【幕間】勇者召喚?の儀式
はい、結構長くなってしまいましたが、今日の二話目になっております。前話からの続きなので読んでない人はそちらからどうぞ。
悠斗の転移に関する話になります。
ゲイルに調べものを頼んだメリアは、部屋を出て城内で訓練をしている兵や働いている者たちを労い、自室へ戻る。自室にある本棚の本を読んで時間をつぶし、夜になるといつもの時間に食堂へ行く。
すると待っていたかのようにゴードンが既に佇んでいる。ゴードンの近くの席につくと、料理が並べられる。
「昼食を食べないメリア様に、栄養をつけてもらおうとじっくり野菜と肉を煮込んだスープでございます」
「まぁ、いつもありがとうね」
スープの他に、パンやサラダ、そこに焼き魚の料理が一品追加されていた。
特に急ぐ用がないメリアはゆっくりと料理を楽しみ、食べ終わったらゴードンへお礼を言い、自室へ戻っていく。
この間、侍女のリナはずっとメリアの後ろについている。気配を悟らせず見守っているため、メリアは全く気付かない。気配を消している理由は、「ずっと後ろにいられると気になってしょうがないわ」そう言われたリナは気配を消すことにしたのである。流石に遠くから見守っているともしもの時に駆けつけるのが遅くなると思い、後ろにつくのはやめない。ただ、メリアの目には見えない、戦技を使っているが。
自室へ戻ったメリアは軽く運動をして、祈りを捧げる。
次に読書をして、眠くなるとネグリジェに着替えて就寝する。これが、メリアの一日だった。
翌朝、メリアはいつも通り起床し、祈りを捧げて服を着替える。朝食を食べようと扉に歩き出したその時、
「メリア様、爺にございます。少しよろしいでしょうか?」
ノックの音。次に扉の前から声が聞こえ来た。
「あら、どうしたのかしら」
そう呟いて扉を開ける。
「どうしたの? 爺や。こんな朝早くに、珍しいわね?」
「少し、お伝えしたいことがありまして……」
真剣な顏で話しかけてくる。
「……昨日お願いした調べものかしら。朝食を食べてからでもいい?」
「そう、ですな……急いでもらえるとありがたいですが……」
「わかったわ。リナ、食堂へ行きましょう」
「はい、メリア様」
ゲイルの言葉に何かを感じたメリアは急いで食堂へ向かう。メリアはゴードンの朝食を大事にしたいのだ。
毎朝作ってくれる朝食をすっぽかしてゲイルについていくのは、申し訳なかった。だから急いで食べることで妥協した。決してお腹が空いていたわけではない。
食堂の扉を開け、席に着く。するとゴードンがいつも通りに食事を持ってきてくれる。
それを急いで食べるメリア。昨日より食べる速度が速いが、リナは特になにも言わなかった。
メリアの顏が真剣になっているからだ。昨日のゲイルの様子に、なにかあったのではないか? というメリアの予想が当たっていたかは定かではないが、さっきのゲイルはいままでに見たことがない真剣な顏をしていた。真剣な表情で食事をしているメリアを、ゴードンは心配していた。
「ふぅ。ありがとう、ゴードン。いつも通り美味しかったわよ」
「ありがとうございます。……メリア様、何か良くないことが起こってるいのでしょうか?」
つい言葉に出してしまったゴードン。
「いいえ、大丈夫よ。まだ起こってないから。もし起こったとしても、お父様の兵たちがなんとかしてくれるわ」
ゴードンの言葉に笑顔で返す。
「そうですか……。私は料理しか作ることはできないですが、今できることを一生懸命しましょう」
「そうね。あなたの料理は世界一よ」
その言葉を残してメリアは食堂を出ていく。
食堂の前にはゲイルがいた。
「お待ちしてましたメリア様。それではワシについてきてくだされ」
そういうとおもむろに歩き出した。
「ああ、リナよ。お主もついてきてよいぞ」
虚空を見てそういう。
「……畏まりました」
するとスっとリナが現れた。
隠密系戦技【ステルス】だ。【ステルス】は対象の認識を阻害する効果を持っている。なので、空間が歪んだように見えるが、実はそこにいるのだ。実際に消えたのではなく、認識阻害。
