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紋章の勇者  作者: 新
二章 前兆
29/41

28話 悪い知らせ

まず悠斗が案内したのは焼き鳥の屋台だ。いつも昼食はここの屋台で食べている。店主とはもう顔馴染みだ。

次に服屋。その次は大通りの宿屋。悠斗はあまり行かないが武具屋も案内した。武器や防具のイメージが欲しいときは希にこの武具屋に行く。そして道具屋だ。

悠斗はポーションの類をあまり持たない。かさばるからである。持てたとしても一本が限度になる。そもそも悠斗には【高自然治癒】が備わっているため、あまり必要性は感じられなかったのだ。案内をしているうちに脇の怪我はほとんど治っていた。失った血は戻らないため、食物で補給は必須だ。


そして、最後に悠斗が泊まっている宿へ案内した。


「ここが僕が泊まっている宿だよ。とりあえずシュカ、ちゃんはここに泊まるといいと思うんだけど、どう?」

「ハルトさんが決めたのならここにします」

その言葉を聞いた悠斗はニコっと笑い、入り口の扉をあける。

「おかえり。ってあら、可愛い子を連れてるじゃないかい」

目を瞬かせて悠斗の隣のシュカを見る。

「えっと、街の外で出会って、街案内を頼まれたので……」

「そうかい。まあ客なら歓迎さ。それでお嬢ちゃんはあたしの宿に泊まるのかい?」

特に詳しく聞かれるわけもなくあっさり会話は変わる。悠斗はホッと安堵した。


「シュカ、ちゃん。お金持ってる?」

「呼び捨てでいいですよ。けど、ごめんなさい。銅貨数枚しか持ってなくて……」

腰の布袋に手を突っ込み、銅貨を取り出しながらそう答えた。

「そっか」

それを確認した悠斗は女将のほうへ向き直す。

「この子……シュカの宿代はとりあえず僕が払っておきます。どうぞ」

そう言って三日分の銀貨を払う。

「……重ね重ね、ありがとうございます」

「いいよ。返してくれたらそれで」

お礼を言われて短く返す悠斗。

「それじゃあ部屋案内するからついてきな」

「シュカ、行っておいで」

シュカは頷くと、女将のあとをついていく。


それを見送った悠斗はあることに気づく。

「そういえば、オーゼンさんとバーキィさん帰ってくるの遅いなぁ」

今日であの日から一週間。依頼を終えて帰ってくるはずなのだ。

「結局ロックバードは取れなかったなぁ。まあ、人一人助けたんだから仕方ないよね」

一人で納得する。すると階段から足音がする。姿を表したのは女将だ。シュカはいなかった。

「あれ? シュカはどうしたんですか?」

「あの子、部屋を案内したらそのままベットに横になっちゃってねぇ。相当疲れてたんだろうね」

「そうですか……。多分明日の朝まで起きないと思うので、朝食を多めに作ってもらっていいですか? お金は払うので……」

「別に御飯を多めにするくらいでお金取ったりしないよ!」

笑いながらそう返されるとなんだか恥ずかしくなってくる悠斗。

「それじゃあ僕も部屋に戻るので、夜の食事ができる時間になったら降りていきますね」

「あいよ。それじゃゆっくりしてきな」

そう言うと女将はカウンターに戻っていく。悠斗も階段を上り、自室へ帰る。


自室に戻った悠斗はベッドに座り、シュカの事を考える。

(あんなことがあったんだ、疲労してたに決まってる。多分、独りでここまで逃げてきたんだろうし、今までの疲れがでたんだろうね)

そう思う悠斗だったが、不安もあった。

(問題は、何から(・・・)逃げてきたかだけど……それは明日聞いてみよう。無理そうなら自分から話してくれるまで待とう。けど、王都へいくお金は既に貯まっているからあまり待てない。そうなったら宿代を残してギルドに保護を頼んでみようかな。最悪冒険者にでもなってもらえれば……)

ギルドに信頼を寄せているのは、グロウズがいるからである。あれから何度か会い世話になっていたりする。


「とりあえずシュカについては明日また考えよう。わからないことだらけだし……」

そう言うとおもむろにベッドから床へ立つ。

「……昼間は、苦戦しちゃったな。やっぱり戦いなれている人相手は厳しいかったな……。僕のアドバンテージはイメージした武器を出せること。だからイメージトレーニングとその出した武器を扱う練習しないとなぁ」

