34話 ブブルの戦いの決着
今回はいつもより長めになっております
まず悠斗が目を付けたのは一番奥にいる鎧を着たサイクロプスだ。
他の巨人たちとは存在感が違う。恐らく敵の大将だろうと悠斗は考える。
だが、近づこうにも二体の巨人がそれを阻む。
鬱陶しいと思いながら巨人に斬りかかっていく。
「邪魔なんだよっ! 退けデカブツ!」
先ほどと同じように首目がけて飛びかかる。だが、さっきと違い今の相手は二匹だ。当然悠斗の攻撃はもう一匹に防がれてしまう。
悠斗に棍棒を振ってくる巨人。それを空中で防御し、その勢いで後ろに飛んでいく。
地面に激突する前に受け身を取る。その隙に巨人は接近し蹴りを繰り出してきた。
「グオオオ!!」
「大声でうるせぇぞ!」
その蹴りをサイドステップで避け、一歩踏み込んで足に斬りつける。
闘気を纏っているため、悠斗の身体能力は大幅に上昇している。それに加え、大剣に纏わせている闘気により、斬撃の威力は桁違いに上がっていた。
結果、そのまま悠斗は巨人の足を斬り落とす。
「グガァ!?」
足を斬り落とされた巨人は、痛みで転がった。
(他の冒険者が殺るだろう)
そう思った悠斗はその巨人を無視してもう一匹のほうへ向かう。
転がった仲間を見て殺されたと思い、もう一匹のは巨人激昂した。
地面を揺らしながら悠斗に向かって走ってくる。
走ってくる姿に悠斗は特に慌てず、冷静に対処する。
悠斗は足を止め、剣を腰だめに構えた。
そのまま敵を待つ。
そして、巨人が接近してくると、悠斗目がけて力任せに棍棒を振り下ろす。
だが、悠斗はそれをサイクロプスの方に斜めに飛び避ける。避けた先は巨人の首の横だ。
そのまま構えていた剣を横に振る。
「ガッ……」
その一言を残して巨人は前に倒れていく。倒れた衝撃で首は横に転がった。
「これで三体目だ」
そう呟いて歩き出す。残るはこの先にいる鎧の巨人だけだった。
「いや、足切ったやつは殺してないから二匹目だな」
前言撤回。
歩き出した悠斗はふと後ろを振り向く。先走ってしまっている悠斗は、後ろの冒険者達が気になった。
変化した性格でも、心の奥にある優しさは変わっていない。心配しているのだ。
どうやら、善戦しているようだ。グロウズはもちろん、他の冒険者も危なげなく戦っている。
流石に十人で相手をすれば危険も少ないようだ。
その中で一人、立ち回りが上手い者がいた。先ほど悠斗を援護した一人の女冒険者、クレアだ。
クレアは後衛で攻撃をしているのだが、前衛の冒険者が危なくなるとすかさず攻撃を加え、援護している。
その立ち回りは悠斗の目から見ても上手いと思えた。
それを見ていた悠斗はふと、地面を見る。
それに気づけたのは偶然だろう。自分の影より大きい影が、悠斗の体を覆っていた。
「!?」
咄嗟に前転するように前に飛び込む。直ぐ後ろで地響きが鳴り、砂埃がたつ。
徐々に砂埃が晴れると、ソレは姿を現した。
先ほど悠斗が目をつけた鎧の巨人だ。その巨人がここまで一瞬で飛んできたようだ。
「どんな跳躍力してやがんだ? ただの魔物じゃねぇな……流石大将ってとこか?」
その問いに答えるとは思えなかった悠斗だが、巨人は口を動かす。
「……オレハ見テイタ。仲間ガ……簡単ニ殺サレルノヲ」
「……驚いた。魔物って喋れんのかよ」
片言で聞き取りずらいが、確かに喋っている。人間の言葉だった。
その巨人はまだ口を動かす。
「オマエハ危険ダ。ココデ……殺サナイト、アトデ……邪魔ニナル。ダカラ死ネ」
その片言が終わると、足に力を込めて大剣を肩に担いだ。
死ね、という言葉だけはハッキリ聞き取れた悠斗。
「はっ! 殺せるならやってみろ!」
鼻で笑い、大剣を前に構える。
――瞬間、悠斗の目の前に現れる。
「!?……チッ!」
肩に担がれた大剣を片手で悠斗に向かって振り下ろす。
それを悠斗はなんとか受け止めた。悠斗の大剣より何倍も大きい大剣だ。巨人仕様なのだろう。
重さが桁違いだ。元々、大剣は斬るのではなく叩き潰すといった運用が主だ。棍棒を扱う巨人にはピッタリの武器だろう。その大剣がサイクロプスの膂力で振り下ろされるとどうなるか?
