25話 悠斗と彼女の出会い
ちょっと遅れましたが、すいません。
この話は【無詠唱魔術】発動&弟子入り? の一週間後の話になっております。
それでは、どうぞ。
どうして、こうなったんだろう?
今私は逃げている。二人のヒューマンに追われて。
「おい! どっちにいきやがった?!」
「こっちじゃねぇか!?」
「いや、あっちだ! 銀髪が見えたぞ! 手間取らせやがって……!」
高い声と低い声の男たちは、叫びながら私を探している。いかにも盗賊と言った風な恰好の男たちだ。
どうやら見つかったようだ。私は必死に逃げる。奥に、奥に、振り向かず。逃げていく。
だが、現実は甘くなかったようだった。
「へっへっへ……先回りせいこ~う……」
突然前方の木から飛び出てきたのだ。走っていた私は驚いた。
後ろに追いかけてきていた連中とは別の男だった。
「ったくよぉ。あいつらがいつまでも手こずってんからよぉ、しょうがねぇから俺も捕まえに来たが、ただのハーフビーストの小娘じゃねぇか? えぇ?」
濁った眼で私を観察してくる。気持ち悪い。すぐにその場を離れたかった私は、ある戦技を使う。
「………」
「……!! なるほどなぁ、こりゃ手こずるわけだ」
そう呟いてその男はキョロキョロと周りを見渡している。今私の姿はこの男には見えていない。
戦技【ステルス】だ。この戦技は対象を含む全ての生き物の認識をずらせる。
――はずだった。
「ん~、そこだな?」
そう言って腰に下げていた剣を抜き、私のいるところへ突きこんでくる。
「くっ……!」
私の肩を掠っていった。呻き声が洩れる。掠っていた痛みのせいで集中が途切れ、【ステルス】が解かれる。
なぜバレたの。そんな事を考える暇はなかった。
「よしよし……ははっ。逃げれると思ったか~? 甘い甘い。とっても甘いぜぇ子娘よぉ!!」
叫びながら男は私に斬りかかってくる。それを私は必死に避けながら、どう逃げるか考える。
「うらぁ!」
「………!」
男の剣技は我流のようだった。滅茶苦茶に剣を振り回しているが、戦いなれているようにも見える。
その剣が私の体を少しずつ傷つけていく。痛みには慣れてきたが、【ステルス】を発動しようにもその隙が無い。
必死に避けていた私は、足元にある切り株に気づけなかった。それに躓き、尻もちをつく。
男の剣が私の首元に突きつけられる。
「よっし、終わりだなあ? 俺たちは別にお前を殺すために来たんじゃねぇんだよ。捕まえるためだ。まぁ、少しばかり傷がついちまったが……後で治してやるよ」
そう言いながら近づいてくる。
すると後ろの茂みからガサガサと音がして、さっきの三人が出てきた。
「お頭! その娘を捕まえたんですかい?」
と高い声の男が言う。
「おう。お前らがいつまでも捕まえねぇから俺もついてきたんだろうが」
「へへ……すまねぇお頭」
と低い声の男が言う。
「とりあえず馬車に戻るぞ。さっさと依頼主に持ってかねぇと報酬が貰えねぇ。ただでさえこんな田舎の辺境まで追いかけてたのによ。……割に合わねぇよなぁ?」
ニヤリと卑しく笑う。すると他の男たちの表情も変わっていく。下品な顏に。
まさか……。と私は思った矢先にお頭と呼ばれた男に話しかけられる。
「すまねぇな嬢ちゃん。死んでなければなにしたっていいって依頼主に言われててなぁ……。 だからよぉ、俺たちの今までの疲れを吹き飛ばすために、頑張ってもらおうか!」
大きな声でそう言うと、私の着ていた服を力任せに破る。押し倒された。
「やっ……やめて……!」
抵抗する。が、他の男たちに取り押さえられる。
「おいお前ら。まずは俺が楽しむからよ、しっかり押さえとけよぉ?」
「その次は俺でお願いしますぜ!」
「馬鹿野郎。俺に決まってんだろ」
