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紋章の勇者  作者: 新
二章 前兆
36/41

35話 森の中で

あの二人がいなかったのはこの話でわかると思います。二話構成になる予定。

それでは、どうぞ。

少し時は遡る。

サイクロプスたちが姿を現した時、バーキィとオーゼンは森の中へ向かっていた。


「おいおい、どこ行くんだよ?」


走りながらオーゼンの背中にむけて声をかけるバーキィ。

甲高い音が鳴った後、オーゼンは突然走り出したのだ。

それを慌てて追うバーキィ。


「森の中だよ。さっきの音聞こえたでしょ? 多分あれが合図になってサイクロプスが現れたと思うんだけど、もしかしたらあの音で指示を出してるかと思ってね」


オーゼンは振り向きそう説明した。


「指示? 誰かが魔物を引き連れてきたってことか?」

「わからない、けど知能が高い敵っていうのは間違いないね」


少し遠回りをして森に向かう。

正面にはサイクロプスがいるため、バレないように森に入るためだ。


「けどよ、ハルトをほっといていいのか?」


背中に向けて話しかける。

バーキィは心配していた。サイクロプスの出現もそうだが、悠斗が無茶をしないかを。


「心配はしてるよ。けど、グロウズさんや他の冒険者もいるんだ。最悪な事態にはならないと思う。ただ、奥にいたサイクロプス。あれは別物だね。多分グロウズさんくらい強い人がいないと倒せないかも」


真剣な声音で答えた。


「だったら尚更、援護に行った方がいいんじゃねェか?」

「大丈夫だよ。グロウズさんだけじゃなくて他にも冒険者はいる。多対一で戦えば負けることはないと思うよ。それに、ハルト君は強いよ。根拠はないけどね」


最後の言葉で苦笑するオーゼン。


「はぁ……しゃあねェ。たまにはお前の我がままに付き合ってやるよ」


溜息を吐いてバーキィも笑った。

その様子を見たオーゼンは目を瞬かせる。


(珍しいね……。いつもはもっと強く言ってくるのに)


心の中でそう思っていると、バーキィが声を上げる。


「ついたぞ。で、どうやってその音の正体を探すんだ?」


オーゼンの方に顏を向けながら訊く。

するとオーゼンはバーキィを指さし、こう言った。


「バーキィが頼りだから頑張って」


さも当然のようにそう言い放った。

呆気にとられたような顏になるバーキィ。


「……俺がついてこなかったらどうするつもりだったんだよ?」

「その時はその時さ。なんとかしてたよ」


腕を組んでそう答えた。


「……ったく、探すからついてこいよ」


頭をガシガシと掻いて前を歩き出す。それについていくオーゼン。

さっきとは逆の位置だ。

少し歩いたところでバーキィは目を瞑って集中する。


「……見つけた。一つだけ強い気配がありやがる」

「ほんとかい? それじゃあそこに向かおう」


バーキィを急かす。


「まあ待てよ。その強い気配の周りに他の気配も多数ありやがる、多分魔物だな」


森の奥を見るように顏を向けた。

バーキィはこの時、闘気を練り始めていた。

近づけば戦闘になることは必至。

そう思い、オーゼンに提案する。


「だからよ、俺が他の魔物を引き付けてる間に、お前が強い気配の奴に追撃をかけてくれ」

「それは……別に構わないけど、バーキィは大丈夫? 魔物の数は一匹とかじゃないんだよね?」


バーキィを心配するように問いかけた。

その様子にバーキィは目が点になり、鼻で笑う。


「はっ! 俺を誰だと思ってる? 獅子族のバーキィだぜ。雑魚の魔物なんかにやられるわけねェだろ」


心配無用という風にオーゼンに言った。


「とにかく、急がねェと逃げちまうかもしれねェ。さっさと行くぞ」

「けど」


返事を待たずにバーキィは走り出す。『部位強化』をしながら戦闘準備も整わせている。

そうなると必然的に走る速度も上がる。

オーゼンも腰のナイフを抜いてバーキィの後を追っていく。


(まぁもしも危険になったら助ければいいだけだし、奇襲に専念しよう)


