【幕間】とある姫のお話
この話は、悠斗が転移させられる前日の話になってます。
それではどうぞ。
ここはゼリウス王国内、王都ヴェンゼスに建つ王城。
その王城にある、一つの部屋。その部屋にある豪華なベッドの上に一人、少女が眠っていた。
朝日が窓のカーテンの隙間から差しこむ。 その少女が寝返りをうつと、陽の光が目に当たる。
「ん………」
小さく声を出して、目を開ける。
「……朝ですか」
そう言うと上半身だけ起き上がらせて、背伸びをする。まだ目はトロンとして眠そうだ。
「ふぁ~~~」
そして大きなあくび。
「……んっ」
あくびをした後、意識がハッキリしてきたのだろう、目もキリッとしてきた。
「今日も一日、頑張りましょうか」
膝を曲げてスっと手を組む。
この少女、メリア・ガルド・ゼリウスの一日は女神への祈りから始まる。その後、朝食を取り、城内を歩いて兵士やメイド達に声をかけ、また祈る。残った時間は自由時間だ。兎に角メリアは暇なのであった。
巫女という役目に就いたのはよかったが、祈るしかやることがなかった。巫女とは代々、この国の王族の中で、巫女として適性がある者が務める役目。メリアは幼い頃……十歳にも満たなかった時に無意識に神託を受け取り、それを国王に伝えた。その時、国王は可愛い娘の頼みを聞いてやろうと、メリアの指示に従った。するとどうだろう。大きな災害を未然に防いだのだ。そのおかげで巫女としての素質あり、と周りに判断され今に至る。
そのメリアの一日の始まりである、女神への祈りで問題が起きた。
「ん………」
神託を受けとったのだ。ここ数年は神託を受けとらなかったが、神託を受ける時、かならずと言っていいほど体が横にふらつくのだ。
今まさにふらついている。倒れそうに見えるが、何度も神託を受け取っていたら慣れてくるものである。
倒れそうで倒れない、そんな状態で手を組んでいた。最初に神託を受けとった時は、頭を床にぶつけ、泣きかけた思い出がある。
メリアの頭の中に、神託がうっすらとイメージとして浮かび上がってくる。
「これ……は。紋章……?」
浮かんできたイメージは、丸い円の中に悪魔の翼、のようなものが描かれている。
「ふぅ……。久しぶりの神託だけど、これじゃあ少し情報が足りないわね……。後で爺やに調べてもらおうかしら」
そう言って今着ているネグリジェを脱ぎ、水色のドレスに着替える。
部屋の扉を開くとそこにはいつものメイドが頭を下げていた。
「おはようございます、メリア様」
「ええ、おはよう。リナ」
このリナと呼ばれたメイドはメリア直属の世話係兼護衛。つまり侍女である。外見は赤のロングヘアーに、メガネをかけている女性だ。身長は女性としては大きい方だろう。
「それじゃあ私は朝食を食べにいくわ」
「はい」
メリアはそう伝えると食堂へと歩き出した。その後ろをリナがついていく。
その時、思い出したかのようにメリアは振り向いてリナに声をかける。
「そうだわリナ。後で爺やを私の部屋へ呼んでおいてもらえるかしら? 少し調べものがあるの」
「畏まりました。メリア様の朝食が終わり次第、行くように伝えてきましょう」
「うん、よろしくね」
ニコっとリナに微笑みかける。
食堂に着いた。その食堂の扉をリナが開ける。
食堂には人が一人もいなかった。
「今日もみんなは忙しい、か。まぁ暇なのは私くらいよね……」
暗い表情で呟いてから机の椅子につく。
すると、メリアが来る時間がわかっていたように、厨房からコックが朝食を持ってくる。日本で言うサービスワゴンのようなものを押して。そこに食事が乗っている。
「おはようございます、メリア様。今日の朝食はパンとスープ、野菜のサラダになっております」
「ええ、ありがとう。ゴードン」
ゴードンと呼ばれた男性は礼をして静かに厨房へ戻っていった。
「ちょっと、急いで食べましょうか。神託がきたってことはよくない事が起きるかもしれないわ」
そう言うとパンを掴み、スープを片手ですすり始めた。
すると少し離れていたリナがメリアの後ろに近づいていき
「メリア様。他の王族の方々がいらっしゃる時は絶対に今のような食べ方はやめてください」
「わかってるわ……もぐ。言ってなかったけど、神託がきたのよ。もぐ。だから急いでいるのよ」
「神託が……! 急いでナール王に報告を」
目を見開いたリナは後ろを振り向き、走ろうとして
「待ってリナ。まだ知らせてはだめよ。私の神託は外れる時もあるの。知ってるでしょ?」
「しかし……」
「私の命令よ。まだ、報告しなくてもいいわ」
「……はい」
そう返事をしてリナは足を止める。
「大丈夫よ。今回はす起きるような災害とかではないわ。けど、いつもと違うのは確か」
安心させるように言葉をかける。最後の方は小さく呟いていた。
「……もぐ。ふぅ。サラダも食べたし、私は部屋へ戻るわ」
「畏まりました」
リナが返事をしたあと、食べ終わったのがわかっていたようにゴードンが姿を表す。
「今日も美味しかったわ。いつもありがとうね」
「その言葉を聞けるだけで、至極恐悦でございます」
そう言ってサービスワゴンに空の皿を乗せて、戻っていく。
メリアは席を立ち、食堂を出て自室へ戻っていった。リナはメリアとは逆の方へ歩き出す。
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メリアは自室に戻ると、食後の運動を開始していた。といっても、準備体操のような軽い運動だ。
コンコン
運動をしていたメリアは、扉を叩く音に気付く。
「爺にございます、メリア様」
「入ってよろしいですよ」
少し声を大きくして呼び込む。
「失礼します。メリア様。この爺に、なにかご用件が?」
「いつも悪いわね爺や。少し調べものをしてほしいの」
爺やと呼ばれた人物は、本名をゲイルと言う。外見はローブを羽織った小柄な老人だ。
部屋に入ったゲイルはメリアの顏を見ると、笑顔になる。
「調べものですか? ワシが調べられる事ならなんでもいたしますぞ」
「そうね。率直に言うと、神託がきたの。その神託でのイメージがよくわからないの」
「なんと、神託が……。……して、そのイメージとは?」
「多分、紋章なんだと思うんだけど。まあるい円の中に、悪魔の翼が描かれている、そんなイメージだったわ」
その言葉にゲイルは目を見開く。
「円の中に悪魔の……? まさか……いや……。……メリア様、ワシは少しばかり用事ができました。今言われた紋章らしきものも調べてきますので、しばしお時間をもらいます」
「え、えぇ。時間はかかってもいいわ。すぐに起こるような災害ではないと思うのよ」
突然、笑顔から驚きの表情、次にキリっとした表情になったゲイルに困惑して、少し言葉が詰まる。
「それでは、失礼します」
メリアに礼をして部屋を出て行った。
「……あんな爺や初めて見た気がするわ。今度の神託、最悪なことにはならないといいのだけれど……」
そう呟く。後に、メリアがある儀式をしなければならないとは、本人にも予想はつかなかった。
誤字やおかしな点があれば修正します。
続きは今夜の22時に投稿します。多分……




