0話 大戦争
それは、何が原因だったのだろう。事実は、未だ解明されていない。
二〇一〇年、二月二十日………同時刻に、世界の首脳国で七体の化物が出現した。
人間より一回り大きい異形の生命体たちは、何故かテンプレートな破壊行動を行わず、ただそこに佇んだ。一ヶ月経ち、完全に活動を停止しているとみなされた化物たちは【アルクトス】と名付けられ、一躍、大人気の観光名所となった。
―――だが、事件は起きた。
またも同時に、異形たちは消えた。否、突如として光の弾となり、近くに居た人間の中に消えた。するとどうだ。化物に魅入られた人間たちは、全員が【超能力】を身につけたのだ。
世界中のありとあらゆる部門の学者が躍起になって彼らを研究したが、結局、誰も【超能力】の原理を解き明かす者はいなかった。
政府は対応に困り、一向に問題が進まない不毛な会議を繰り返し続けた。唯一決まったことは、【超能力】を使える七人の人間を【能力者】と呼ぶことのみ。
彼らは苦しんだ。街を歩けば向けられる嫌悪と奇異の目。送られてくる悪口と糾弾。自分ですら答えを知らない質問の嵐。挙句の果てには軍事利用のオファー。
幾度となく考えただろう。【こんな力要らなかった】と。そして、世界中の人々が思っただろう【自分じゃなくてよかった】と。
そこから三年経ち、衝撃の事件が世界中を駆け巡った。
【能力者】の内、五人が団結して世界へ戦争を仕掛けた。
一人一人が大災害クラスの戦力を持つ【能力者】たちに対し、普通の【人間】とチープな武器はあまりにも無力だった。
残る二人の【能力者】は五人に対抗したが、敗北。一人は死亡、もう一人は重傷を負った。その後、襲い掛かる【能力者】に成す術はなく、ヨーロッパ、アジア、アフリカの一部は降伏。何万という被害を出し、陣地を明け渡した。
二〇一〇年、四月二十八日………世界は【人間国】と能力者率いる【アルクトス】の二つに分断された。
しかし、【人間】側にも運命の女神が微笑んだ。
この世に生を受けた子供が、【能力者】と同じような能力を携えていたのだ。世界中で誕生した特殊能力を持つ子供たちを両軍が奪い合い、戦争は激化の一途をたどった。
人々は、争い合う二つの狭間で揺れる姿を、哀しみ、憐れみ、蔑み、こう呼んだ。
【灰色の子供たち】と―――。