秘密の共有者とレベルアップ
クエストの報告をした後ギルドにある時計を見ると17時を指していた。後に聞いた話だがこの世界でも時間は24時間と共通らしいが時計の仕組みは少し違うらしく、魔法のゼンマイで動いているそうだ。
「スバルさんお待たせしました!」
そんな声とともに駆けてくるユイとそれに伴う複数の男性の視線がスバルに向かう。しかしクーロンも居るところを見て安心した人は視線を外すが好奇の視線は残る。
「今クエストの報告をしたとこなのでちょうど良かったです。さてどこに行きましょうか?なるべく人の少ない所に行きたいんですがどこか知ってますか?」
「人気のないところですか、1つ心当たりがあるのでそこに行きましょう。案内しますね!」
トコトコと歩きおいでおいでと手を招くユイについて行く。
「お願いします。」
歩いている間はユイが今日はこんなことがあった、友人がどうのとレパートリーが豊富な話題を振ってくれたので話が途切れることはなかった。残念ながらわからないところもあったがそこはなんとかやり過ごした。ちなみに今のユイの服装は青い膝上丈のミニスカート、白いインナーの上に若葉色のカーディガンを羽織っている。ギルドにいた時とは若干服装が違うのでこちらが私服なのだろう。
ギルドを出て20分ほど歩いただろうか、急にユイが立ち止まり「ここです!」と言って指さしたのは三日月に猫が乗っている看板を垂らした「月猫亭」という料理屋だった。何だか寂れて見えるが中に入ってみると落ち着いた内装に丸いテーブル席が3つ、カウンターが10席と言った感じだった。先客がテーブルに一組とカウンターに2人と全く客がいないわけではないらしい¨知る人ぞ知る¨と言う感じだ。ウェイトレスの案内に従って奥のテーブル席に案内される。三人とも今日のおすすめを注文した。
「さて、まずはお付き合い願いありがとうございます。改めて自己紹介と行きましょう、俺はスバル、こっちは召喚獣のクーロンで種族はバハムルになります。」
「初めましてじゃの人間様。いや、ユイよ。」
とりあえず初めの爆弾を投げてみた。
「あ、ユイです。あ、教官さん召喚獣だったんですねー、なるほどー、種族はバハムルですかー...えっ!?バハムルですか!?」
何と言うか予想通りの反応である。やっぱりギルドでこの話をしなくて良かったみたいだ。
「ええ、バハムルです。今日ユイさんを誘ったのはちょっとした秘密の共有者になってもらいたかったからなんです。」
「バハムルなんて1万年も昔に一度召喚された事しか前例がなくその時も熟練の召喚士が100人束になってやっと召喚出来たぐらいなのに...しかも、しかも人型でなんて.....」
「えーっと、ユイさん?まだ自己紹介なんですが?まだ本題に入ってないんですが?」
「ブツブツ......」
予想以上に衝撃が大きかったようだ。これは少し時間を開けた方がいいかもしれない、でないと卒倒されてしまいそうな勢いだ。料理が来てからにしよう、そう思いながらウェイトレスが運んできた水を飲む。
10分後ウェイトレスが料理を運んできてテーブルにコトンと置くとユイの意識が料理に向いた。ようやく落ち着いたらしい。
「落ち着いましたか?」
「な、なんとか。」
「料理も来たことですし先に食べましょうか。美味しそうだなぁ。」
「昼食の鹿の肉も美味じゃったがこの料理もなかなかどうして食欲をそそるのう。」
「ここの料理は美味しいですよ!今日のおすすめはヤールフィッシュとムーサル貝のスパゲッティとスリングモンキーのスジを煮込んだスープみたいですね。」
三者三様の感想を漏らた後、手を合わせて「いただきます」をする。まずは冷めないうちにスープから、とスプーンですくって口に運ぶ。そこからは二口、三口と止まらなくなりすぐに器を空にした。スパゲッティの方も同様にあっという間に平らげてしまった。うまい、旨すぎる。日本にいた時もこんな旨いものは食べたことがなかった。クーロンも同様のようだがこちらはアンドラシカの時以上に蕩けていた。しばらく戻ってきそうにない。
