29話 馬車の中で
少し遅くなりました。すいません
それでは、どうぞ。
「はぁ!? ブブルってあのブブルか!?」
最初に口に出したのは、入り口近くの席に座っていた冒険者だ。
その言葉を皮切りにまわりの冒険者は、何やら装備の確認を始めた。
「助けに向かわないと!」
「わかってるわハルト君。こういう時はいつも……」
チラリと奥の階段を見る。リンの目線を辿ってみると、階段からグロウズが降りてきた。
グロウズはゆっくりと冒険者全体を見渡せるような位置に行き、大声でこう言った。
「話はこの者から聞いた! 諸君! ギルドからの緊急依頼だ! 成功報酬は金貨十枚! ブブルの街を救え!」
グロウズの後ろから冒険者がでてき、ギルド全体に響き渡るような大声でそう言った。その後、静かだがよく通る声でこう付け足した。
「ただし、実力が足りないと思うものはここへ残れ。新人なら無理はするな。もしそれでもいきたいと言うのなら、私は止めはせん。以上だ」
その言葉を残してグロウズは階段を上っていった。
「緊急依頼……僕も参加できるんですよね?」
「さっきギルド長が言った通り、参加は出来るわ。けど、確実に危険なのよ。それでもやる?」
今までにない真剣な顏で悠斗の返答を待つ。
「……もちろんです。あの二人が危険にさらされているなら、僕は迷わず助けに行きます」
リンの目を見てそう断言する。
「ふぅ。それなら止めないわ。ただし、死なないで帰ってくること。いいわね?」
「はい!」
溜息を吐いたリンは仕方ないとばかりに肩をすくめながら言った。
「そうだよ。私とのデートの続きもしないとだしね」
突然そんな声が耳元から聞こえてきた。
「エ、エリナさん!? 近いです!」
「あっごめんごめん。ついね」
ぺロッと舌を出して謝るエリナ。
「ちょっとエリナ。ハルト君は緊急依頼に行くんだから応援でもしてあげなさい。それにデート……? いつしたのよそんなこと!」
最初は真面目だったリンだが、最後で台無しだった。
「この前、服屋一緒に行ったもんね? それがデートだよ」
「それはデートじゃなくてただの案内でしょ! あの後一時間もいなくなって私大変だったのよ?!」
「それについてはごめんね。ハルト君の服選び手伝ってたら楽しくなちゃって時間かかっちゃった♪」
「まだ許してないんだからね私……」
エリナの言葉にジト目で返すリン。悠斗はその会話を横で静かに、傍観していた。
「……とりあえず、その話は置いて。今は緊急依頼よ」
「そうだったそうだった。ハルト君が居たらつい、からかいたくなるから……」
そう言い残して二人は受付カウンターの奥へ消えていった。
「僕は、どうしたらいいんだろう……」
一人残された悠斗は呆然とした。
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「わわっ!」
人が長年踏みならしていった道を、三つの乗り物が爆走していく。
その乗り物は馬車だ。
悠斗は今、馬車に乗っている。ブブルの街へ行くため、かなり急いで向かっている。馬を乗り潰す勢いで走らせているのでかなり揺れが激しく、尻が痛くなってくる悠斗。今走っている道は通常ゆっくりと走らないといけない道なので石やへこみでガタガタの道になっている。
あのあと悠斗は、近くの冒険者に緊急依頼のことについて質問し、馬車に乗ることと、その馬車がどこにあるかを教えてもらった。その場所に行くと、三十人ほどの冒険者が三つの馬車に乗っていた。
悠斗も空いている馬車に乗りこむと、「時間がないからいくぞ」と御者をしている冒険者がそう言うと馬車は走り始めた。最初はゆっくりと走り始めたが、徐々に速度を上げていき今に至る。
ちなみにシュカなのだが、もちろん街に残っている。冒険者ではないシュカには緊急依頼は関係ないのだ。それを伝えようとするが、シュカの姿が見当たらない。受付嬢の二人がいなくなったあとシュカがいないことに気づいた悠斗は、まわりを探す。するといつのまにか隣にシュカがいた。どうやら【ステルス】を使っていたらしい。
