第六話 ②
第六話 ②
「そろそろ、お風呂に入りましょうか」
食事を終え、葵と共にだんらんしていると、突然そんなことを言われた。
「お、お風呂!?」
思わず声が裏返ってしまう。
これ、一緒に入るヤツだよね……絶対そうだよね。
服を脱ぎ、一糸まとわぬ葵の姿を想像してしまった。
修学旅行やプールの着替えなんかで、同年代の女の子の裸なんて見慣れているハズなのに、想像しただけで頭がフットーしそうになる。
「う、うん。じゃあ、行こうか」
頭と心を落ち着かせ、なんとか葵の提案を肯定した。
「あ、その前に祇園ちゃんに謝っておかなくちゃいけないことがあります」
謝る? 何をだろう。
「今この旅館はシーズンではないとは言え、営業はしています」
そりゃあそうだろうね。でも、それと謝るって何の関係が?
「そして、大浴場にはお客様がいらっしゃいます」
うん。この流れってもしかして……
「だから、申し訳ないのですが、家のお風呂に入らなくてはならないのです」
「なんだ。そんなこと気にしなくていいよ」
なんか、少し残念なような、安心したような。
家のお風呂ってことは、一人ずつ入るってことだよね。
「葵が先に行っていいよ」
葵の家なんだから当然だよね。
「え?」
「え?」
葵が何故か頭上に疑問符を浮かべ、首をかしげる。
私も聞き返してしまう。
「一緒に入らないのですか……?」
「い、一緒に……?」
一緒にって私と葵が!? あの狭い空間に全裸で二人で!?
「い、いやぁ、流石に二人は狭いでしょ?」
「狭くないです! いや、狭い方が好都合です!」
「で、でも……」
「それに、一緒に入った方が地球に優しいんですよ!」
エコだからかな? 話のスケールが大きすぎるよ!
「恥ずかしいよ……」
「電気消してあげますから!」
「そういう問題じゃなくて……」
「すぐに気持ち良くなりますから!」
なんか、口説きみたいになってない?
私がもじもじしていると、葵は急に床にぺたりと正座をした。
「分かりました。では、土下座をします!」
「えええええええ!?」
「一緒に入って下さいぃ!」
力強くそう言いながら、大和田常務もびっくりするくらいにダイナミックな土下座をする葵。
「ちょっと、葵、止めてよ!!」
何が葵をここまで突き動かすのか。
私が制止するも、一向に止める気配はない。
「わ、分かったよ……恥ずかしいけど、一緒に入るよ……」
そう言った途端、葵は跳ね起きて私に抱きつく。
葵って着やせするタイプだったんだ。
湯船につかりながら、そんなことを考えた。
身体を洗い終えた葵が湯船に入ってくる。私は少しスペースを作る。
肩まで湯につかった葵は少し息を吐くと、私に微笑みかけた。
湿った髪、桃色の頬、首を伝う雫。
そして、その豊かな胸。
正直、目のやり場に困ってしまう。
だから、天井に目をやった。天井には小さな窓がついている。今夜は満月だ。
月がきれいですね。なんて言ってみようかな。
そんなことを考え、少し可笑しくて口元が綻んでしまった。
個室に戻った私たちは、それぞれ布団を敷いた。
家ではベッドなので布団で寝るのは久しぶりだ。
横になり、照明を弱くする。
「今日は呼んでくれて、ありがとうね。葵」
「いいえ。私こそ、来てくれてありがとうございます」
夜に友達と話すのも初めてだよ。
修学旅行ではいつも、クラスメイトがリア充的な会話をする横で、眠るフリをしていたものだ。
でも、こんな私にもやっと友達ができた。
それも、こんなにステキな友達。
葵が愛おしくてたまらない。
「ねぇ葵」
その気持ちに任せて、私は葵の名を呼んだ。
「……そっちの布団に行ってもいいかな?」
私の突拍子もない提案に、葵は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔で、
「いいですよ」
と言った。
「ありがと」
私はころりと回転して葵の布団に潜り込んだ。
葵は私の頭を撫でてくれた。
「祇園ちゃん、案外甘えん坊さんですね」
「……」
私は黙って頷く。
そして、葵の手を握った。
そうすると、葵は手を握り返してくれた。
葵の手は温かく、私の気持ちを安らかにした。
この手がずっと繋がれていますように。そう願って私は眠りについた。
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