「ユイさん!ここの料理美味しいですね!」
正直な感想を言うと
「ふふっ、そうでしょう?実はこの美味しさで銀貨1枚なのよ?」
な、なんて安さだ。これは常連にならない手はない。
「連れてきてもらったこと一生恩に着ます。」
「やだなぁ、大袈裟ですよ。さてさて、本題に入りましょうか。さっきよりインパクトは強いんでしょう?覚悟はできてますよ!」
「本気なんですが...まぁ、そうですね。そろそろ本題に入らないと遅くなってしまいますね。それではお話します。今から話すことは一部の方以外には秘密でお願いしますね。目立ちたくないですし、ないとは思いますが妬まれたり後ろから刺されたりなんてことも御免ですから。」
「わかりました。続けてください」
「では俺の職から。聞いてのとおり召喚士はご存知ですね?」
「はい。」
「実はそれともう一つ暗殺者も発現しまして。」
「はっ!?2職持ちなんて聞いたことありませんよ!?」
勢い余って立ち上がるユイに落ち着くように言うとすんなりと席についた。
「しかし暗殺者ですか。それは隠した方がいいでしょうね。人に話せば十中八九厄介事に巻き込まれるか人に避けられてしまうでしょうから。」
なるほど、確かに影から敵を討つ職だがそれが必ずしも相手がモンスターとは限らないのだ。
「肝に命じます。それが二つ目の秘密で、最後の秘密は見せた方が早いでしょう。」
¨ステータス¨
ステータスを表示させ目の前のユイにも見えるようにと念じる。するとユイのほうから息をのむ声と叫ぶのをこらえてるような気配がした。すぐに落ち着き
「に、2億のMPなんてありえないです。かつて最高と謳われた大賢者様でもMP10万ほどだったと聞きます。はっきりって規格外すぎます。」
やはり相当に規格外だったようだ。しかし2億とユイは言ったか。今日ギルドで確認した時は1億だったはずだが…そう思い自分でもステータスを確認してみる。
タマ スバル
LV:3
ジョブ:召喚士、暗殺者
体力:410
MP:200000000
攻撃力:46
防御力:30
魔力:118
魔法防御力:102
速さ:50
スキル:契約、召喚、召喚獣装備、隠遁、投擲、身体強化
契約召喚獣:バハムル
レベルアップしていた。それも2つもレベルが上がっているしスキルも追加されていた。しかし鹿一体しか倒していない筈なんだか
「しかしMP以外そこまで突出したステータスではない気がします。しかしMPがこれだけあれば魔力を使い放題ですね」
「すいません、MPが高いとどんな利点があるかザックリでいいか教えてもらえません?」
MPがいくらあろうと使い方を知らないと宝の持ち腐れだ。
「そうですね、まず第一にスキルを使い放題ですね、おそらくこの量ならスキルを使用してもすぐに回復するでしょう、次に魔力、魔法防御力のブーストが図れます。ステータスはレベルアップで勝手に上がりますが実は酷使した能力は伸びやすい傾向にあるんです。この時酷使した能力が今のレベルの限界を超えるとレベルアップすると言われています。ですから長時間走り続けたりすると体力と速さが、魔法を使い続けるとMPと魔力が上がったり、重い物を振り回したりしてると攻撃力が上がったりします。」
この理論でいくと俺の場合は魔力を体にずっと流してたからMP、魔力、魔法防御力が上がりやすくなり、レベルアップについては魔力を一般的に酷使していたからということになる。
「最後の利点としてはスキルの召喚獣装備でしょうね。」
「召喚獣装備?」
実は気になっていたスキルであるのでこの機会にぜひ知りたい。
「そうです、召喚獣装備は”汝の力を我が身に宿し共に戦わん”と唱えれば発動することができる魔法です。実はこれは召喚士の皆さんのデフォルトスキルです。しかし召喚士の皆さんはあまり使いません、なぜだかわかりますか?」
「魔力消費が激しいとか?」