それに対してメリアは
「すごい。どうやったんですか?」
「……戦技でございます」
「戦技ですか……なら私にはできなさそうですね……」
リナの戦技を見てメリアは感激する。そして落胆。
戦技は誰にでも習得できるが、やはり相性がある。メリアの適正は【巫女】。
【巫女】は神託を受ける他に、聖系の魔術や紋様術を扱える。もっとも、神託を受ける以外をしたことがないメリアには、習得に時間がかかるだろう。
「お二人とも、先を急ぎますぞ」
「あっ、ごめんなさいね爺や」
「……」
二人を急かすと、ゲイルは歩き出す。
ゲイルについていくと、何人か兵士やメイド達とすれ違う。そのたびに礼をされるメリア。
時々、どこにいくんだろう? という視線を受けるが、すぐに仕事に戻っていく。
どんどん城の下へ降りて行っているようだ。兵士たちも少なくなってきた。
「爺や。私たちはどこへ向かっているのですか?」
「……もう人も少なくなってきましたし、話しても大丈夫でしょうな。今ワシらが向かっているのは、儀式場でございます」
「儀式場? そんなものがこの城にあったの?」
「はい、メリア様が知らぬのも当然。先々代の王が使用したのを最後に放置されてましたからな」
「そんな昔ですか……。その儀式場でなにをするのですか?」
「それに関しては、ついてから説明させてもらいます」
そんな事を歩きながら話していた。
四回ほど階段を降りたら、古びた通路に辿り着いた。その通路を真っ直ぐいくと、今度は古びた木の扉が佇んでいた。
「ここが、儀式場? なんというか、すごく……」
「言いたいことはわかります。とりあえず開けましょうか」
ゲイルは扉に手をかけると、ゆっくりと開いていった。
すると目にしたのは
「……魔法陣? なんでこんなところに……」
部屋の広さはメリアの部屋ほどはある。その中心に魔法陣が描かれていた。それ以外にはなにもなかった。
「さて、メリア様。なぜ、ここに連れてきたか理由をお話ししましょう」
「そうだったわ。なぜここなのかしら?」
朝から続いていた疑問と、ここに連れてこられた疑問。
ゲイルは真剣な顏になり、重い口を開いた。
「……メリア様が神託で受けとったイメージの紋章らしきもの。それは恐らく【魔の紋章】ですな」
「【魔の紋章】? 聞いたことがないわね……」
「ワシの知識も朧気だったので色々なとこで調べてきましたが、まず間違いないでしょう。その【魔の紋章】ですが……。本に書いてあった言い伝えでは、『【魔の紋章】刻まれしもの、世界を滅ぼす【魔の勇者】なり』、と」
「……世界を滅ぼす? その一言だけ? それに【魔の勇者】? 信じられないわね……」
「いえ、実は大昔、【魔の勇者】が一度出現したことがあるそうなのです。と言っても神代の時代の話になるのですが……。長くなりますがよろしいですか?」
「ええ。爺やの調べた話なら、爺やにお願いするわ」
ゴホンと咳払いし、ゲイルは語り始める。
「『大昔、多々な種族が平和に暮らしていた時のことだ。突然、天が割れ、黒い蝙蝠のような翼を持った者達と、鳥のような白い翼を持った者達が現れた。その者達は地上に降りるやいなや、戦いを始めたのだ。剣を持つもの、弓を持つもの。様々な武器で戦いを始める。その戦いは三日三晩続き、お互いの種族が少なくなってくると両種族は、別々の大陸に逃げて行った。後に、小さな小競り合いが何回か続くが、決着はつかなかった。その間、他の種族はその両種族達の事を、白い翼の者達を【天族】黒い翼を持つ者達を【魔族】と呼んだ。他の種族はその二種族の戦いを見守った。介入できなかったのである。激しすぎる戦いは、割り込むことを許さなかった。だが、いつまでたっても決着がつかない両者は、ある事を思いついた。我らが戦っても決着がつかぬのなら、それより上位のものに戦わせよう、と。そうして行われたのは【勇者召喚】の儀式であった。その儀式で呼ばれるのは、異世界と言われるところからの人の召喚だった。その儀式で召喚されたものはなにかしらの強大な力を……』」
「ちょっとまって」
語っていたゲイルを止める声。