悠斗はとりあえず部屋でできるイメージトレーニングを始めた。武器を手元に出して、消す。これを何度も繰り返す。魔力は十分にあるので簡単になくなることはない。

そうして時間は過ぎていった。

その後、丁度いい時間に下に降りていき、女将の御飯を食べた悠斗は少しだけ運動をして就寝した。


~~~~~~~~~~~~~~~


明朝。悠斗はいつもの時間に目覚める。

「ふぁぁぁ……」

大きなあくびをしながら背伸びし、ベッドを降りていく。

「よし。今日もがんばるぞ」

そう呟いた悠斗は部屋を出ていく。

部屋をでた悠斗はいつも通り下に降りていき、宿の裏に行き水浴びをしようと裏口の扉を開ける。


――そこには少女の後姿があった。裸の。


「へっ?」

「え?」

間抜けな声を出して、数秒その背中を凝視してしまった。

その声に気づいた少女は振り返る。

シュカだった。銀髪は濡れていて、体に張り付いていた。

その真っ白な肌には水が滴っていて、朝日に照らされて輝いていた。


「~~~~!!??」

悠斗に気づいたシュカは瞬時に顏を赤くしてうずくまった。

「あっ、えっと、ごめん!!」

悠斗は後ろを振り返りながら扉をしめる。

「……やってしまった。どうしよう……! 謝ったら許してくれるかな……? いや、許す許さないじゃ……」

女性に対しての対応がよくわからない悠斗はブツブツと独り言を言う。

「……うん、謝ろう」

結果、とりあえず謝るしかないと結論。

そうと決まれば悠斗はシュカがでてくるまで待つ。

「けど、綺麗だったなぁ……」

さっきの光景を思い出すと、頭がぼうっとする悠斗。

「けど、なんだろう。違和感(・・・)があったんだよなぁ……頭になにか生えてたような……うーん」

悩み始める悠斗。だが、キィと音を立ててゆっくり扉が開いてくる。

さっきの違和感に対して悩む悠斗は、扉が開いたことに気づいていない。


「あの。ハルトさん……?」

「!? は、はい! どうしました!?」

突然名前を呼ばれて声がうわずる悠斗。

「なんで敬語に……。井戸での水浴びは終わったので、代ろうかと……」

「あ、ああうん。それじゃ代らせてもらうね! うん!」

ロボットのようにギクシャクとした動きで裏に出ていく。扉はシュカによって閉められた。

「……謝れなかった」

一人地面に四つん這いになり、落ち込む。


その後。水浴びをした悠斗は食堂に行き、シュカに平謝りした。シュカは「別に構わないですよ。少し恥ずかしかったくらいです」と言われて謝罪を止められる。鉢合わせてしまったのは、どうやらシュカが悠斗より早く起きたためだった。シュカは起きると下に行き、女将に水浴びを進められ裏口を教えてもらったそうだ。後は水浴びをしている最中に悠斗と鉢合わせ、ということだ。


「ほんとにごめんね?」

「もう……大丈夫ですよ。だから謝らないでください」

何度も謝ってくる悠斗だが、流石にそう言われると謝罪をやめる。

「ほら、朝食がきましたよ。食べましょう」

女将がいつものおぼんに朝食を乗せて運んできた。

その朝食を食べた悠斗達は女将に出かけると伝えると、宿を出てギルドへ向かった。


そのギルトへの道中。悠斗はシュカに話を切りだした。

「突然だけど、シュカは……なぜこんなとこまで逃げてきたんだい?」

「……話さないと、いけないんでしょうか?」

そう聞くと顏が曇り、不安な目で悠斗をみる。

「ううん。嫌なら話さなくても大丈夫だよ。無理に聞くつもりはないしね」

あらかじめ用意していた言葉を言う。

「……すいません」

そこで会話は終了して二人はギルドへ黙々と歩き続ける。


ギルドに着くと、中に入っていく二人。

「ここは昨日運んできてもらったからわかるよね」

「はい。冒険者ギルドですよね」

「そう。昨日は本当にありがとう」

再びお礼を言った悠斗は受付へ歩いていく。それについていくシュカに悠斗は話し出す。

「今日ここにきた理由はね、僕の知り合いについて聞くためなんだ」

「知合いですか?」

「うん、ちょっと知り合いの依頼についてね……」

短い会話をしながら歩いていく。


「あら! ハルト君じゃない。怪我は治った?」

「はい、おかげさまで。あの時のポーション、ありがとうございました」

「いいのよ。ていうか治ったの? どういう体してるの君は……」

そうお礼を言った悠斗にリンは呆れ顔になった。

「そのことは置いといて、今日は用事があったのでギルドに来ました」

「用事? なにかしら。その子の冒険者登録でもするの?」

そう言ってシュカに指を差す。

「あはは……。それも考えてますが、今日は別件です。バーキィさんとオーゼンさん達が依頼から戻ってこないんですが、なにか知ってたりします?」

「あの二人かぁ……。私達ギルド職員はあまりそういう情報を他人に伝えたりできないのよ。ただ、期限以内に帰ってこないのは心配してるの」

「だったら……」

教えてくれても。その言葉が出る前に、ギルドの入り口から一人の男が駆け込んできた。

「みんな! 大変だ! ブブルの街が魔物の大群に襲われたって連絡がさっき入った!」

開口一番、とんでもない事を言う男。その言葉にざわざわとするギルド内の冒険者たち。


「ブブルの街が……!?」

その知らせに驚くリン。

それに対して嫌な予感がする悠斗。

「まさか……その街に二人がいるんですか……?」

「……そのまさかよ。依頼でその街まで行っているのよ」

その衝撃の言葉に悠斗は目を見開いた。



誤字やおかしな部分があれば修正します。

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