32話 ブブルの戦い1
グロウズを先頭に走る冒険者達。対する魔物はまだこちらに気づいていない。
魔物は街の門を壊すのに必死なせいか、後ろを振り向かず門に集中している。
その隙を見逃すグロウズではなかった。
「貴様ら、止まれ」
静かだがよく通る声で命令する。その言葉に足を止める冒険者達。
「少年。何か強力な魔術は撃てるか?」
「強力……ですか。少し待ってください」
「あまり時間はとれないぞ」
さっきとは打って変わって冷静なグロウズは、悠斗に近づきそう訊ねた。
対する悠斗は考える。悠斗が習ったのは下級魔術をいくつかと、中級魔術を一つ教えてもらったくらいだ。
悠斗の中で強力な魔術と言えば【フレイムランス】という結論になる。だが、それだとあの大群に痛手は与えられないだろう。ではどうするか? ――悠斗はふと思い出す。マローの言葉を。
(待てよ、マロー師匠はイメージが大事だと言っていた。【無詠唱魔術】に対してイメージは不可欠。なんの魔術を使うかイメージし、発動する。なら、発動する魔術のイメージを自分で作るとどうなるんだ……?)
基本的な魔術属性は火水土風氷だ。そこに特殊な光と闇、そして雷属性が追加される。
悠斗が習っているのは基本の五つ。主に火を習っていた。今まで魔術書を見ずに、マローが実演する魔術を見てイメージを固めていた悠斗。文字の意味を理解できないなら見せたほうが早いだろうと、マローが提案したことだ。その結果、悠斗は次々と魔術を発動させた。威力を抑えるのに苦労はしているが、魔術は魔術だ。成功する度に悠斗は喜んだ。悠斗はよく火属性の魔術を教えてもらっていたため、応用もできる段階にいた。
(試してみるか……)
悠斗は目を瞑り、イメージを開始した。
イメージするのは火。その火を炎に変化させ、大きな炎を作り上げる。そして、圧縮。
これを何度も何度も繰り返す。すると。一つの丸い光の玉が、悠斗の手の平に浮遊していた。
炎を作り上げていた様子に他の冒険者は驚きざわつく。グロウズは怪訝な目を向けていたが、炎が治まると
周りも静かになった。
「少年? それは一体……」
「……今からコレをあの魔物の大群にぶつけてみます。どうなるかは僕もわかりません。ただ、強力な何かだとは思ってます」
悠斗は不安な顏でグロウズにそう言う。それに対しグロウズは、無言で頷き、冒険者達に命令する。
「今からこの少年が魔術を放つ。一応離れておけ」
その命令を聞き、冒険者達は悠斗から距離をあける。それを確認した悠斗は光の玉を見つめ、念じる。
(いけ!)
その意思に従うように、光の玉は魔物の大群に飛んでいく。
魔物の大群は、ゴブリン、オーガが主な大群になっている。オーガは二メートルを超える体躯を持ち、成人男性の五倍ほどの力を持つ下級の魔物だ。下級といってもほとんど中級の魔物と変わらない強さをもっている。なぜ下級に分類されるのかというと、単純に頭が悪いのだ。ゴブリン並の知能しか持たないオーガは、熟練の冒険者ならいい的になってしまう。そのせいか、上位種ではないオーガは特に脅威とは思われていなかった。だが、真の恐ろしさを知るのは、もう少し後だった。
飛んでいった光の玉は、門に群がっている魔物たちの中心に落ちていく。最初に気づいたのはオーガだった。身長が大きいだけあって、空中から落ちてくるものにすぐ目がついた。不思議に思ったオーガはその光の玉に触れる。
――瞬間。そのオーガは発火した。
「グガァ!?」
燃えたオーガはパニックになり暴れる。その様子に仲間のオーガは困惑した。突然燃えたオーガは腕を振り回し、あらぬ方向へ走っていく。すると、次々と周りの魔物も発火していく。光の玉が触れた魔物は揃って同じように発火していく。その様子を見ていた冒険者達は呆然としていた。
「……なあ、あんた何者だ?」
「……駆け出し冒険者です」
近くにいた男の冒険者は心ここにあらずといった風に悠斗に尋ねた。
悠斗は燃えていく魔物たちを見ながら答えた。
だが、しばらくすると燃える魔物がいなくなっていく。どうやら魔術によって作られた光の玉が消えたようだ。しかし、魔物の三分の一程は焼死したようだ。
燃えた仲間を見ると、魔物たちは怒り狂い、原因を探し始める。後方にいた一匹のゴブリンが、少し遠くにいる悠斗達を見つけると、「げぎゃぎゃ!」という鳴き声を発しながらこちらを指差した。
指を差した方向を見る魔物たち。悠斗達が目に入った瞬間、それぞれが叫び声を上げてこちらに突っ込んでくる。
「貴様ら! 少年がかなり数を減らしてくれたが、ここからが本番だ! いいか! 覚悟を剣に戦え!」
