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紋章の勇者  作者: 新
二章 前兆
26/41

25話 悠斗と彼女の出会い

ちょっと遅れましたが、すいません。


この話は【無詠唱魔術】発動&弟子入り? の一週間後の話になっております。


それでは、どうぞ。

どうして、こうなったんだろう?

今私は逃げている。二人のヒューマンに追われて。

「おい! どっちにいきやがった?!」

「こっちじゃねぇか!?」

「いや、あっちだ! 銀髪が見えたぞ! 手間取らせやがって……!」

高い声と低い声の男たちは、叫びながら私を探している。いかにも盗賊と言った風な恰好の男たちだ。

どうやら見つかったようだ。私は必死に逃げる。奥に、奥に、振り向かず。逃げていく。


だが、現実は甘くなかったようだった。

「へっへっへ……先回りせいこ~う……」

突然前方の木から飛び出てきたのだ。走っていた私は驚いた。

後ろに追いかけてきていた連中とは別の男だった。

「ったくよぉ。あいつらがいつまでも手こずってんからよぉ、しょうがねぇから俺も捕まえに来たが、ただのハーフビーストの小娘じゃねぇか? えぇ?」

濁った眼で私を観察してくる。気持ち悪い。すぐにその場を離れたかった私は、ある戦技を使う。

「………」

「……!! なるほどなぁ、こりゃ手こずるわけだ」

そう呟いてその男はキョロキョロと周りを見渡している。今私の姿はこの男には見えていない。

戦技【ステルス】だ。この戦技は対象を含む全ての生き物の認識をずらせる。


――はずだった。

「ん~、そこだな?」

そう言って腰に下げていた剣を抜き、私のいるところへ突きこんでくる。

「くっ……!」

私の肩を掠っていった。呻き声が洩れる。掠っていた痛みのせいで集中が途切れ、【ステルス】が解かれる。

なぜバレたの。そんな事を考える暇はなかった。

「よしよし……ははっ。逃げれると思ったか~? 甘い甘い。とっても甘いぜぇ子娘よぉ!!」

叫びながら男は私に斬りかかってくる。それを私は必死に避けながら、どう逃げるか考える。

「うらぁ!」

「………!」

男の剣技は我流のようだった。滅茶苦茶に剣を振り回しているが、戦いなれているようにも見える。

その剣が私の体を少しずつ傷つけていく。痛みには慣れてきたが、【ステルス】を発動しようにもその隙が無い。

必死に避けていた私は、足元にある切り株に気づけなかった。それに躓き、尻もちをつく。

男の剣が私の首元に突きつけられる。

「よっし、終わりだなあ? 俺たちは別にお前を殺すために来たんじゃねぇんだよ。捕まえるためだ。まぁ、少しばかり傷がついちまったが……後で治してやるよ」

そう言いながら近づいてくる。

すると後ろの茂みからガサガサと音がして、さっきの三人が出てきた。


「お頭! その娘を捕まえたんですかい?」

と高い声の男が言う。

「おう。お前らがいつまでも捕まえねぇから俺もついてきたんだろうが」

「へへ……すまねぇお頭」

と低い声の男が言う。

「とりあえず馬車に戻るぞ。さっさと依頼主に持ってかねぇと報酬が貰えねぇ。ただでさえこんな田舎の辺境まで追いかけてたのによ。……割に合わねぇよなぁ?」

ニヤリと卑しく笑う。すると他の男たちの表情も変わっていく。下品な顏に。


まさか……。と私は思った矢先にお頭と呼ばれた男に話しかけられる。

「すまねぇな嬢ちゃん。死んでなければ(・・・・・・・)なにしたっていいって依頼主に言われててなぁ……。 だからよぉ、俺たちの今までの疲れを吹き飛ばすために、頑張ってもらおうか!」

