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紋章の勇者  作者: 新
二章 前兆
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33話 ブブルの戦い2

戦闘が始まって五分ほどが経つ。やはり魔物の数が多い。少しずつ冒険者が押されている。しかし、門の方から援軍がやってきた。ブブルの街の冒険者達だ。

数は60人ほどで男女混合。こちらが男しかいないのは、単純に女の冒険者がいないだけだ。


「すまねぇな! 助けに来たのに助けられるとはよ!」

「なに言ってんの! あんたらが引き付けてくれたから門が開けれたのよ! 『炎弾』!」

「ああ! ブブルまで来てくれてありがとよ!」


魔物に戦技を放ち蹴散らす。

赤髪の女冒険者はそこらかしこに【ファイア】の魔術を連発していた。この女の名前はクレア。中級三位の冒険者だ。


『炎弾』は火属性の紋様を書き込んだ【紋様魔術】。一定の威力を持ったファイアを、魔力がある限り最大十発まで連発できる。それ以上を連発すると紋様が負荷に耐えれなくなり、消滅する。また、百発ファイアを撃つと自動的に消滅もする。

偽紋の紋様は使い捨てだ。所詮偽紋(フェイク)ということだ。


ただし、本紋(オリジナル)の紋様は消滅はしない。だが、魔力を定期的に込めないと使い物にならない。本紋を持っているのは大抵、王族か特殊な家系。もしくは古代遺跡で発見される魔道具による紋様の彫りこみ。それを求めて冒険者になるものもいる。天紋(ギフト)も本紋と原理は一緒だが、特殊な力を持つものが多い。


「にしてもやっぱり魔物の数が多いわね……」

「これでも減ったんだぜ? 最初に強力な魔術を撃ったおかげでな」

「強力な魔術? ランクが高い魔術師でもいるの?」

「いや、確か下級だったはずだ。けど魔術の腕はピカ一だったぜ?」


この男が話しているのは悠斗の事だ。ブブルに向かう途中。野営中に襲撃され戦闘を開始した時、悠斗の魔術による援護をされた時は感謝していた男。さらに【フレイムランス】までも使いこなす悠斗に驚愕したものだ。そこにきてさっきの魔術だ。魔物が次々と発火していく様を見てさらに驚いた。


「下級……? 魔術師としての腕が高い下級ねぇ……」

「ああ。ほら、あそこで戦ってるぜ」


男がゴブリンを斬り伏せてから指を指した。その方向には悠斗がいる。今オーガ相手に槍で応戦しているところだった。クレアは少しだけ悠斗の観察を始める。

悠斗は距離を取りながら槍で突いている。それをオーガが振り払いながら悠斗に接近するが、悠斗は接近してきたオーガの頭にフレイムランスを撃ち込んでいた。そうしてオーガが死ぬと、次の相手を見つけると戦闘に持ち込んでいた。


「魔術を使いながら武器で戦ってるの? 器用な子ね……。それにあの一瞬で魔術を発動させた?【紋様魔術】でも使ったの? けどあの威力は……」

「あのよー! ボーっとしてたらやれられるぜ?!」

「おうおう! 女一人守りながらこの戦場で戦うのは辛いぞ!」


悠斗を観察していたクレアはかなり無防備だった。興味が出た対象を観察する。クレアの悪い癖だ。

そのクレアを男の冒険者二人が魔物から守ってくれていた。


「あ、ごめんね。私も戦うわ」

「頼むぜ!」


クレアは『炎弾』による攻撃を再開した。途中『炎弾』の紋様が消滅すると、別の紋様に切り替え再度攻撃。クレアのジョブは【紋様術師】。もっともお金がかかり、尚且つ根気の強い者が就くジョブだ。紋様を描くための【紋様道具】を毎回購入し、紋様の描き方も学ばなければならない。そのため、最初は苦労する。主に金銭面で。だが、慣れていくと魔物の処理力はダントツに高い。そのかわり出費も高いので収入は低かったりする。クレアの場合好きでこのジョブに就いたので、特に苦労もせず紋様について学んでいった。クレアは一年で中級にランクが上がったのだ。凄腕といえるだろう。


