呑気に呟いた。木々が生い茂っているので空は見えない。すると、横から足音が向かってくる。その足音を聞いてバーキィが来たと思ったオーゼンは、横に顔を向ける。だが、そこに居たのはバーキィではなかった。
「なっ!?」
「よう。惜しかったな」
驚愕の声が漏れる。
そこに居たのは、先ほどオーゼンが追っていたローブだった。声をかけられたため、性別は男だとわかった。だが、なぜ戻ってまでここに来たのか? その疑問が頭を駆け巡る。
「不思議そうな顔してんなぁ? 俺がここに戻ってきたのは特に難しい理由はねぇよ。人族にしちゃぁ足の速い奴がいると思ってな、気になったから見に来ただけだぜ」
オーゼンの疑問に答えるように口にした。
驚愕していた顔を平常に戻し、その男に質問する。
「……お前は何者だ?」
今この場でもっとも素朴な疑問。
それに対して男は笑い声を漏らす。
「くはは……教えると思ってんのか? もし教えるとしたらそいつぁただの馬鹿だな。だがまぁ、ヒントくらいはやってもいいぜ?」
嘲笑混じりな口調でそう言われると、オーゼンは男を睨む。
「そんな睨むなって。そうだなぁ。テメェらの神話か?伝説か?そこらへんの物語に出てくんじゃねぇか?俺たちはよ」
その言葉を朦朧とする意識の中、頭に響くように聞こえてくる。
(なにを……言ってるんだ……?)
「あ? おいおい、ちゃんと聞いてんのか? 俺のありがいヒントだぜ? 起きてもらわねぇとよぉ」
男の手がオーゼンの顔に近づいていく。
(なにを……するつもりだ……)
声が出なかった。口を開く力がもうなくなっている。闘気不足のため、体が休止状態に入ろうとしていた。
「しょうがねぇからその頭に直接刻んでやる。喜べよ?」
男の手がオーゼンの頭を掴む。すると手が発光し始める。
同時に熱も感じた。このままでは不味いとオーゼンは抵抗しようとするが、指先一本動かない。
(くそ……意識が……もう……)
発光が強くなると、オーゼンの意識は完全に落ちた。
だが男はその手を離さずに、笑っている。
「ははは! 気絶しちまいやがったよ。けどまぁ……意識が無くても問題ないんだけどなぁ」
口角を上げて不気味に笑う。
――その直後、けたたましい音が前方から聞こえてくる。
「チッ! 新手か?」
オーゼンの頭から手を離すと、警戒をし始める。
そのまま数秒、音が聞こえてきた方へ顏を向けながらいつでも逃げれる用意をしていた。
だが、なにも起こらない。それを確認した男は再度、オーゼンの頭を掴む。
「ったく、驚かせやがって。最初からじゃねーか。あーめんどくせぇ」
ぶつぶつと言いながらさっきの作業を開始する。
手が発光し始め、熱を持つ。
だが、またや手を離す男。
「……なんだ? 前から凄まじい闘気を感じるぞ……」
男が感じた闘気はどんどん膨れ上がっていく。まるで、竜種と同じかと言わんばかりの闘気の量だ。
その凄まじい闘気に、男の中の警戒心が最大まで引き上げられる。
「仕方ねぇ。ここにいたら危険だな。……折角ヒントをあげようと思ったんだが、今あの闘気の奴と戦うのは得策じゃねぇ」
そう言って立ち上がり、ローブの中からなにかを取り出した。
取り出したのは、透明感を放つ青色の丸い球だった。
「じゃあな人族。次会えたらヒントじゃなくてちゃんとしたこと教えてやるよ。まぁ、その頃には俺達の事は知れ渡ってるだろうなぁ」
笑いを堪えるように口にした。
だが、唐突に真面目な顏になると、手に持っている丸い球を砕いた。
「転移」
その言葉を残して男は消えた。
虫の鳴き声と鳥のさえずりが戻ってくる。
その場に残っていたのは、倒れているオーゼンだけだった。
誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。