「ぐっ……速いし……力も強い、厄介この上ねぇな……!」
その大剣を受け止めている悠斗は、足が地面に埋まっていく。闘気を纏っているため何とか受け止められたが、闘気が無くなると即ミンチだろう。それほどの威力を秘めている攻撃だ。
「……オレノ巨大剣……受ケ止メタ奴ハ初メテダ」
巨人は驚いた声音でそう呟いた。しかし、力を抜くはずもなく、更に力を込めてくる。
押し潰そうとしているのだろう。
「……巨大剣? ったく、誰がこんなもんこいつに与えたんだ? おかげで俺はピンチじゃねぇ……かっ!」
軽口を叩き、巨大剣と呼ばれたものを押し返す。瞬間的に腕に闘気を集中させたのだ。
巨大剣を押し返された巨人は片足が上がり、バランスが崩れている。
その隙を狙っていたかのようにもう片方の足に狙いを定める。
「てめぇ速いからな。その足貰うぜ」
接近する悠斗。
「オレヲ……舐メルナ!」
巨人は浮いていた足を地面に力強く戻す。そして、巨大剣を横に薙いだ。
それを悠斗はしゃがんで避ける。頭すれすれのところを通り抜けていった。
「あっぶね! 髪がちょっと切れたじゃねーか!」
「………」
バックステップで距離をとる。
そして髪の毛が切れたことに対して怒る悠斗。それを無言で返す巨人。
悠斗はため息を吐き、巨人に尋ねた。
「はぁ……お前、名前は? 喋れるんだったら名前くらいあんだろ」
唐突だった。なぜ名前を聞きたがるのか? それは、知性があるのなら説得できるのでは? という淡い期待を持ちながら、まずは名前を尋ねることから始める。
「……オレハ勇敢ナル巨人族ノ戦士。ガガルゴ……ダ」
「巨人族……? ふーん……。俺の名前はハルトだ。なぁガガルゴ。退いてくれねぇか? お前だって死にたくないだろ?」
この巨人の名前はガガルゴと言うそうだ。
名前を答えてくれた巨人に対して悠斗も自分の名前を教え、提案した。
「俺とあの冒険者達。怪我で数が減ってるがよ、それでも五十はいるぜ。あの数を一気に相手できんのか?」
「……オマエダケハ危険ダ。オマエサエ殺セバ……アトハ逃ゲル」
思っていた言葉とは違う言葉を言われるが、悠斗は特に気にせず、顏に笑顔を貼り付けた。
「そうかい。ならここで俺に殺されとけ!」
今度は悠斗から接近していく。
さっきのように超スピードで不意を突かれると危険だと判断した悠斗。
先ずは足を第一に狙うことにする。足が無くなればどんな達人でも勝ち目は無くなる。
巨人なら自分の体重を支えられずに転倒するだろう。
だが、そう上手くいくはずもない。
当たり前のように足を狙っていた斬撃は避けられ、反撃される。
悠斗は舌打ちをして巨大剣を避ける。
その重さを感じないような剣速。そのまま連続攻撃をされる。
紙一重で避けていく悠斗。
「ヤルナ。ナラ、コレハドウダ」
突然斬撃のスピードが上がる。突然上がったスピードに目が慣れず、避けれなかった。
だが、体に命中する前に大剣で防御をして――吹き飛ばされる。
「ぐっ……がっ……!」
さっき受けた攻撃より桁違いの威力に、物凄い勢いで吹き飛ばされた悠斗は受け身を取れず、森の中に突っ込んでいく。
飛んでいった先には木があり、激突。
その衝撃で吐血。悠斗は大きなダメージを受けた。
「ゴホッ………こりゃやべぇな」
うっすらと目を開けて弱弱しく呟く。体の骨が何本か折れ、頭からは血を流していた。
大剣で防御したものの、衝撃は逃せずに悠斗の体を襲った。
ここまでダメージを受けたことがない悠斗は、痛みで顏を顰める。