「うーん。結構減ってきたわね。これは私達の勝ちかな?」

「そうだな。あんたらが来てくれて助かったぜ! カルンの奴らに感謝だな!」


クレアともう一人の男は魔物を蹴散らしながらそう言う。

だが、カルンの冒険者はまだ警戒していた。


「二人には悪いが、俺はまだ終わるとは思えねぇ」

「なんでだ? どうみてもこっちが優勢だぞ?」

「それなんだが、俺達はここに来る途中奇襲されたんだ。その時ゴブリンの大群と戦ったんだが、数が減るとなにかの音が響いてな」


男がそう言った矢先、甲高い音が戦場で響いた。


「そうそう。丁度これと同じ音が……今、鳴ったか?」

「ええ。なんだか笛みたいな音が……」

「やべぇな……。警戒しろ! 何かが起こる! 絶対だ!」


真剣な顏で周りを警戒する。

その様子に二人も警戒を始めた。クレアはいつでも魔術が出せるよう手をかざす。もう一人の男は剣を構える。


すると、森の方から大きな音がする。それを三人は振り向き確認する。

そこに現れたのは、巨人(サイクロプス)だった。それも数は十体を超えるだろう。

その場にいた冒険者は既に疲労していた。なんとか助け合いながら戦っていたが、ここにきて巨人(サイクロプス)だ。体の限界が近いものが多い。だが、戦わねば死ぬ。戦わなくても死ぬ。ならば、この胸の覚悟を武器にし戦う。カルンの冒険者は目に強い光を宿らせた。今まさに突撃しようとするが、大きな声が戦場に響き渡った。


「貴様らァ!!! 誰も無駄死にしろとは言ってない! 少しの間退け!」

「けどギルド長! 俺たちが退いたら誰がアレを止めるんですか!」

「貴様、周りをよく見ろ。ブブルの冒険者がいるだろう。それもこちらより倍近く多い。彼らに任せるのだ」

「えっ、けど……」


そこでチラリとブブルの冒険者達を見る。こちらより疲労が少ない。途中から戦闘に加わったのだから当たり前なのだが。


「大丈夫! 俺達の街は自分で守る! なぁそうだろみんな!」

「ああ!」

「駆けつけて来てくれてありがとうね。あとは私達が頑張るわ!」

「お前らは休んどけ。その間は持ちこたえてやるよ」


一人の冒険者に応じるように声があげられる。その様子にグロウズは満足していた。


「というわけだ貴様ら! 聞こえていたのなら一度退け! なにも戦うなとは言ってない。一度退いて体力を回復させてもう一度ここへ戻ってこい!」


その言葉は戦場にいたカルンの冒険者にしっかりと聞こえていた。

それぞれが頷き合い、後方に下がる。


「頼んだぞ!」

「任せろって! お前たちが来る前に終っちまうかもな!」

「うるせぇ」


軽口を叩きながら入れ替わっていく冒険者。

その間に巨人(サイクロプス)たちはこちらにゆっくりと歩いてくる。

その中に一匹、鎧と剣を装備した巨人(サイクロプス)がいた。その巨人(サイクロプス)はこちらに近づかず、その場に佇んでいる。


「グロウズさん」

「少年か。少年も後ろへさがるか?」

「いえ、僕は魔術中心に戦っていたのであまり疲れてません。戦えます」

「そうか。なら私と一緒に戦ってもらうか」

「はい! 魔力が少ないのであまり期待はしないでくださいね」

「うむ。だが、君はまだ何か(・・)持っているだろう? それに期待しているよ」

「……はい」


悠斗は気づかれていることに驚いた。

確かに、悠斗には魔力がなくなっても闘気がある。それに魔闘変化(チェンジ)も。

最悪の場合は切り札(・・・)を使えばいい。そう悠斗は思った。

悠斗達が話している間に、ブブルの冒険者達はグロウズに近づいていた。


「うむ。揃ったな? ……では諸君! 今から巨人(サイクロプス)の相手をしてもらう。奴らに余裕があるのかは知らんがゆっくりとこちらに近づいてきている。舐められているな……。だが、人間を舐めてかかるとどうなるか教えてやれ!」