高い声の男と低い声の男が下卑た顏で言い合う。
お頭と呼ばれた男の手が私の太ももを撫でる。嫌だ。汚い。私に触らないで。
「誰か……誰かぁー!! 助けて!!」
私は必死に大声で助けを求める。誰でもいい、助けてほしかった。
「うるせぇぞ!」
そう言って、低いの声の男に口を塞がれた。私は声を出そうとして、その手を噛んだ。
「いてっ! ……血が出てんじゃねぇか! このガキが!」
「キャッ……」
怒りで顏を赤くし、私の頬を殴ってきた。すごく痛い。頬がズキズキする。
「おいおい、可愛い顏が台無しじゃねぇか」
「だってよお頭、こいつ噛んできやがったんだぜ?」
鼻息を荒くして言う。
「ったく、布かなんか詰めとけ。それで声出せねぇだろ。ちったぁ頭使え」
「おお。お頭は頭がいいな。んじゃこれを詰めとくか」
低い声の男は腰の袋から汚い布を出した。それを私の口に入れてきた。臭い。臭い。
それを吐きだして私はもう一度叫ぶ。
「誰か! 助けてーー!! だれかぁーーー!!」
しかし、聞こえてくるのは下卑た顏をした三人の笑い声だけだ。
「はははっ。こんな森の奥に人がくるわけねぇだろ? 来たとしても狩人かそこらだ。殺せば済む」
「お頭ぁ、さっさとしちまいましょうよ。俺もう我慢できねぇよ」
はあはあと興奮して、今にも飛びかかってきそうだ。再度、布を詰め込まれる。さっきより深く。
「ったく、ちったぁ抑えろ馬鹿。……それじゃお楽しみといくか」
そう言いながら私の体に触れようとする。
「……むぐっ! むーー!」
声を出そうにも、布のせいででない。
誰か……誰か助けて……。
その時。白銀に光る何かが、私の目にうつった。その白銀の何かは私を抑えている男の一人に突き刺さった。
「ぎゃあああああ!?」
たまらず低い声の男は手を離す。痛みで膝をついていた。
「なんだ?! 何が……ぎゃあ!?」
高い声の男も手を離した。腕に、白銀のナイフが刺さっていた。
私の足を抑えていたお頭と呼ばれた男はすぐさまその場を離れる。今までその男がいた空間に数本のナイフが通り過ぎていく。
「……なにもんだ? てめぇ……」
後方の茂みを睨みながら呟いた。剣を抜き放ち、警戒している。
すると、茂みから一人の少年が姿を表した。私と歳はそう変わらないだろう。そんな少年だ。だが、その少年は自信満々といった不敵な笑みを浮かべ、こう言い放った。
「俺か? 俺はただの下級冒険者だ。てめぇらみたいなクズを殺すためにやってきたんだよ!」
~~~~~~~~~~~~~~~
朝。陽が昇ってすぐ。
「それじゃいってきます」
「はいよ。今日も依頼かい? 頑張るねぇ」
「あはは、早く依頼に慣れていきたいので……それじゃ」
その日悠斗は、依頼をするために宿を出て行った。
「さて、今日は依頼をこなしてマローさんのとこにいかないと……」
あの弟子入りした次の日、特に時間指定がなかったので昼食を食べた後に悠斗はマローの家に行った。すると
マローは「遅い! 遅すぎるんじゃ!」と怒っていた。そのことに悠斗は、「来る時間を聞いてませんでした」と言うと、マローは「……確かに。なら次からはこの時間にここへくるように」そう言ってからマローと共に家へ入っていった。マローに教えてもらったのは主に下級魔術だ。悠斗が慣れていないのもあるが、魔力が多すぎる悠斗がそれ以上の魔術を使うと損害が出てしまう。主にマローの家に。
そういう事情で下級魔術を習いながら、魔力のコントロールも教えてもらっていた。
マローの家での修行が終わると、悠斗は宿に戻って食事をし、紋章の力の訓練を少しだけして就寝。ということを一週間繰り返していた。
そして今日。いつもより気合が入っている悠斗。それはなぜか?