そして、悔しさと怒りが頭を支配する。
「勇者だってのに……なんだこのザマはよぉ……。ちくしょう!」
そう言い放つ。そしてゆっくりと立ち上がり、口に溜まった血を吐く。
「ぺっ……俺をここに呼んだ奴にも会ってねぇんだ、倒れてなんていられねぇぞ。……こだわりなんて、捨てちまうか。失神して倒れても知ったことじゃねぇ。全力だ。全力でいかねぇとあいつには勝てねぇ……」
今まで調整して使っていた闘気を全身に行き届かせる。痛みは残っているが、力が湧いてくる。
そして、残り少ない魔力で大剣をもう一本出す。
「……速攻で決めねぇと闘気が無くなる。もしものための切り札も考えねぇとな……」
その呟きを残して、森を飛び出る。その速度は移動系戦技【疾風】と同等かそれ以上の速さだ。
森を出ると後ろを向けて走っていくガガルゴが見えた。どうやら悠斗を仕留めたと思ったのだろう。
その後ろ姿に向かって悠斗は吼える。
「俺はまだ生きてんだよ!ボケがぁ!」
吼えながら接近していく。
その声に驚きながらガガルゴは巨大剣を構えて振り返る。
それと同時に悠斗の大剣と激突した。
「驚イタ。アレヲ喰ラッテマダ生キテルトハ」
「御生憎様なぁ、俺の体は丈夫なんだよ! あんな攻撃で死ぬわけねぇだろ!」
二本の大剣でガガルゴの巨大剣を下に叩き落す。闘気を全力で纏っている悠斗は今までとは別人だ。
そのまま叩き落した反動を使って飛び上がりながら斬り上げる。
「オラぁ!」
「ヌゥ……!」
咄嗟に避けられたが、ガガルゴの顎に浅い切り傷をつけた。掠っていたようだ。
その傷を見て悠斗は二ィと笑ってから落ちつつ袈裟斬りを繰り出す。
それを巨大剣を盾にして防御される。
だが、そんなこと知ったことではないとばかりに、連続で攻撃を開始した。
先ほどよりスピードもパワーも違うことに驚くガガルゴ。
「オマエ! サッキハ手加減シテイタノカ!?」
「手加減って言えば手加減……か? まぁ本気じゃあなかったかもな」
巨大剣で防御を続けながら悠斗に強く問いかけた。
それに対して悠斗は飄々と返す。
「ッ……!」
反撃をしようにも、その隙が無い。悠斗の繰り出す斬撃には隙間が見当たらない。
力任せに振るわれているその大剣は、まるで一種の嵐だ。
一回でも防御を解けば、そこから一気に崩される。そんな勢いだった。
悠斗はなにも考えずに大剣を振っているわけではない。闘気が尽きようとしているのだ。
冷静に見えて実は焦っている。闘気が無くなれば切り札を切るしかない。
だが、それは女神からも忠告されていた。『それを使えば、私にもどうなるかわかりません。ただし、威力は絶大でしょう』
そう言われたは悠斗は、滅多なことでは使わないと心に誓った。
「っらァ! さっさとその邪魔な剣どかせよ!」
「グムゥ……!」
闘気が尽きかけようが、悠斗は攻撃の手を止めない。
そうしなければ反撃を喰らい、行動不能になってしまうだろう。
そうしたら今度こそ止めをさされ、逃がしてしまうだろう。
そうなる前に、決着をつけたい悠斗。
袈裟斬り。逆袈裟。横斬り。突き。回転斬り。両手の大剣での連撃。
どの攻撃を繰り出してもガガルゴに防御されてしまう。巨大剣は重量が重く、耐久力が高い。
それを盾にされてしまうと、並の攻撃では突破できない。
悠斗は連続攻撃をやめない。同じ個所を何度も何度も攻撃する。
ガガルゴの体は少しずつ後退していく。
そして、変化は訪れた。