なぜ使っていたかは急いでいて聞けなかったが、人が多いとこは苦手だという事実が後に発覚する。
「我慢……我慢」
尻が痛い悠斗は涙目になりながら座っている。立とうにも支えがなくバランスを崩す。ただしゃがむだけでは馬車による衝撃で前のめりに倒れてしまう。座るのが一番いいのだ。
そんな悠斗に一人の男性が隣から声をかけてきた。
「少年よ。この布をお尻の下に敷くといい」
その声に聞き覚えがある悠斗はハッとして隣を向く。
「グロウズさん……ですか?」
怪訝そうに聞く。隣にいたのはフルフェイスタイプの兜を被った鎧の男だった。さっきの声はくぐもって聞こえたため、確証はなかった。
その男は兜をガチャガチャと音を立てながら外していく。
「ふぅ。これで私とわかったか?」
兜の下には見慣れた顏があった。
「やっぱり、グロウズさんですね。でも、なんでこの馬車に……?」
「私がここにいたらおかしいか? ギルドにいる少ない実力者の一人だと自負しているのだが……」
悠斗の質問にさも当然といった風に答える。
「そうだぜ坊主。ギルド長は元冒険者、それもランクは上級一位だ。あの街じゃ一番の実力を持ってるんだぜ?」
グロウズとは逆の隣に座っている冒険者の男性にそう言われた。
「そりゃそうだ。うちの最高戦力だぜ」
「おうおう。グロウズさんに勝てるやつぁここらにいねぇぞ」
周りの冒険者も口々にグロウズの事を称賛する。
その言葉を聞いていたグロウズは無言で兜を被りなおす。
「私を褒めるのはいいが、貴様らにもいつか私を超えて行ってもらいたいものだな」
低い声でそう言うと、他の冒険者は装備の点検をし始めた。
「……全く。それで少年。君はここにいても大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
「簡潔にいうと実力はあるのか? ということだ」
「……はい、皆さんに迷惑はかけないつもりです」
その質問に対して悠斗はしっかりした返事で返す。
「そうか……。登録してまだ一週間と少ししか経っていないのに、随分と自信があるのだな」
兜の中で嬉しそうな声で言った。
「一応、僕にも色々武器があるんですよ……」
右手の甲を見ながらそう呟いた。
「ふむ? その紋様が君の武器か。なら戦で活躍してもらう事を期待している。まぁ、あと一日はかかるがな。どんなに急いでも馬が潰れればブブルに向かう速度が落ちてしまう。だから途中で野営を挟むのだが……」
チラリと悠斗を見るグロウズ。
「? どうかしました?」
「少年よ。君は腰の袋しか持ってきていないのか?」
「ええ、邪魔になるのでいつもこれだけです」
グロウズがそう訊ねると悠斗は布袋を叩いて答える。
「野営をするのだが、もちろん食料や水が必要になる。だが少年、君はそれを持っていないと……?」
そう言われて気づく悠斗。だが、悠斗は緊急依頼などという特殊なことは初めてであるため仕方ないと言える。
「……ごめんなさい。これだけしか持ってきてないです……」
顏を伏せてそう言った悠斗。
「いや、大丈夫だ少年。こういう時もある。だから野営の時は誰かに食料を分けてもらうといい。貴様ら、話は聞こえていただろう。誰か余分に食料や水を持っている者はいるか? いたらこの少年に分けてやってほしい」
悠斗に対して話していたグロウズは他の冒険者に対して問いかける。
「あー、俺は干し肉いっぱい持ってきてますぜ」
「俺は水を少し多く持ってきた」
「俺も色々とあります」
次々と口にされるその言葉にグロウズは満足する。
「どうだ少年。ここの冒険者たちも、中々いいもの達だろう?」
そう言われた悠斗は立ち上がり、大きな声で礼を言う。
「皆さん! 本当にありがとうございます!」
その直後に大きな揺れがきてしまう。当然悠斗はこけてしまい、まわりに大笑いされてしまった。
悠斗は赤面して静かに座って縮こまった。それを機に悠斗は、他の冒険者達と打ち解けていった。
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