大きな声でそう言うと、私の着ていた服を力任せに破る。押し倒された。

「やっ……やめて……!」

抵抗する。が、他の男たちに取り押さえられる。

「おいお前ら。まずは俺が楽しむからよ、しっかり押さえとけよぉ?」

「その次は俺でお願いしますぜ!」

「馬鹿野郎。俺に決まってんだろ」

高い声の男と低い声の男が下卑た顏で言い合う。

お頭と呼ばれた男の手が私の太ももを撫でる。嫌だ。汚い。私に触らないで。

「誰か……誰かぁー!! 助けて!!」

私は必死に大声で助けを求める。誰でもいい、助けてほしかった。

「うるせぇぞ!」

そう言って、低いの声の男に口を塞がれた。私は声を出そうとして、その手を噛んだ。

「いてっ! ……血が出てんじゃねぇか! このガキが!」

「キャッ……」

怒りで顏を赤くし、私の頬を殴ってきた。すごく痛い。頬がズキズキする。

「おいおい、可愛い顏が台無しじゃねぇか」

「だってよお頭、こいつ噛んできやがったんだぜ?」

鼻息を荒くして言う。


「ったく、布かなんか詰めとけ。それで声出せねぇだろ。ちったぁ頭使え」

「おお。お頭は頭がいいな。んじゃこれを詰めとくか」

低い声の男は腰の袋から汚い布を出した。それを私の口に入れてきた。臭い。臭い。

それを吐きだして私はもう一度叫ぶ。

「誰か! 助けてーー!! だれかぁーーー!!」

しかし、聞こえてくるのは下卑た顏をした三人の笑い声だけだ。

「はははっ。こんな森の奥に人がくるわけねぇだろ? 来たとしても狩人かそこらだ。殺せば済む」

「お頭ぁ、さっさとしちまいましょうよ。俺もう我慢できねぇよ」

はあはあと興奮して、今にも飛びかかってきそうだ。再度、布を詰め込まれる。さっきより深く。

「ったく、ちったぁ抑えろ馬鹿。……それじゃお楽しみといくか」

そう言いながら私の体に触れようとする。

「……むぐっ! むーー!」

声を出そうにも、布のせいででない。

誰か……誰か助けて……。


その時。白銀に光る何かが、私の目にうつった。その白銀の何かは私を抑えている男の一人に突き刺さった。

「ぎゃあああああ!?」

たまらず低い声の男は手を離す。痛みで膝をついていた。

「なんだ?! 何が……ぎゃあ!?」

高い声の男も手を離した。腕に、白銀のナイフ(・・・)が刺さっていた。

私の足を抑えていたお頭と呼ばれた男はすぐさまその場を離れる。今までその男がいた空間に数本のナイフが通り過ぎていく。

「……なにもんだ? てめぇ……」

後方の茂みを睨みながら呟いた。剣を抜き放ち、警戒している。

すると、茂みから一人の少年が姿を表した。私と歳はそう変わらないだろう。そんな少年だ。だが、その少年は自信満々といった不敵な笑みを浮かべ、こう言い放った。


「俺か? 俺はただの下級冒険者だ。てめぇらみたいなクズを殺すためにやってきたんだよ!」



~~~~~~~~~~~~~~~

 朝。陽が昇ってすぐ。

「それじゃいってきます」

「はいよ。今日も依頼かい? 頑張るねぇ」

「あはは、早く依頼に慣れていきたいので……それじゃ」

その日悠斗は、依頼をするために宿を出て行った。

「さて、今日は依頼をこなしてマローさんのとこにいかないと……」

あの弟子入りした次の日、特に時間指定がなかったので昼食を食べた後に悠斗はマローの家に行った。すると

マローは「遅い! 遅すぎるんじゃ!」と怒っていた。そのことに悠斗は、「来る時間を聞いてませんでした」と言うと、マローは「……確かに。なら次からはこの時間にここへくるように」そう言ってからマローと共に家へ入っていった。マローに教えてもらったのは主に下級魔術だ。悠斗が慣れていないのもあるが、魔力が多すぎる悠斗がそれ以上の魔術を使うと損害が出てしまう。主にマローの家に。

そういう事情で下級魔術を習いながら、魔力のコントロールも教えてもらっていた。


 マローの家での修行が終わると、悠斗は宿に戻って食事をし、紋章の力の訓練を少しだけして就寝。ということを一週間繰り返していた。

そして今日。いつもより気合が入っている悠斗。それはなぜか?


ギルドへついた悠斗は真っ先に依頼ボードの方へ向かっていく。そして、一つの依頼を見つけるとそれを持って受付へ行く。受付嬢はリンだ。

「あの、これお願いします」

「はいはい、あら。これを受けるの?」

悠斗を見ながら確認してくる。

「はい。今日お二人が帰ってくると思うので、驚かそうと思いまして……」

「そういえばあの二人遠出してるんだったわね。そっか。それじゃ頑張ってきなさい! 今のハルト君ならこなせるかもしれないしね」

「そこはこなせるって断言してほしかったんですけど……」

リンの言葉に苦笑で返す。

「色々依頼をこなして、下級二位まで一週間上がったのは凄いと思うけど、ロックバードの岩採取はねぇ……」

そう。悠斗が受けた依頼は、ロックバードに関する依頼だ。あの晩、最初に宿へ来たとき、初めて食べたロックバード。あの味が忘れられなかった悠斗。しかし、高級なだけあって値段が高い。ならば自分で捕ってきたらどうだろう? という考えと。依頼で遠出していた二人を労うための料理を、女将に作ってもらうためにこの依頼を選んだ。


「頑張ってきますよ。そのために色々訓練してきたので」

「ふ~ん。自信満々だね? それじゃ私は応援してるから、頑張ってとってきてね!」

「はい! えっと、平原の方の門ではなく、反対の門にいけば森があるんでしたよね?」

「そうそう。だから間違えないようにね~」

「ありがとうございます」

そう言い残して悠斗はギルドを出て行った。リンはさんな悠斗の背中にエールを送る。