さっきの言葉に不満があったが、とりあえず助けるということで納得した。


そうして三十秒もしない内にバーキィは立ち止まる。

すぐに近くの茂みに身を隠すと、オーゼンも同じように身を隠した。


「……アレだ」

「あれは魔物と……人間?」


小声で口に出す二人。

二人の目の前には、オーガとゴブリン達が円陣を組んでいる姿が見えた。

その中心には、フード付きのローブを着ている者がいた。背丈はヒューマンの少年程だ。

手には歪な形の笛を持っていた。だが、その手の皮膚の色が普通とは違っていた。


「手の色が青色……? 人じゃないのか? 手を染めているだけか? それに魔物に守られている人って一体なんなんだ……。ダメだ、情報が無さすぎる」


一旦思考を打ち切る。


「考え事は終わったか? なら俺は正面から奇襲をかけるから、お前は側面で待機しといてくれ」


バーキィにそう言われると、オーゼンは目が点になった。

そのままバーキィを見つめていた。


「……なんだよ。俺だって少しは頭使うんだぜ? さっきも言ったけどな、お前は追撃をかけることだけ考えとけばいい。ごちゃごちゃ考えるのはその後だ。捕まえちまえばいくらでもそいつから聞けるぜ」


一気にまくしたてるように小声で言われる。

その言葉にオーゼンは苦笑した。


「確かに、その通りだ。考えるのは後だってできるね。よし、それじゃあ配置につくよ」


その言葉を残して、オーゼンはしゃがみながらゆっくりと移動していった。

バーキィはその後ろ姿を見ながらフンっと顏を逸らした。


(今は喧嘩してる暇はねェ。とりあえず元凶を捕らえて洗いざらい吐かせてやる)


オーゼンが側面に行ったのを確認したバーキィは、闘気を膨れ上がらせる。


「ウオオオオオオオオ!」


雄たけびを上げながら突撃していく。その雄たけびに驚愕した魔物たちは一瞬硬直し、隙を晒した。


まずバーキィが攻撃したのは近くにいたゴブリンだ。ゴブリンは紙屑のように殴り飛ばされ、奥に消えていく。ようやく敵を認識した他の魔物たちは、バーキィに向かって襲い掛かってきた。


「オラァ! 雑魚共が! かかってきやがれェ!」


大声を出して周囲に自分をアピールする。魔物達はその気迫に足を止めるが、一瞬だけだ。

オーガが唸り声を上げながら殴りかかってくる。


「ウウウウウウガァ!」


だが、大振りの打撃など当たるはずもなく避けられる。

バーキィは避けた後、右手に力を込めて顏を殴る。

そのままゴブリン達の方へ殴り飛ばした。


「ふんっ!」

「ゲギャ!」


ゴブリン達の焦った声が聞こえるが、飛んでくるオーガを避けれず、下敷きになった。

残りのオーガも怒りの声を上げながら襲い掛かってくるが、パワーだけの魔物などバーキィの敵ではなかった。攻撃を避け、反撃する。これだけで大半のオーガは一撃で脳を破壊されていた。


チラリとローブの者を探したが、既に逃げたのかその場にはいなかった。


(頼んだぞオーゼン)


心の中で、信頼している相棒に向けて言う。

すると、森の中から他の魔物たちも飛び出してきた。

バーキィは一つ嘘をついていた。森のいたるところに気配はあったのだ。だが、それを伝えなかったのはオーゼンが絶対に助けに来ると思ったからだ。その信頼があったからこそ、伝えなかった。

自分を優先するより、魔物の大群の原因らしきものを排除するために優先したのだ。


追加で現れたのは、ゴブリンとオーガだけだが、数が多かった。

その数にバーキィは冷や汗をかいたが、豪快に笑って闘気を滾らせる。


「ッはははは! いいじゃねぇか。雑魚がいくら集まっても雑魚ってことを……教えてやるぜ!」


再度、雄たけびを上げながら突撃していった。


誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。

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