「「「応!」」」
突撃してくる魔物たちを迎え撃つ形で武器を構える冒険者達。
両者がギリギリまで近づくと、冒険者は戦技を放ちながら迎え撃った。
魔物はその数にものをいわせ突進してくる。
今、冒険者と魔物の戦いが始まった。
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「なぁ、さっきから門を攻撃してた音がなくなってねぇか?」
「確かに。外でなにかあったのか?」
そこで会話しているのは、ブブルの街の門番達と冒険者達だった。今にも壊れそうな門を見て、住民たちに知らせようとしていた。だが、突然門を叩いていた音が消えたのだ。
三日前。物見台と門の前でいつも通り見張っていた門番達。
最初に気づいたのは物見台で遠くを見ていたものだ。森の中から緑色と赤色のなにかがこちらに向かってくるのを見つけた。近づいてくるにつれ、それはゴブリンとオーガということがわかった。一匹二匹ならどうとでもなるが、数が違った。およそゴブリンが二百、オーガ百ほどの大群だった。物見台にいた者は半鐘を鳴らしながら声を張り上げる。その様子に何事かと門番は前方を見ると、魔物の大群だ。慌てて門の中に入り、門番達と門を閉め始める。街の出入り口はここしかないため、かなり大きい門になっている。閉めるのと魔物が街に入ろうとしたのはギリギリだった。
そうして魔物が門を攻撃し続けて三日が経ち、門の前にはこの街の冒険者が集まっていた。
もし門が破られた時、応戦するためだ。だが、門は壊れなかった。
「なぁ、ちょっと上って見てきてくれ」
「はい」
冒険者の一人は顎をクイッと物見台に向けて門番に頼んだ。
その門番は言う通りに物見台に上り、街の外を見る。
するとその門番の男は声を張り上げた。
「人です! 冒険者だ! 冒険者が魔物の大群と戦っています!」
「なに!?」
「冒険者ですって? 一体誰が呼んで……」
「いや、今はそんなことはいい。おい! 門の外に魔物はいるのか!?」
「ゴブリンが数匹だけ……」
「なら門を開けろ! 俺達は加勢しにいく!」
「は、はい! みんな、手伝ってくれ」
冒険者の言葉に従い、門を開けていく門番達。だが門を閉める時より遅い。その様子にイライラした一人のビーストの冒険者が近づいていく。
「俺も手伝ってやるぜ。これを引っ張ればいいんだよなァ?」
「は、はい! けどお一人では……」
「いいから貸せ! 十分練ってから来たからよォ!」
「練った?」
その聞きなれない言葉に疑問を持つが、次の瞬間理解した。
そのビーストの腕に白いオーラが纏わりついていたからだ。
門番が引っ張ていた縄を強引に奪うと、一人その縄を引き始めた。
「あなたは【拳闘士】なんですね……」
「おうよ。しっかし、重いなァこの門はよォ」
「だから一人じゃ無理だと……」
「けどよォ、動いてきたぜ?」
そのビーストが引っ張っていた片方の門は少しずつ開いていく。
元の力に合わせ、『部分強化』によってさらに強化されている腕力で強引に縄を引いていた。
「よし! このまま……」
「はい、ストップ。半分くらい開いたしそこまででいいよ」
ビーストがさらに引く力を強めようとすると、肩を叩かれた。
肩を叩いたのはヒューマンの冒険者だ。その冒険者は青い髪の青年だ。盗賊風の装備をしていた。
「……わかった」
「それでよし」
「じゃあさっさと行こうぜオーゼン! ハルトがいるかもしれねェ!」
「そんなに焦らないで。もしかしたらハルト君がいるかもしれないけど、そう簡単にはやられないはずだよ」
オーゼンと呼ばれた青年は門の外へと歩き出す。
それに続くように他の冒険者も走って外に向かっていった。
遠目で戦っている冒険者と魔物を見る。
「バーキィ。結構な大群だけど、いけるのかい?」
「はっ! 誰に言ってんだ? 俺は誇り高き獅子族だ! あんな魔物の大群くらいどうってことねェ!」
「前のビッグラットの大群とは違うよ? オーガも混ざってる。けど、自信満々だねぇ」
苦笑しながらバーキィを見る。
すると突然バーキィは走り出す。チラリと横を見た。門の前にいたゴブリンは、先に行った冒険者達が倒していったようだ。
「あんなもんただの体がデカい木偶じゃねェか! 頭も悪い魔物なんかに俺が負けるかよ!」
そう言い残して突っ込んでいった。
オーゼンはため息を吐いて戦技を発動する。
「【疾風】」
その戦技が発動すると、さっきまでいた青年は影も形も無くなっていた。
誤字脱字やおかしな部分は気づき次第修正します。
もしかしたら加筆するかも?




