30話 野営&襲撃
今回はバトルが入ってきます。
あと、前話の馬車の中でなのですが。シュカについての加筆をしました。
そしてグロウズの口調も修正しました。久しぶりの登場で口調を忘れる作者……。
ついでに二章 王都へ になっていたと思いますが、前兆 に変えさせてもらいました。
王都行くのに結構かかりそうなので……
はい、それではどうぞ。
五時間ほど馬車で移動していると、グロウズが御者に「ここでいい」と命じた。
それに応じて馬車を止めると、後方を走っていた二台の馬車も止まる。ぞろぞろと馬車を降りていく冒険者達。
馬車を止めたのは森の中の、少しひらけているところだった。
「今日はここで野営を開始する。貴様らは分かれてテントを張り、焚火の準備をしてくれ」
グロウズがそう命じると一斉に冒険者達は動き出した。
馬車に積んであったテントを取り出し組み立てていく者。周りの林から枝を集めてくるもの。
悠斗はというと、おろおろとしていた。
テントの張り方がわからない。焚火の準備と言われてもよくわからない。じゃあなにをすれば?
そんな考えが頭の中を駆け巡っていた。
その様子を見ていたグロウズは、おもむろに悠斗に近づき声をかける。
「少年。どうかしたか?」
「その……僕なにも知らなくて、どうすればいいのかわからないんです……」
「ふむ……。なら、私と一緒に周りの警戒をするか?」
そう提案された悠斗は頷いた。
「うむ。では私達はあちらを見張ろう」
そう言って歩き出したグロウズの後を追う。
少し歩いたところでグロウズは止まった。これから進む道の方を見張るようだ。
「主に、魔物や盗賊を警戒する。戦闘は大丈夫か?」
「はい、ビッグラットなら任せてください! ……昨日、人も相手にしました」
「……そうか。いずれ通る道だ。それに慣れないと少年、君が壊れてしまうぞ」
「それは……」
次の言葉は続かなかった。わかっていたのだ。その意味を理解した悠斗は、静かに頷くしかなかった。
「……うむ。とりあえず今は警戒だ。交代の者が来るまではここに立って見張りを続ける」
「はい」
夕日が落ちていく。それを目にしながら悠斗達は周囲を警戒していく。
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結局、交代の者が来るまでネズミ一匹現れなかった。
交代した悠斗達は、焚火とテントが張ってある場所に戻り、食事を開始する。
悠斗の手に渡されたのは干し肉と皮の袋に入った水だった。
他の者もそれと似たような食事だったが、数人は量が多かったり、パンを食べている者もいる。
悠斗はそれらの準備を怠ったため、文句は言えない。食事を分けてもらえるだけ十分だ。
干し肉を食べながら焚火の火を見つめる。
(オーゼンさんとバーキィさん。無事だといいな。あの二人が倒れるとこを想像できないや。最初に会った時の衝撃もそうだけど、戦闘を見た時はもっと驚いたなぁ。けど、どういう状況になるかわからないから安心はできない……。早く、早く助けに行きたい……)
食事の手を止めながらジッと火を見つめていた悠斗。
その横に誰かが座った。
「隣、いいかな? 少年」
グロウズだ。当然悠斗はそれを拒まず了承する。
「何か考え事か?」
干し肉を一口食べてそう話を切りだした。
「……わかりますか? ……ブブルの街に、あの二人がいるんです」
「オーゼンとバーキィ、か……」
「はい……。ブブルの街が魔物の大群に襲われているという情報は、あの冒険者の方が直に見たことなんですか?」
あの冒険者とは、ギルドに駆け込んできた冒険者の事だ。
それをグロウズに尋ねた。グロウズならなんでも知っている。そんな気がした悠斗。
「いや、別の冒険者が逃げてきたのだよ、ブブルから。その冒険者は寝る間も惜しみこの街へ馬を走らせ、ブブルの危機を伝えた。その危機を伝えられたのがギルドに駆け込んできた冒険者というわけだ」
そう詳しく教えられた悠斗。
(グロウズさんは独自の情報網でもあるんだろうな……)