「当たらずも遠からずというところですね。この召喚獣装備はMPの総量で召喚獣を装備できる規模が変わってくるんですよ。といっても召喚する召喚獣によって要求されるMP量も変わりますが…そうですね、熟練の召喚士が中級の召喚獣で全身装備できるのが10人に1人といえばわかりやすいですか?」
「すごくわかりやすいです。話を聞いている限りは召喚獣装備って召喚獣の鎧みたいなもんですよね?ダメージを受けたら召喚獣が傷ついたりするんじゃないんですか?」
「いえ、その心配はありません。召喚獣の性質、能力を自身の装備として複写すると思ってもらえばいいです。」
これらのユイの話を聞いているとユイ一人を共有者にするのはいろんな意味で危険かもしれない。
「なるほど…いろいろありがとうございます、一応俺の秘密はこんなところです。」
「これはちょっとヘビーですねぇ…なんでわたしに話したんですかぁ…」
ユイは涙目になりながら泣き言を言ってくる。
「ユイさんは初めに世話になった方ですし面倒見もよさそうでしたので…」
事実である、いろいろ役に立つここも教えてくれたしアンドラシカの狩猟の際も袋をくれた。なにより人のことを考えて動ける人だと思ったのだ。
「うぅ、そうですけど…スバルさん。このこと他言はしません、でもギルドにだけは話させてくださいでなければ後々すごいことになっちゃいます。ギルドは信用第一をモットーにしてるだけあってみんなすごく口が堅いですから安心してください。実力があるといってもすぐに上のクエストに行けるわけではありませんが…事実を知ってればもめ事も少なくなると思いますよ?」
なるほど…双方にとって利点ありか、以外とユイは強かのようだ。
「わかりました、ではギルドにはお話しいただいて構いません。」
「ありがとうございます!そういえばスバルさん今日の宿はどうするおつもりで?」
「決まって、ないですね…」
完全に忘れていた。もう時間は21時を回っている。今から宿は開いていないだろう、今夜は野宿かと思っていると。
「も、もしよければうちに来ませんか!?」
なんだか顔が赤いのはなぜだろう。
「えっいいんですか?ではお言葉に甘えましょうかね。野宿あんまりしたくないですし…」
来たばかりの異世界で野宿とかどこの阿呆だという感じだ。藁にも縋るとはこういうことを言うのだろうか。
「では早速行きましょう!」
そういいながらすっかり夜の更けた道を歩いていく。クーロンはかなり眠そうだ。ちなみの勘定はいろんなお礼をかねて奢らせてもらった。歩き始めてすぐ目的地に着いたようだ。
「お母さんただいま!」
元気な声でユイが叫ぶとふくよかな体型をした強気そうなおばさんが振り向く。
「おや、おかえりなさい。そっちの坊やは?」
「どうも、スバルといいます。」
「こんばんはスバル、私はマーサだ。ところでユイ、ボーイフレンドなんて連れてきてどうしたんだい?」
茶化すようにマーサが言うと
「そ、そんなんじゃないもん!スバルさんが宿取り損ねたみたいだから1部屋貸してあげてほしいの。余ってるでしょう?」
表にあったベッドマークの看板は宿屋のことだったのか。どうやらユイの実家は宿屋を営んでいるらしい。
「大丈夫だよ、そうさねぇ。普通なら銀貨7枚はもらうところなんだけどユイの紹介だからマケテあげるよ銀貨5枚でいいよ。悪いけどうちは前払いだから先に頼むよ」
銀貨7枚だと銅貨50枚しか残らないところだった…やっぱりお金は稼いでおかないとな。ちなみにクーロンは魔界に帰ると言って宿屋に来る前に戻っているので一人分でいいのが助かる。
「わかりました、これでお願いします。」
言われた通り銀貨7枚をマーサに渡し部屋の鍵を受け取る
「ユイさん今日はいろいろありがとうございます、例の件は頼みますね。それではおやすみなさい」
「わかってますよ。おやすみなさい。」
ユイは心なしか膨れて返事をした。そのままユイにおやすみの挨拶をして部屋に入るとどっと眠気が襲い掛かってきてそのままベッドに倒れ込みして眠りに落ちた。
6話完結です。曲がりながらもまとめてかける方法見つけましたです。あんまり焦らなくていいから楽です