11話 宿の女将&自分の部屋
お待たせしました、今回は短めかもしれません。
それでは、どうぞ
ギルドを出て歩き始めて五分くらいだろう。太陽がすっかり落ち、月がでている。
オーゼン達の足が止まった。
「さ、ここが僕たちが泊まってる宿だよ」
「えっ……ここが、ですか?」
そこは一言で言うと、幽霊宿だ。
二階建ての宿で大きさも立派だが手入れが行き届いてないように見え、寂れている。
立地も悪いだろう、ここへ来るまでに裏道を何度か通った。
「なんだァ? 意外そうだな?」
「はい、中級冒険者と言ってたのでもっとその……言い方悪くなっちゃいますけど、こんな寂れた宿よりもう一つの宿に泊まっているかと思ってました」
ここへ来る途中に大通りにある宿にも寄ったのだが、その宿は盛況していた。ほとんどの冒険者がその宿に泊まっているのではないか? と思えるほど人の出入りが激しかった。
しかしバーキィは
「あぁ、ここじゃねェぞ? もう一つのほうだ」
そう言って歩き出したのを追って着いたのが、この宿。
「大丈夫。見た目と違って中は綺麗だから」
「女将一人で切り盛りしてるから外まで手入れが行き届かねェんだ」
「そうなんですか?」
この大きさの宿を一人で管理していては大変だろう。
「まぁとりあえず入ろっか、いつまでも宿の前で立ってるのもあれだしね」
「おう、そうだな」
「はい」
ドアを押し開ける、カランカラン とドアベルの音が響いた。
「おかえりー」
店に入った瞬間そんな言葉がかけられる。
二人の背中に遮られていて、声の主が見えない。
「いつも思うんだけどよ、『おかえり』はないだろ女将」
「うるさいねー、こんなボロ宿に帰ってくんのはあんたら二人しかいないじゃない?」
「ははっ、言えてらァ」
楽しそうに会話をしている。
「女将さん、実はね。今日は一人お客を連れてきたんだよ」
「へぇ? 珍しいねぇ、あんたらがここを紹介するなんて」
「まぁね、ちょっとした縁ができたから連れてきたんだ」
「ふーん。で、その客はどこにいるんだい?」
キョロキョロと見渡す。
「ここだよ」
そう言ってオーゼンは左に一歩ズレる。
「あ、どうも……」
悠斗が目にしたのは綺麗な女性だった。
茶色いロングの髪を後ろで束ね、頭巾を被っている。年齢は30前くらいだろうか?
少し目つきが悪いが、さっきの会話を聞いてたかぎり悪い人ではなさそうだ。
日本のスーツを着ればビシっとしたカッコいい女性間違いなしだ。
「あらまぁ……随分可愛い客だねぇ?」
女将は微笑む。
「でしょ? 今日冒険者登録したばかりの新人さ、しばらくこの子の手伝いとかするつもりだよ」
「おう! ハルトは俺が育てる!」
自信満々に大声で言う。
「へぇ、随分と気に入られてるんだね? 坊や」
「あはは……そうみたいですね」
苦笑を洩らす。
「なんだよハルト、嫌なのかァ?」
「いえ、むしろ有難いですよ? 僕このせか……いえ、街へ初めて来たので色々と知らないことが多すぎて……」
(危ない、世界なんて言ったら怪しまれちゃう)
冷や汗を流す。
「そうだろそうだろ、俺が色々と教えてやるから安心しろ!」
「僕の事も忘れないでね?」
「お二人はインパクトがあったので忘れませんよ」
二人を見上げる。二人は顏に笑みを浮かべた。
「あんたら、友情を育むのはいいけど、その坊やを早いとこ部屋に案内したいんだけど?」
女将が三人に話しかける。
「っと、悪いな女将。んじゃハルトは女将に部屋案内してもらってこい。それまで俺たちはここで待ってるからよ」
「わかりました。女将さん、お願いします」
「あいよ、ついてきな」
宿の階段を昇っていく女将の後をついていく。
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階段を昇ってすぐ右に曲がった。奥に窓が見える。もう夜なので月の光が洩れていた。
女将は一番奥にある扉の前に止まり
「さ、ここがあんたの部屋だよ。鍵は渡しとくから部屋の中を見るといいさ。あたしは下に戻ってあのバカ達の晩御飯作らないといけないから、よろしくね」
女将はそう言うと元来た道を戻り、下に降りて行った。
「ここが僕の部屋か……」
扉をさっきもらった鍵で開ける。
部屋の中は掃除が行き届いていた。ベッドと小さな机が一つずつ。広さは二畳くらいだろうか。寝泊りするくらいならこれぐらいが丁度いいのだろう。
悠斗は備え付けのベッドに座る。
「あ、そういえば僕、なんの荷物もないんだった」
穴に放り込まれたとき、学校鞄はなかった。放り込まれる前に落としたのか、それとも穴に落ちたのか。
そこらの記憶があやふやだった。
「……ま、いいか。教材と家の予備鍵ぐらいしか入ってなかったから」
(それに……もう僕には必要ないものだったしね……)
悲しそうな顏をして視線を落とす。
(帰る方法がわからない以上、この世界で生きることに専念しないと。生活が安定してから情報を集めればいい)
そう思った。
「よし! 考え事はここまでにして、下に降りよう」
部屋を出ようと扉に手をかける。少し開けたところで
「あ、いい匂いが……。そういえば晩御飯を作るって言ってたっけ」
ぐ~……とお腹が鳴った。
「この世界に来てからなにも食べてないや、お腹すいたなぁ……」
日本にいたときの朝食だけが悠斗の腹の中におさまっていた。最も既に消化済みだが。
「……僕の分もあるかな?」
呟いた悠斗は匂いの元を想像して下に降りて行った。