グロウズの話を聞き終ってからそう考えた。
「だが、あの二人は中級冒険者。簡単にやられはせんよ。そう私は信じている」
ブブルの街の方角に顏を向けながら、グロウズは口にした。
「そうですね。僕も無事だと信じています」
「うむ。今は信じるしかない」
焚火を前に食事を終え、就寝することにした。
だが自分のテントを持ってきていないと思いだした悠斗は、グロウズに相談すると「私のテントを貸してあげよう」と言われ安堵した。
グロウズのテントは大人が三人は入れる大きさだ。ただ、グロウズの体は大きいので実質二人分のスペースになっていた。
テントの中で横になると、悠斗はすぐに意識を眠りに落とした。
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突然、悠斗の頬に衝撃が走る。
「んぇ?」
その衝撃で目を覚ます悠斗。間抜けな声を出した悠斗は目を擦りながら起き上がる。
「起こしてすまないな少年、緊急事態だ。テントの周囲を何者かに囲まれている……。警戒してくれ」
寝ぼけながら聞いていた悠斗は、その言葉を理解するのに数秒かかり、意識が徐々に覚醒していく。
「……えっ!? 囲まれてる……ですか」
「そうだ。あまり大声は立てずに外に出るぞ」
「……はい」
その言葉に声を静かにして返事をする。グロウズは枕元に置いてあった何かの柄を持っていく。
悠斗はその柄を不思議に思いながら手元に剣を出す。
「ほう……。それが君の武器、というわけか」
「はい……あんまり人前じゃ出すとこ見られたくないんですが、グロウズさんは信用してます」
「信用か。嬉しいものだな」
一瞬少し笑ったグロウズ。だが直ぐに前を向いて警戒する。
悠斗達はテントの外に出る、が特に怪しい影は見つからない。
「……なにもいませんね」
「いや、気配はする。目視はできないみたいだが……恐らく森に隠れているな、油断はするな少年」
「すいません、そういうのまだわからなくて……」
「いやいい。私のは天性によるものだ。本来習得するにはそれなりに訓練をしなければならない」
そんな説明をしながらも警戒を緩めないグロウズ。すると、周りのテントからも数人が武器を持ちながら出てきた。どうやらグロウズと同じく、気配を感じ取れた者達だろう。
周囲を警戒するが、一向に何もおこらない。
「……こちらから打って出るか? どうするか……」
グロウズが算段を考える。
――突然甲高い音が鳴り響いた。
それに警戒心を高める冒険者達。悠斗も武器を構えて周りに目を向ける。すると、森の隙間から緑色の何かが写った。葉っぱではない、薄汚れた緑色の何かが。
「……?」
不審に思った悠斗はそこを凝視する。
次の瞬間。
森から何かが飛び出てきた。
「ぐぎゃぎゃ!」
それは、小さい子供のような身長をした、緑色の生物だった。
「グロウズさん!」
「わかっている。なるほど、ゴブリンか……。今まで現れなかったのは合図を待っていたからか」
(だが、合図? ゴブリンはそこまで賢い魔物ではなかったはずだが……)
そこまで考え、頭をふる。そして、グロウズは柄に魔力を込める。すると、黒色の刃が現れた。
その刃は斧の形をしていた。
「グロウズさんのその武器……」
「ああ。少し特殊な武器でな、魔力を込めると刃が出る仕組みだ」
「へぇ……」
紋様術とは違う仕組みに、悠斗は興味が出た。
「だが、今はそんなことはどうでもいい。……貴様らぁ! 敵はゴブリン、数は不明だ! 不測の事態に備えながら撃退せよ!」
周りの冒険者たちに指示を出してゴブリンに向かって飛び出していく。
「げぎゃ!」
ゴブリンは鳴き声を発しながら悠斗にも飛びかかってくる。だが、それを剣で斬り捨てる。
「初めてみるけどやっぱり、ゴブリンって弱いんだな……」
ゴブリンは地面にその体を沈める。
(日本のゲームだと雑魚敵扱いになってたけど、この世界のゴブリンも同じ扱いか……)