その言葉にブブルの冒険者達はやる気をみなぎらせる。


「よし。では、巨人(サイクロプス)一体に十人で相手をしろ! 負傷したものはポーションで回復しろ!」

「あの、私は聖魔術が使えるのですが……。傷の回復は任せてください」

「それは心強い。では後方に控えてもらう! 回復は任せたぞ!」

「はい!」


その返事を聞いた後、グロウズはまわりを見渡し、悠斗の肩に手を置く。


「この少年と私で、巨人(サイクロプス)の相手を一体ずつする!」

「え、えぇ!? グロウズさん!?」

「なんだ少年? 君なら出来ると私は信じているぞ」

「けど僕サイクロプスなんて……」

「一度戦っているだろう。あの時のように戦えばよいのだ。ということだ、行くぞ諸君!」


とんでもないことを言い出したグロウズ。それに対して悠斗は遠慮気味に言ったが、聞き耳持たず。

グロウズは武器を構えて走って行ってしまった。


「坊主! さぞやランクが高い冒険者なんだろな! 一体は任せたぜ!」

「えぇ。この戦いが終わったら奢ってあげるわ」

「そうだな。俺も期待しているぞ」


ブブルの冒険者は悠斗に声をかけながらグロウズの後を追っていく。


「やるしかないかぁ……はぁ」


悠斗小さく溜息を吐くと、手持ちの槍を消す。するとすぐに大剣を出す。そして

――切り替えた(・・・・・)

魔力が減り、闘気が爆発的に増えていく。悠斗の雰囲気が変わっていく。

変化が終わると、剣の柄を強く握り、闘気を身体に纏わせる。


「ふぅー。……変化も終わったし、いっちょぶち殺すとするか!」


狂気を目に宿らせながらそう言い放つ。

大剣を肩に乗せて走る。身体能力は強化されているので、他の冒険者を追い抜く形で通り過ぎていく。

どんどん加速していく。遂には先頭にいたグロウズの隣まできてしまい、巨人(サイクロプス)も目の前だ。


「先ずは一匹ィ!!!!」


勢いよく飛び、巨人(サイクロプス)の首目がけて飛んでいく。空中にいる間に大剣を横に構える。

それに気づいた巨人(サイクロプス)は、腕に持っていた棍棒を振って悠斗を叩き落そうとした。

だが、それを許す冒険者ではない。


「『風弾』!」

 

その言葉が発されると、目に見えない不可視の弾が巨人(サイクロプス)の腕に当たる。

その衝撃で腕がズレ、悠斗の体すれすれのところで振り下ろされる。


その援護に悠斗は驚くが、目の前に集中する。闘気を大剣に集め、首を叩き切った。

前とは違い、集中する闘気の量は調整している。なので闘気不足には陥らないだろう。

悠斗もしっかり学んでいる。


(流石に三度もぶっ倒れんのは勘弁だからな。それにしても、あの魔術。援護しなくても自分でどうにしかしたが、まぁいいか)


後方に目を向け、魔術を放ったと思われる女を見る。赤髪の女だった。だが、すぐに興味を失った悠斗は次の目標を探す。


「次はあいつをぶっ殺すか」


そう呟いて走っていく。

他の冒険者達はその後ろ姿を微妙な顏で見ながら、巨人(サイクロプス)との戦いを開始した。


紋様魔術について最近出てきてなかったので出しました。忘れてないよ?! どこで出すかを考えてたの!


……誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。


明日は18時更新です。

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