35話 森の中で
あの二人がいなかったのはこの話でわかると思います。二話構成になる予定。
それでは、どうぞ。
少し時は遡る。
サイクロプスたちが姿を現した時、バーキィとオーゼンは森の中へ向かっていた。
「おいおい、どこ行くんだよ?」
走りながらオーゼンの背中にむけて声をかけるバーキィ。
甲高い音が鳴った後、オーゼンは突然走り出したのだ。
それを慌てて追うバーキィ。
「森の中だよ。さっきの音聞こえたでしょ? 多分あれが合図になってサイクロプスが現れたと思うんだけど、もしかしたらあの音で指示を出してるかと思ってね」
オーゼンは振り向きそう説明した。
「指示? 誰かが魔物を引き連れてきたってことか?」
「わからない、けど知能が高い敵っていうのは間違いないね」
少し遠回りをして森に向かう。
正面にはサイクロプスがいるため、バレないように森に入るためだ。
「けどよ、ハルトをほっといていいのか?」
背中に向けて話しかける。
バーキィは心配していた。サイクロプスの出現もそうだが、悠斗が無茶をしないかを。
「心配はしてるよ。けど、グロウズさんや他の冒険者もいるんだ。最悪な事態にはならないと思う。ただ、奥にいたサイクロプス。あれは別物だね。多分グロウズさんくらい強い人がいないと倒せないかも」
真剣な声音で答えた。
「だったら尚更、援護に行った方がいいんじゃねェか?」
「大丈夫だよ。グロウズさんだけじゃなくて他にも冒険者はいる。多対一で戦えば負けることはないと思うよ。それに、ハルト君は強いよ。根拠はないけどね」
最後の言葉で苦笑するオーゼン。
「はぁ……しゃあねェ。たまにはお前の我がままに付き合ってやるよ」
溜息を吐いてバーキィも笑った。
その様子を見たオーゼンは目を瞬かせる。
(珍しいね……。いつもはもっと強く言ってくるのに)
心の中でそう思っていると、バーキィが声を上げる。
「ついたぞ。で、どうやってその音の正体を探すんだ?」
オーゼンの方に顏を向けながら訊く。
するとオーゼンはバーキィを指さし、こう言った。
「バーキィが頼りだから頑張って」
さも当然のようにそう言い放った。
呆気にとられたような顏になるバーキィ。
「……俺がついてこなかったらどうするつもりだったんだよ?」
「その時はその時さ。なんとかしてたよ」
腕を組んでそう答えた。
「……ったく、探すからついてこいよ」
頭をガシガシと掻いて前を歩き出す。それについていくオーゼン。
さっきとは逆の位置だ。
少し歩いたところでバーキィは目を瞑って集中する。
「……見つけた。一つだけ強い気配がありやがる」
「ほんとかい? それじゃあそこに向かおう」
バーキィを急かす。
「まあ待てよ。その強い気配の周りに他の気配も多数ありやがる、多分魔物だな」
森の奥を見るように顏を向けた。
バーキィはこの時、闘気を練り始めていた。
近づけば戦闘になることは必至。
そう思い、オーゼンに提案する。
「だからよ、俺が他の魔物を引き付けてる間に、お前が強い気配の奴に追撃をかけてくれ」
「それは……別に構わないけど、バーキィは大丈夫? 魔物の数は一匹とかじゃないんだよね?」
バーキィを心配するように問いかけた。
その様子にバーキィは目が点になり、鼻で笑う。
「はっ! 俺を誰だと思ってる? 獅子族のバーキィだぜ。雑魚の魔物なんかにやられるわけねェだろ」
心配無用という風にオーゼンに言った。
「とにかく、急がねェと逃げちまうかもしれねェ。さっさと行くぞ」
「けど」
返事を待たずにバーキィは走り出す。『部位強化』をしながら戦闘準備も整わせている。
そうなると必然的に走る速度も上がる。
オーゼンも腰のナイフを抜いてバーキィの後を追っていく。
(まぁもしも危険になったら助ければいいだけだし、奇襲に専念しよう)