半分に分かれたゴブリンの体を見ながら、小さいころにしたゲームの事を思い出した。ゴブリンは等身が子供ぐらいの大きさで、緑色の肌をしている。腰布だけを巻いて素手で向かってくる魔物だ。通常のゴブリンは知能が低く、武器を扱うとしてもせいぜい棍棒や石になってしまう。上位種のゴブリンになると体も大きくなり、剣や斧を扱ったりもする。通常種はビッグラットと同じ下級の魔物だ。一つ違うのは、一匹で行動していることが少ない事だろうか。
向かってくるゴブリンを一刀のもと斬り捨ていく悠斗。
「この程度なら魔闘変化する必要はない、ね!」
周り冒険者も特に苦戦せずにゴブリン達を倒していく。
だが、数が違う。いくら倒しても森の中から湧いてくるため、キリがない。
すると、さっき鳴ったような甲高い音がまた鳴った。よく聞くと少しだけ違うのだが、それに気づいたのはグロウズだけだ。
「貴様ら! 気を付けろ、何か別の合図が鳴ったぞ!」
「「「応!」」」
グロウズの言葉に力強い返事で返す冒険者達。
悠斗も気合を入れなおして警戒する。
すると、またやゴブリンが襲い掛かってくる。だが、さっきと違って三匹同時だった。
「くっ……!」
三匹相手だと手こずる悠斗。だが一匹を剣で斬り倒した後、すぐさま襲ってくる別のゴブリンに魔術を打ち込む。【無詠唱】のファイアだ。
「ぐぎゃぁあぁあぁ!」
その炎を受けたゴブリンは体を炎で焼かれ、やがて命を落とす。
通常のファイアより威力があるのは込めた魔力量が違うためだ。効率は悪いが、魔力が有り余っている悠斗には関係ない。
二匹の仲間が一気に倒されて驚くゴブリンだが、なにも考えずに悠斗に襲い掛かっていく。
それを避けながらカウンター気味に腹を斬る。
「ぐげっ……」
腹から血を吹き出し、倒れる。
「ふぅ。ちょっと危なかった……」
他の冒険者を見ると、苦戦はしているようだが戦えている者が多い。ゴブリンをはやく片づけた者は他の冒険者に加勢している。
悠斗をそれを見ると、魔術で援護し始める。
三匹のゴブリンに苦戦していた冒険者は、突然飛んでくる魔術に驚きながらゴブリンを倒していく。
その魔術が飛んできた方を見ると悠斗がいた。それを確認した冒険者は援護は任せた、という風に頷く。
悠斗は次々と魔術でゴブリン達を倒していく。その中でグロウズの援護にも向かおうとした。
――三匹のゴブリンが宙を舞った。
「「「ぐぎゃ……」」」
グロウズは、その斧を持ち替えて、まるでゴルフのようなスイングでゴブリン達を横殴りに吹き飛ばしていく。次々とグロウズに向かっていくゴブリン。
遂には五匹以上で攻めてくるゴブリンだが、グロウズには関係なかった。
どれだけの数で向かっていっても、グロウズに近づく前に吹き飛ばされるか、斧に両断されるかどちらかだった。グロウズのジョブは【戦士】。【戦士】は重い武器を扱うものが就くジョブだ。大抵は大柄な体型の者が好むジョブになっている。
そうして相手にしていたゴブリンの合計が三十を越したあたりで他の冒険者達も戦闘を終えていく。
なかには軽い怪我をしていたものもいるが、持ってきていたポーションなので回復していく。
するとあの甲高い音がまた鳴り響く。
「ちっ! またこの音か!」
「またゴブリンの群れか?」
口々に言葉に出す冒険者達。ゴブリン相手といえど、疲労は溜まる。それに夜の襲撃だっため、睡眠も中途半端だった者が多い。
「……もうこないかな?」
警戒は解かずに周囲を見る。
すると、横の森から木々を折ったような音が鳴り、それは姿を表した。
「グオオオオオオ!!!」
現れたのは、五メートルは超えるだろう一つ目の巨人だ。鼓膜が痛くなるほどの大声で吼える。
手には大の大人程の棍棒を持ち、それを振り回しながらこちらへ突っ込んでくる。
「巨人だ! 散開して迎え撃て!」
グロウズの指示に従って悠斗はその巨人の横に走る。
「ちくしょう! なんでこんなとこに巨人なんていやがんだ!」
「文句言ってる暇はねぇぞ! あの棍棒に一度でも当たれば、俺たちは粉々になっちまう……」
「馬鹿、殴られても蹴られても粉々だ!」
冒険者達はぼやきながらそれぞれ巨人の横や後ろにつく。