ギルドへついた悠斗は真っ先に依頼ボードの方へ向かっていく。そして、一つの依頼を見つけるとそれを持って受付へ行く。受付嬢はリンだ。
「あの、これお願いします」
「はいはい、あら。これを受けるの?」
悠斗を見ながら確認してくる。
「はい。今日お二人が帰ってくると思うので、驚かそうと思いまして……」
「そういえばあの二人遠出してるんだったわね。そっか。それじゃ頑張ってきなさい! 今のハルト君ならこなせるかもしれないしね」
「そこはこなせるって断言してほしかったんですけど……」
リンの言葉に苦笑で返す。
「色々依頼をこなして、下級二位まで一週間上がったのは凄いと思うけど、ロックバードの岩採取はねぇ……」
そう。悠斗が受けた依頼は、ロックバードに関する依頼だ。あの晩、最初に宿へ来たとき、初めて食べたロックバード。あの味が忘れられなかった悠斗。しかし、高級なだけあって値段が高い。ならば自分で捕ってきたらどうだろう? という考えと。依頼で遠出していた二人を労うための料理を、女将に作ってもらうためにこの依頼を選んだ。
「頑張ってきますよ。そのために色々訓練してきたので」
「ふ~ん。自信満々だね? それじゃ私は応援してるから、頑張ってとってきてね!」
「はい! えっと、平原の方の門ではなく、反対の門にいけば森があるんでしたよね?」
「そうそう。だから間違えないようにね~」
「ありがとうございます」
そう言い残して悠斗はギルドを出て行った。リンはさんな悠斗の背中にエールを送る。
~~~~~~~~~~~~~~~
「うーん……森の奥かー。とりあえずゆっくり行こう」
悠斗は森に来た。情報によると、森の奥にロックバードが棲んでいるらしい。あの二人も言っていたようにだ。
だが、ただ奥に来て闇雲に探すだけじゃ見つからない。
「困ったなぁ……これが狩人しか捕れないっていうことなのかなぁ……」
悠斗は歩きながら探す。たまに見つかる薬草や木の実を拾いながら進んでいく。
こういうちょっとしたものでもギルドは買い取ってくれるので、自分用を少し残して売るために採取していく。
「普通の鳥は空を飛んでるからなぁ……ロックバードは重すぎて飛べないから、歩いてるって聞いたけど……。足跡が見当たらないなぁ」
足元を見ながら奥へ進んでいく。ロックバードの足跡は依頼書に描いてあった。それを頼りに悠斗は探している。薬草もちゃんと採っていく。
「……あれ? あれは……人の足跡かな? 違うんだよなぁ……ロックバードの足跡を……」
気づく。よくその足跡の先を見ると、草が踏み倒されていた。普通は時間がたてば元に戻るのだが、この草は踏まれてから新しい。
「ほかに冒険者か狩人の人が入ったのかな? 狩人だったら、プロみたいなものだしついていけば……」
そう思いおもむろにその足跡を追っていく。
「ダメだぁ。見つからないや。一旦戻ってもっと情報集めたほうがいいかな?」
足跡を追っていたが、途中で見失ってしまった。さっきの足跡は柔らかい土についていたためわかったが、徐々に固い土に変わっていったため、わからなくなったのだ。
「しょうがない……。戻ろうかな」
落胆して踵を返したその時。
「誰か……誰かぁー!! 助けて!!」
そんな叫び声が聞こえてきた。女の声だった。
咄嗟に悠斗は振り返り、声のする方に走っていく。
(さっきの足跡の人か!? 助けを呼んでいる……! いかなきゃ!)
森の奥へ走っていく。途中、剣を背中に背負っている鞘の中に顕現する。そして、胸当て、籠手、足あてなど。軽装鎧のような防具を顕現していく。悠斗はこの一週間、魔術だけでなく紋章の力も鍛えていた。
「どこだ! どこにいるんだ……」
周りに目を巡らせる。だが、見つからない。
するとまた助けを呼ぶ叫び声が聞こえてきた。
「誰か! 助けてーー!! だれかぁーーー!!」
今度はしっかりと聞こえてきた方角に向かって一直線走っていく。
すると見えてきたのは三人の男が一人の女の子を押し倒して、なにかをしようとしていた。
「お頭ぁ、さっさとしちまいましょうよ。俺もう我慢できねぇよ」
という野太い声と
「ったく、ちったぁ抑えろ馬鹿。……それじゃお楽しみといくか」
と聞こえた。流石の悠斗でもこの状況で、その言葉を聞いたらわかってしまう。
――魔闘変化
悠斗の中で切り替わった。
魔力が消えていく感覚。かわりに闘気が爆発的に増えていく。
その変化は一瞬だ。変化が終わったすぐ、手にナイフを三本顕現する。
それを三人の男たちに投げていった。
命中。
女の子を抑えていた男たちは痛みで離れていった。
しかし、足を抑えていた男には避けられた。
「……なにもんだ? てめぇ……」
そう声をかけられる。
(……こっちが見えてる? ただのクズとは違うみたいだな)
静かに思考して、茂みを出ていく。
「俺か? 俺はただの下級冒険者だ。てめぇらみたいなクズを殺すためにやってきたんだよ!」
そう言い放った悠斗はその男に飛びかかっていく。
誤字やおかしなところがあれば修正します。




