入学式
ジリリリリリリと耳障りな音が耳元で炸裂する。
この音で意識が覚醒する。
まだ寝ているような身体をもぞもぞと動かし、音源である目覚まし時計を叩く。ついでに目覚ましの機能をOFFに変える。
目覚まし時計はチリンと最後の音を残し止まった。
「おはよう。ライブラリアン」
「おはよう」
自分に憑いている神と言われる存在にあいさつをし、寝起きで怠い身体を動かしベットから起き、洗面所へと向かい顔を洗う。
先日までならもう少し寝ていたのだが、今日はそうもいかない。そう、今日は入学式なのである。
現在、茂は寮に住んでいる。
寮というとそこまで便利、綺麗などという感じはしないが、ここの寮はとても住み心地が良い。
トイレにキッチンに洗面所、さらに洗濯機と乾燥機付き、リビングは寝室と同じになっている。
茂の寮というものは色々と共用するものと考えていたため、これは驚きであった。
さらに、寮の1階には売店と食堂まであり、とても便利なのである。
洗面所から戻ってきた茂は制服に着替える。
制服はブレザータイプのもので紺を基調としたもので、ズボンは灰色にこげ茶のチェックが入っていた。
朝食は買い置きのサンドイッチを素早く食べる。
そして、歯を磨き、準備完了。
今日は入学式だけを行うため、荷物はいらないらしい。
しっかりと鍵をかけ、寮をでる。
これから向かう高校は坂を2つほど登ったところにあるのである。
山を切り開いて建てたらしく、かなり広い。
あんな寮を建てたり、高校を作るほどの金を持っているというのは羨ましい限りである。
そんなことを考えながら歩いていたが、ふと周りを見渡すと、高校に向か人物がちらほらといる。
おそらく、全員が自分と同じ新入生であろう。
というのも、新入生は在学生よりも遅く登校するためである。
特に何も起きず、ただただ桜が散っているのを眺めながら歩き学校に着く。
すると、校門の方から大きな声が聞こえてくる。
「新入生の皆さんは体育館に集合です。誘導に従って動いてください」
それに従い、体育館の方へと向かう。
そこには、自分と同じ制服を着た人が何人も集まっていた。そして、前の方ではプラカードに1-1や1-6などとクラスが書いてある。これは事前に発表されており、自分は1-3であった。
「出席番号はないので来た順に並んでください。男子は右、女子は左です」
言われた通り、1-3の右側に並んでいると、後ろから声をかけられる。
「俺は赤木真人、よろしくな」
「俺は森田茂。こちらこそよろしく」
声をかけてきたのは自分よりも少し背が高く、爽やかな印象の青年であった。
「おう!ここに来たのはいいけど知り合いが少なくてな、仲良くやろうぜ。あと、真人でいいからな」
というと、真人の隣に並んでいた女子が会話に乗り込んでくる。
「知り合いが少ないって私だっているでしょう。あ、私は真田真央。よろしくね」
髪を肩のあたりまで伸ばした少女である。最初は怒った様な顔であったが、自己紹介する頃には可愛らしい顔へと変わっていた。
「私だってっていっても、俺とお前しかいないじゃないか」
「そういえばそうだったわね」
「同じ学校の出身か、羨ましいなあ」
「なんだ、茂は知り合いはいないのか」
「まあね、だから、こうやって話かけて貰えて嬉しいよ」
「俺も今の会話の通り、こいつしか知り合いがいないからな」
「こいつって人のことを、そういえば、茂は知り合いがいないってことは、少し遠くから来ているの?」
「そうだよ。寮に住んでるよ。じゃあ、2人も?」
「ああ、俺は寮の3階に住んでいるぞ」
「私は4階」
ちなみに寮は3階までが男子、4階から6階までが女子である。もちろん、行き来はしてはいけないが、ばれなければ大丈夫であるらしい。ばれても注意だとか。
「じゃあ、少し遠くからわざわざこの高校に来たってことは、貴方も?」
おそらく、憑いているかということであろう。
「ああ、2人は?」
「もちろん。憑いてるわよ」
「俺もだ」
「この学校にくる生徒の大半には憑いているでしょうね。あ、そろそろ式が始まるわね」
体育館から出てきた人が誘導していた人たちに何かを伝え、また戻っていった。
そして、プラカードを持っている人が話始める。
「静かにしてくださーい。これより、入場です。男子は右側の席に、女子は左の席に前から詰めていってください。では、あと少しで1組の生徒から移動します」
辺りは静かになり、その時を待っている。
すると、
「真人と茂。終わったら一緒に帰りましょ。同じ場所なんだし」
「だな」
「わかった」
1組から入場していき、ついに自分たちの番がくる。
緊張しているが、だらしのないように歩き、席に着く。
体育館は広く、生徒も大勢いる。
新入生が座るエリアと在学生が座るエリアの間には吹奏楽部であろう生徒たちが何かの曲を演奏している。ジャンルはクラシックであろうが、名前は知らない。
入学式も進み、この学校の1番偉い人、理事長の挨拶が始まろうとしていた。
この学校を建てた人物でもあるから、眠たくなってきた意識を無理やり起こし、どの様な人物かを確認する。
ステージに上がった人物はいたって普通の人物であった。が、歳は30代であろうか、背は180と高い位、顔も体型も普通の人物である。
あの若さであれだけの金を持っているというのは、どの様な人生を歩んでいるのかが少し気になるものである。