「ああああああッ!!!」
「グガッ!!」
悠斗は残り少ない闘気を大剣に纏わせ、十字になるように斬撃を繰り出す。
すると、一撃目でガガルゴの巨大剣にヒビが生まれ、二撃目で巨大剣は砕けた。
「っしゃぁ!」
「ナンダト!?」
ガガルゴは驚愕して目を見開き、一瞬動きが固まった。
その隙を逃さずに悠斗は攻める。
「もらったぁぁぁぁぁ!!」
気合一閃。悠斗の大剣はガガルゴの胴を真っ二つに――しなかった。
がくりと体が傾く。倒れる前に大剣で体を支えた。
「……チッ! もう少しだってのによ……!」
敵の目の前で致命的な隙を晒す。
それは、死を意味していた。
悠斗はすぐに来るだろう衝撃に目を瞑って、待つ。
「……………?」
いつまでもこない攻撃に、悠斗は不思議に思い目を開ける。
すると、ガガルゴは倒れていた。なぜ? という当然の疑問が悠斗の中で生まれる。
だが、すぐにその疑問は解消された。
「少年。無事か?」
ガガルゴの倒れた後ろに、グロウズがいた。
更にグロウズの後ろには、他のサイクロプスと戦っていた冒険者達もいた。
「坊主! お前すげぇな! どうやったら大剣を二本も持てんだ!?」
「それよりも俺が気になったのはこの少年のスピードだ。恐らく闘気を使っていたのだろうが、どんな紋様を使っていたか聞きた」
「はいはいはい! あんたら、この子は怪我人なんだから聞きたいことは後で!」
二人の男に詰め寄られ、悠斗は呻く。
それを止めたのが赤髪の女。クレアだった。
それに心で感謝をし、悠斗は座り込む。
「はぁ……疲れた」
「あっ、大丈夫? すぐに街へ運ぶね」
クレアは肩を貸してくれようとするが、首を振ってそれを制止する。
よろよろと立ち上がり、グロウズの方へ歩いていく。
「……グロウズさん、助けてくれてありがとうございました。おかげで死なずに済みました」
悠斗はお礼の言葉を言い、ゆっくりとお辞儀をした。
それに対してグロウズはこう口を開いた。
「助けた? なにを言ってるんだ。止めをさしたのは少年、君だぞ」
「……えっ?」
少し間が空き、素っ頓狂な声が出る。
(俺が……止めを?)
怪訝な目でグロウズを見る。
「……あれを見てみろ」
グロウズが顎で指したのはガガルゴの死体だ。
悠斗は死体を見るが、大剣らしきものの傷はなかった。
悠斗はもう一度グロウズを見る。
「ええい! こっちへこい!」
腕を掴まれてずるずると死体の方へ引きずられていく。
体の節々の傷と骨が悲鳴をあげた。
「グロウズさんッ! 痛い! 痛いですってば!」
「男なら我慢しろ! ……ここを見ろ」
「ぐぅ……いってぇ……ん?」
グロウズが指を指しているのは、ガガルゴの頭だ。
その頭を見るが、特になにもない。だが、顏をよく見ると、なにかが刺さっていた。
「これだ。これが恐らく死んだ原因だろう。奴が持っていた武器の破片が刺さっている。心当たりはあるな?」
そう訊かれて悠斗はハッとする。悠斗が最後に放った十字斬り。その時にガガルゴの巨大剣は砕けていた。
その時に追撃を仕掛けられなく諦めていた悠斗だったが、実は巨大剣を砕いたところでガガルゴは死んでいたようだ。なんともあっけない落ちに、悠斗は体の力が抜けた。
「……あの時に死んだのか、可哀想なやつ……」
その言葉を呟いて、悠斗の意識は闇に落ちていった。
こいついっつも気絶してんな……と思ったそこのあなた。その通りでございます……
誤字や脱字、おかしな部分があれば気づき次第修正します。