さっきの言葉に不満があったが、とりあえず助けるということで納得した。
そうして三十秒もしない内にバーキィは立ち止まる。
すぐに近くの茂みに身を隠すと、オーゼンも同じように身を隠した。
「……アレだ」
「あれは魔物と……人間?」
小声で口に出す二人。
二人の目の前には、オーガとゴブリン達が円陣を組んでいる姿が見えた。
その中心には、フード付きのローブを着ている者がいた。背丈はヒューマンの少年程だ。
手には歪な形の笛を持っていた。だが、その手の皮膚の色が普通とは違っていた。
「手の色が青色……? 人じゃないのか? 手を染めているだけか? それに魔物に守られている人って一体なんなんだ……。ダメだ、情報が無さすぎる」
一旦思考を打ち切る。
「考え事は終わったか? なら俺は正面から奇襲をかけるから、お前は側面で待機しといてくれ」
バーキィにそう言われると、オーゼンは目が点になった。
そのままバーキィを見つめていた。
「……なんだよ。俺だって少しは頭使うんだぜ? さっきも言ったけどな、お前は追撃をかけることだけ考えとけばいい。ごちゃごちゃ考えるのはその後だ。捕まえちまえばいくらでもそいつから聞けるぜ」
一気にまくしたてるように小声で言われる。
その言葉にオーゼンは苦笑した。
「確かに、その通りだ。考えるのは後だってできるね。よし、それじゃあ配置につくよ」
その言葉を残して、オーゼンはしゃがみながらゆっくりと移動していった。
バーキィはその後ろ姿を見ながらフンっと顏を逸らした。
(今は喧嘩してる暇はねェ。とりあえず元凶を捕らえて洗いざらい吐かせてやる)
オーゼンが側面に行ったのを確認したバーキィは、闘気を膨れ上がらせる。
「ウオオオオオオオオ!」
雄たけびを上げながら突撃していく。その雄たけびに驚愕した魔物たちは一瞬硬直し、隙を晒した。
まずバーキィが攻撃したのは近くにいたゴブリンだ。ゴブリンは紙屑のように殴り飛ばされ、奥に消えていく。ようやく敵を認識した他の魔物たちは、バーキィに向かって襲い掛かってきた。
「オラァ! 雑魚共が! かかってきやがれェ!」
大声を出して周囲に自分をアピールする。魔物達はその気迫に足を止めるが、一瞬だけだ。
オーガが唸り声を上げながら殴りかかってくる。
「ウウウウウウガァ!」
だが、大振りの打撃など当たるはずもなく避けられる。
バーキィは避けた後、右手に力を込めて顏を殴る。
そのままゴブリン達の方へ殴り飛ばした。
「ふんっ!」
「ゲギャ!」
ゴブリン達の焦った声が聞こえるが、飛んでくるオーガを避けれず、下敷きになった。
残りのオーガも怒りの声を上げながら襲い掛かってくるが、パワーだけの魔物などバーキィの敵ではなかった。攻撃を避け、反撃する。これだけで大半のオーガは一撃で脳を破壊されていた。
チラリとローブの者を探したが、既に逃げたのかその場にはいなかった。
(頼んだぞオーゼン)
心の中で、信頼している相棒に向けて言う。
すると、森の中から他の魔物たちも飛び出してきた。
バーキィは一つ嘘をついていた。森のいたるところに気配はあったのだ。だが、それを伝えなかったのはオーゼンが絶対に助けに来ると思ったからだ。その信頼があったからこそ、伝えなかった。
自分を優先するより、魔物の大群の原因らしきものを排除するために優先したのだ。
追加で現れたのは、ゴブリンとオーガだけだが、数が多かった。
その数にバーキィは冷や汗をかいたが、豪快に笑って闘気を滾らせる。
「ッはははは! いいじゃねぇか。雑魚がいくら集まっても雑魚ってことを……教えてやるぜ!」
再度、雄たけびを上げながら突撃していった。
誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。