「……どうされました? メリア様」
「もうだいたいわかったわ。つまり、私がすることは【勇者召喚】という儀式なのね?」
「……はい、その通りでごさいます。【魔の勇者】がいつ召喚されるかわからない以上、早めにこちらで【天の勇者】を召喚して備えるのです」
「【天の勇者】……それが【魔の勇者】に対抗できる人物なのね……」
もうそろそろお気づきだろうが、メリアの口調が変わってきている。元々はこの口調がデフォルトなのだ。
さっきまでの口調は外面用と言ってもいいだろう。
「では、わかっていただけので簡単にまとめましょう。突然現れた【天族】と【魔族】は戦争をし、決着がつかないとわかると、別世界の者を召喚して戦わせようとしました。それぞれ【天族】が召喚した【天の勇者】と【魔族】が呼んだ【魔の勇者】。そのどちらも強大な力を持っていました。が、戦いの末勝利したのは【天の勇者】でした。そこで戦争は終わったのです。私たちヒューマンはその【天族】の子孫と言われてますぞ。【魔族】はどうなったかは伝えられてませんでしたな」
「……ありがとう、まとめてくれて。それじゃあ私は【勇者召喚】の儀式をすればいいのね……」
「……はい、言い伝えによると、儀式ができるのは若い女子と書いてありました。メリア様以外でもよろしいですが……」
「私がするわ。この世界の一大事になるんでしょう? それに、人を呼ぶということはその人物の人生を壊すということだわ。勝手に呼んで戦いを強制させる。そんな責任、普通の女の子に押し付けるなんて、私はできない」
そこには、民を、世界の人々を守るという意思を心に刻み込んだ、一国の姫の姿があった。
「ご立派になられましたな。巫女になられてあまり城の外に出なかったので心配してましたが、杞憂でしたな」
「……流石、メリア様です。引きこもっていても素晴らしいお心持で」
その姿を見た二人は、涙ぐみながら姫の成長を喜ぶゲイルと、今まで黙っていたリナが、静かにメリアを称賛する。ついでに棘があった。
「二人とも……私はちゃんと外に行こうと思えばいけます! リナがいればほかの護衛もいらないし外出放題なんだからね!」
顏を赤くして大きな声で抗議する。
「ご、ごほん。話が脱線しましたな。……それでは、覚悟はよろしいですか?」
咳払いをして真剣な顏に戻る。
「もちろんよ。それで、わたしはなにをしたらいいの?」
「メリア様は少し待っていてくだされ。今、この魔法陣を書き換えますからな」
そういうと、懐から(魔法陣を書くときの)チョークを取り出し、床に書き足していく。書き足しながら既存の魔法陣も消していく。その作業を二人は見守っていた。
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書いていた手を止める。
「……出来ましたぞ。メリア様、この魔法陣の中心にきてくだされ」
「わかったわ」
ゲイルに呼ばれたメリアは、ゆっくり歩いて中心に立つ。それを確認したゲイルはなにかブツブツ唱え始める。その様子を静かに見ているメリア。一分ほどすると、床の魔法陣が光りだした。
「メリア様! 今すぐ目を閉じて、手を前へ伸ばしなさい!」
ゲイルにそう指示される。
「ッ! わかったわ!」
指示通りにする。すると、目を閉じているのにどこかの風景が広がっていた。見たことがない建物が建っている。日本だった。メリアの目に映っているのは日本だ。
「えっ?! ここはどこ?! 爺や!爺や!」
パニックになってしまうメリア。
「大丈夫ですぞ! 成功しております、そのままこちらに近づいてくる人を待つのです! 目を開けてはなりませんぞ」
ゲイルの声を聞いて安心したのか、落ち着いていく。
「人……、なんだか、変わった服を来た人達が歩いていくわね。これが……異世界なのかしら?」
興味心身に目線を動かす。動くのは目だけなので、そこまで動かせない。
「ぬぬ……! ワシも気になりますが、後で話を聞きましょう。それより、こちらに近づいてくるものはおりませんか?」
メリアに聞く。