~~~~~~~~~~~~~~~


「うーん……森の奥かー。とりあえずゆっくり行こう」

悠斗は森に来た。情報によると、森の奥にロックバードが棲んでいるらしい。あの二人も言っていたようにだ。

だが、ただ奥に来て闇雲に探すだけじゃ見つからない。

「困ったなぁ……これが狩人しか捕れないっていうことなのかなぁ……」

悠斗は歩きながら探す。たまに見つかる薬草や木の実を拾いながら進んでいく。

こういうちょっとしたものでもギルドは買い取ってくれるので、自分用を少し残して売るために採取していく。

「普通の鳥は空を飛んでるからなぁ……ロックバードは重すぎて飛べないから、歩いてるって聞いたけど……。足跡が見当たらないなぁ」

足元を見ながら奥へ進んでいく。ロックバードの足跡は依頼書に描いてあった。それを頼りに悠斗は探している。薬草もちゃんと採っていく。

「……あれ? あれは……人の足跡かな? 違うんだよなぁ……ロックバードの足跡を……」

気づく。よくその足跡の先を見ると、草が踏み倒されていた。普通は時間がたてば元に戻るのだが、この草は踏まれてから新しい。

「ほかに冒険者か狩人の人が入ったのかな? 狩人だったら、プロみたいなものだしついていけば……」

そう思いおもむろにその足跡を追っていく。


「ダメだぁ。見つからないや。一旦戻ってもっと情報集めたほうがいいかな?」

足跡を追っていたが、途中で見失ってしまった。さっきの足跡は柔らかい土についていたためわかったが、徐々に固い土に変わっていったため、わからなくなったのだ。

「しょうがない……。戻ろうかな」

落胆して踵を返したその時。


「誰か……誰かぁー!! 助けて!!」

そんな叫び声が聞こえてきた。女の声だった。

咄嗟に悠斗は振り返り、声のする方に走っていく。

(さっきの足跡の人か!? 助けを呼んでいる……! いかなきゃ!)

森の奥へ走っていく。途中、剣を背中に背負っている鞘の中に顕現する。そして、胸当て、籠手、足あてなど。軽装鎧のような防具を顕現していく。悠斗はこの一週間、魔術だけでなく紋章の力も鍛えていた。


「どこだ! どこにいるんだ……」

周りに目を巡らせる。だが、見つからない。

するとまた助けを呼ぶ叫び声が聞こえてきた。

「誰か! 助けてーー!! だれかぁーーー!!」

今度はしっかりと聞こえてきた方角に向かって一直線走っていく。

すると見えてきたのは三人の男が一人の女の子を押し倒して、なにかをしようとしていた。


「お頭ぁ、さっさとしちまいましょうよ。俺もう我慢できねぇよ」

という野太い声と

「ったく、ちったぁ抑えろ馬鹿。……それじゃお楽しみといくか」

と聞こえた。流石の悠斗でもこの状況で、その言葉を聞いたらわかってしまう。


――魔闘変化(チェンジ)


悠斗の中で切り替わった。

魔力が消えていく感覚。かわりに闘気が爆発的に増えていく。

その変化は一瞬だ。変化が終わったすぐ、手にナイフを三本顕現する。

それを三人の男たちに投げていった。

命中。

女の子を抑えていた男たちは痛みで離れていった。

しかし、足を抑えていた男には避けられた。

「……なにもんだ? てめぇ……」

そう声をかけられる。

(……こっちが見えてる? ただのクズとは違うみたいだな)

静かに思考して、茂みを出ていく。

「俺か? 俺はただの下級冒険者だ。てめぇらみたいなクズを殺すためにやってきたんだよ!」

そう言い放った悠斗はその男に飛びかかっていく。




誤字やおかしなところがあれば修正します。

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