「新入生の諸君。入学おめでとう。私はこの高校の理事長である神崎達哉だ。諸君がこの高校へと来たからにはやはり、この高校で学びたいことがあるからであると思っている。知ってのとおり、この高校では一般に神に憑かれた人間、神人と言われる人間とそれに関わる人材を育てることを目標に抱えている。中学校で習っていはいると思うが、今から100年前に起こった神々の争い。それにより生まれたのが神人である。その神人は強大な力を持つ。この学校ではその力の使い方をしっかりと学び、これからに役立てるため存在する。では最後に、これから3年間、よろしくお願いします」
理事長の話も終わり、入学式の閉会の挨拶が終わると新入生は退場していく。
退場後は軽く明日の予定を伝えられ、解散となった。
「ふぁあ、やっと終わったな。いつまでたっても入学式とか卒業式にはなれないぜ」
「そんな大きなあくびして、本当いつも寝てるわよね」
「まあ、退屈だからなあ」
「やっぱりそうだよな」
「俺は寝ないけどね」
3人で会話をしつつ校門を出て、坂を下り、寮へと着く。
寮に入り、別れ際に、
「じゃあ、さっき話した通り、真人の部屋で」
「わかった。っと、何号室だっけ」
「俺は307号室だ」
と真人。
「私は456よ」
と真央
「俺は224号室、じゃ、お菓子とか持ってくからなー」
「サンキュー」
茂は部屋に戻ると菓子を入れている棚を漁り、3人で食べられるものをチョイスする。
そして、制服のまま、真人の部屋へと向かった。
真人の部屋にあった2リットルジュースのペットボトルを真央は躊躇なく開け、グラスに注いだ。
「おまっ、勝手に」
「別にいいでしょ、こんな時くらい」
「まあ、いいけどよお」
本当に仲が良い。
そして、ジュースを注いだグラスを持ち、真央が立ち上がる。
「じゃあ、入学式お疲れ様、そして、新たな友に乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
その後はお菓子とジュースを飲み食いしながら、中学の頃の話などで盛り上がった。
その話でしったのだが、真央と真人の2人は幼なじみというやつで、家も隣どうし、親たちは2人が生まれる以前からの仲であるらしい。
仲もいいわけだ。
「へぇ、そうだったんだ」
「昔から家族ぐるみでの付き合いってやつだったよ」
「本当、うちの両親もあんたの両親と仲がいいからね」
「だな」
「まあ、そんな話もほどほどにして……」
と、真央が一旦話をとめる。
「どんな能力か見せ合いっこしましょ」
「お、いいな、俺も茂の能力が気になってたし、茂、見せてもらえるかい?もちろん俺はみせるぞ」
別に隠す理由もない。
「ああ、問題ない」
「じゃあ、俺から。イフリート!」
『おう』
真人が名前を呼ぶと、どこからともなく、赤褐色の肌の獣人と言うのだろうか、顔は悪魔のようであり、ツノまで生えている。
「イフリート、炎を」
すると、イフリートがなにかすると、真人の両手に炎が灯る。
一般的に神人は神力というものを持つ。憑き神がその神力を使い、憑いた人間に力を与えるのである。
しかし、その使い方を学べば、人間でも扱うことが可能になるらしい。
学園ではそんなことも教えるらしい。
「へへ、どうだ。俺に憑いているのは炎の神。名前はイフリートだ」
ちなみに、名前は憑かれた人がつけている。
「じゃあ、次は私が紹介するわ。シヴァ、お願い」
『ええ』
すると、真央の後ろに揶揄とかではなく本当に青白い肌の妖艶な女性が現れる。身には布と氷をまとっている。
そして、真央の持っているグラスの中のジュースが一瞬で凍る。
「私の憑き神はシヴァ、氷の神よ」
「よし、最後は俺だな。ライブラリアン!」
茂の後ろに白いロングマントを羽織り、下にはこれまた白い何かの制服姿の男性が現れる。眼鏡をかけ、右の手には真っ白m(_ _)m持っている。
「そうだなあ、2人とも、何か読みたい本とかある?」
「読みたい本ね」
「そんだな、あ、あったあった。今週のジョンプ。まだ読んでなかったんだ」
と有名な週刊誌をあげる。
「お願い、ライブラリアン」
「了解」
後ろのライブラリアンが真っ白な本を開き、本のページのどこかを触れると、茂の手には真人が読みたいと言っていた今週のジョンプがあった。
「へぇ、便利ね」
「うぉー、ありがとう茂!」
「俺の憑き神はライブラリアン。司書の神だ」
「へぇ、司書の神。書とか本の神みたいな感じかと思ったわ。名前じゃなくて能力ね」
「この能力は目録から本を探すって能力なんだ」
「どんな本も無料で読み放題ね」
「普通の本はね。まあ、ある程度の特徴を知ってれば本は出せるんだ。でも、魔道書とか、実在しない本は出せないんだよね。魔道書も出せるやつは出せるんだけど読めないし」
「なるほどね。でも、やっぱり便利だわ」
「ありがとう、あ、でも、読み終わったら返してね。本の貸し出しは1週間だけなんだ」
「わかった。結構ながいな」
「もし、返さなかったらどうなるの?」
「その貸し出した相手にペナルティーが課せられる」
「どんな?」
「何かしらの魔法が発動する。でも、死なないし、大怪我するわけではないけどね」
「わかった。それまでには返すよ」
その後、これからの高校生活や憑き神のことの話をして、お開きとなった。
部屋に戻り、夕食や風呂を済まし、明日に備える。
「よかったな。茂」
「なにがだ、ライブラリアン」
「何がって、友達ができたことさ。今日の朝まですごく不安だっんだろう?」
「知ってるくせに」
神は人の精神とかそんなものに憑いているらしい。
そのため、茂の考えていることはライブラリアンにも共有されているのである。
「明日もはやいんだ、もう寝るといい」
「お前から話しかけてきたくせ」
「興奮すると眠れんぞ」
「えーい、うるさい。おやすみ」
「おやすみ」