「ほとんどの人は通り過ぎていくわ……あっ、黒い服を来た男の子がこちらに近づいてくるわ」
「おお! そのものが勇者になる素質をもっているかもしれませんぞ!」
興奮して鼻息荒くなるゲイル。
「そ、そうなの? なんだか可愛い男の子だけど……って、離れていくわ! どうしたらいいの?!」
「逃がしたらいけませんぞ! 捕まえるのです! 手を伸ばすのです!」
もうゲイルの言動がかなり危なくなってきている。テンションがMAXになっていた。
「わ、わかったわ。えっと……えいっ……! って、この手、すごく、扱いずらい……」
光でできた手は空を右往左往する。
「メリア様。捕まえてやる、という意思で動くのでは?」
唐突にリナから助言される。リナには手が見えていないはずだが。
「意思ね………。あっ、男の子の方に飛んで行った! ……あの子、すごく逃げてるわ……ごめんなさいね」
そう言って少年の背中を掴み、穴の前まで持ってくる。
「男の子を近くに持ってきたけど、ここからどうしたらいいの? 爺や」
ゲイルに聞く。
「そこからは、自分に向かって投げるといい、と書いてありますが……」
いつのまにか手に持っていた古ぼけた本に、目を向けながら口にした。
「投げる、ね」
投げる瞬間、少し間が開く。掴んでいた少年を離す。
(ごめんなさいね。私たちの世界のために……。こちらに来たら色々ともてなすわ。……許してね)
心で謝罪し、再度少年を掴む。そして自分に向けて放り投げた。
「放り投げたけど、これでよかったの?!」
「はい! 投げた先に穴があるはずです! あとは姫様がそこを動かずに固定していれば……」
その言葉を発したゲイルの下から、小さな影が飛び出す。
「ちゅ~」
ネズミだ。ネズミがメリアの元へ向かっていった。
「……ッ!?キャアアアアアアアア!?」
メリアは凄い速度で逃げた。
「あっ」
間抜けな声がゲイルから洩れる。魔法陣の中心からずれたメリアは儀式場の隅に逃げる。と同時に、魔法陣の光が点滅している。
「ね、ね、ネズミが……ネズミがぁ……」
涙目になってネズミを探す。メリアは大のネズミ嫌いなのだ。
「……捕まえました」
そう言ってメリアの方へ腕を上げるリナ。その手にはネズミが握られていた。
「は、はやくそのネズミをどこかへやって!」
「畏まりました」
そう言うと、儀式場の扉を開けてネズミを解放する。
それを見ていたメリアは息を吐いて腰を落とす。
「はぁ~~~。怖かった……」
心底安心していた。一方ゲイルは
「ね、ねずみがいるのは仕方ない事ですな。ここは手入れがされていませんでしたから、ですが……。メリア様が魔法陣を離れてしまったために……」
暗い表情で声を徐々に落としていく。
「……失敗しちゃった?」
心配そうにゲイルを見る。
「……幸い、こちらの世界にはこれたみたいです。ただ、どこに召喚されたのかはわかりませんが……」
「……ごめんなさい。私のせいだわ。ねずみなんか怖がらずに我慢すれば……ぐすっ」
俯いて鼻声になる。
「こうなれば、王にすべてを話して、捜索隊を出してもらいましょう」
ゲイルの提案にメリアは
「……そうね。もう私たちじゃ手が足りないわ。お父様に協力してもらいましょう!」
そう言って立ち上がると、儀式場を早歩き出て行った。
「……メリア様は行動が早いですな。が、時間が惜しいのもわかりますな。リナ、ついていってやりなさい」
「……もちろんです」
その言葉を残して姿が搔き消えた。
一人残っていたゲイルは、突然膝をつく。そして、吐血した。
「ぐっ……召喚の代償は、この老いぼれの命で十分ですからな……後の未来は若者たちが切り開くのを……待っていますぞ……」
そう言ってゲイルはうつ伏せに倒れていった。
はい、実は悠斗は(姫に)選ばれし勇者でした! あと転移ではなく召喚って言葉使ってますけど、後々修正されるかも……?
なんかいつもより長くなってしまいましたが、大丈夫ですかね……途中からグダグダになるのを恐れて……
はい、なんでもないです。
誤字、脱字、指摘がありましたらよろしくおねがいします。