グロウズは正面で立ち、巨人を待っている。
「貴様ら! わかっているとは思うが、まずは足を狙え! それから急所に攻撃をぶち込むのだ!」
「「「応ッ!!!」」」
ゴブリンの時より気合が入った声だ。この巨人は中級の魔物の中でも上位に位地する魔物だ。
さっきのゴブリンとは比べ物にならないほどの強敵。悠斗は初めて見る巨人に恐怖する。
だが、こちらにはグロウズがいる。元上級一位の冒険者が。それが支えになって悠斗を突き動かしていた。
「こい!!」
グロウズがそう叫ぶと体に赤いオーラを纏う。目に見えるそのオーラは挑発系戦技【ウォークライ】。
この戦技は発動者が指定した相手の気をこちらに向けさせるための戦技だ。
それを発動したということは、
「グオオオオオオ!!!」
巨人が一直線にグロウズに向かって走っていく。それを追尾するように周りの冒険者も追う。
巨人はまず蹴りを繰り出した。
「ぬんっ!」
それを斧で受け止めるグロウズ。グロウズの体が少し地面を滑るが、蹴りの勢いを殺す。
次に棍棒を縦に振り下ろす。その棍棒をバックステップで避けたグロウズはすぐに飛び込み、巨人の足を切りつける。
「グオオッ!?……ガアアアアア!!」
切られたことに怒り、滅茶苦茶に棍棒を振り回す。
冒険者達は距離を取り、様子を見る。グロウズはその力の暴風に突撃していく。
「ぬおおおおお!!」
斧で棍棒の嵐を止める。だが、すぐさま棍棒を振りかぶりグロウズに向けて振り下ろそうとした巨人。しかし、棍棒は動かなかった。
グロウズがその棍棒を体全体で掴んでいた。腕の筋肉が膨張している。これは紋様術【ストレングスアップ】によるものだ。効果は自分の体の一部の力を倍化させる効果がある。
この【ストレングスアップ】は【拳闘士】が使う【紋様闘術】『部分強化』とは似ているが、闘気による強化ではない。
そのため、効果時間がかなり短い。
だが、一瞬のために使うのなら問題はなかった。
「今だ! 足を狙えぇ!」
グロウズが大声で指示をすると、冒険者達が雄たけびをあげながら巨人の足目がけて攻撃していく。
「グア!? グオオオオ!?」
足を攻撃されると、たまらず巨人は手に持っていた棍棒を手放し、腕を振って冒険者達を追い払う。
だが、既に冒険者達は足元を離れていた。悠斗はついでとばかりに足に向かって魔術を連発する。
そして最後に顏へ向けて覚えたばかりの中級魔術を発動する。
(【フレイムスピア】!)
詠唱はないが、イメージだけで発動した魔術。上級魔術にも匹敵するだろう威力を秘めていた炎の槍は、サイクロプスの顔面に向かって飛んでいく。
「ゴアッ!?」
だが、咄嗟に避けられてしまった、が。少し掠ったせいか、巨人は目を抑えて苦しむ。
「グアアアア……!」
「よしっ!」
おもわずガッツポーズをする悠斗。それを見ていた周り冒険者は悠斗を見て驚いていた。
「ほう……。やるではないか少年。なら、私も……決めさせてもらう!」
未だ巨人の足元にいたグロウズは、【ストレングスアップ】を発動する。
そして、近くに転がっていた棍棒を掴むと、サイクロプスの足に向けて横にスイングする。
「ぬりゃあああああ!!」
棍棒が足にぶつかる。固い打撃音がした後、骨が折れる音が鳴り響く。
「グオオオオオオ!?」
足を折られた巨人は後ろに倒れる。
倒れたサイクロプスにグロウズは追撃を仕掛ける。
足に【ストレングスアップ】をかけ、飛びあがる。そして巨人の顏目がけて落ちていく。
「これで止めだ!」
斧を握る手に赤いオーラが纏わりつく。
「【剛斧撃】!!!」
全体重を乗せた一撃を、戦技を発動させて繰り出した。
――衝撃。地が揺れ、砂埃があたりを舞う。
砂埃が徐々に晴れていくと、巨人の体が見えてくる。
その体は、――巨人の体は上半身と顏を消失させていた。
残っていたのは下半身のみ。
上半身があった場所には、隕石が落ちたようなクレーターが出来ていた。
誤字脱字、おかしな部分は修正します。
ちょっと加筆するかもしれません……。




