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第五話 前編

第五話 前編


 遂に、遂に来てしまった。

 今日はリア充の祭典にして、非リアにとっては拷問の一日となる、あの日。

 そう。文化祭。

 毎年、毎年、毎年、この日が憂鬱だった。

 だが、今年は例年の私とは違うのだ。全然、違うんだよ!

 なぜなら、友達がいる。葵がいる。

 午前中は葵と一緒に校内を見て回る約束をしている。

 ちなみに、私たちのクラスの出し物は『白雪姫』。つまり演劇だ。午後はこちらの準備がある。

 と言っても、私は小道具の作成を担当したので、当日は特にすることもなく見守るだけなんだけど。

そして、葵はなんと『白雪姫』の主役、白雪姫を演じるのだ。

 葵も最初は断っていたんだけど、クラスメイトからの推薦が凄かった。葵は美人だからね。

「葵は凄いね……舞台に立つなんて、しかも、主演!」

「最初は嫌でしたよ? でも、皆さんが強く推すので……」

 客引きやらなんやらで騒がしい校舎を葵と共に歩きながら会話をする。

「それより、最初はどこに行きますか?」

 そうだねぇと呟いて、手元のパンフレットを見る。

『映画研究会 夜の保険体育』

 よく放送できるね。

『旅行部日記 大洗マリンタワー 豊郷小学校 鷲宮神社』

 ずいぶんと偏りのある旅行部だね。

『レスリング部 ウホッ! イイ男だらけのガチムチパンツ喫茶』

 ノーコメントで。

 う~ん。しかし、いろいろありすぎて選べないや……

「でしたら、『漆黒の館』に行きませんか?」

 そう言って葵がパンフレットの地図を指さした。

 どうやらオカルト研の出し物らしい。

「ここでは占いをやっているみたいなんです。小耳に挟んだのですが、相性占いがよく当たるらしいですよ?」

「相性占い……」

 葵は、そういうことに興味あるんだろうか? つまり、相性が気になる好きな人とかがいるのだろうか?

「あ、え~と、葵って好きな人とかいたの?」

 私は控えめに聞いてみる。

「い、一応……」

 そうなんだ……なんか、言葉にできないイライラを感じる。相手の男を殴ってやりたい。そんな気持ちになった。

「葵に想われるなんて、幸せな男だね……」

 その心を悟られないように、なんとか言葉を返した。

 そうすると、葵ははぁとため息を吐く。

「鈍感系主人公、本当にいるんですね……」

 葵はまるで天然記念物を見たかのような調子で言った。




『漆黒の館』にて。

行列の先に待っていたのは意外すぎる光景だった。

「ふふ……悪魔との契約により、汝の未来を知る勇気はあるか?」

 中二的な眼帯をした男が言う。

「ふっ! 勇気がないのなら去りたまえ」

 フードをかぶった男も言う。

「って! あんたら何しれっと再登場してんの!?」

 この中二男、私が葵と初めてバトルした時の人たちだよ!

 しかも、良くみたらうちの学校の制服着てるし……

「あんたたち、ここの生徒だったの……?」

「ふふ……昼間の姿ではな……」

 私の侮蔑の目をものともせず、マイペースに痛すぎるキャラを発揮する。

「でも、あの時、不審者警報鳴りましたよね……?」

 葵が疑問を口にする。

 私もそれは不思議に思う。普通の生徒に対して警報が鳴るなんて。

「ふんっ! 神の使者からの依頼でお前たちを襲った。警報を鳴らしたのは、下界の人間共を遠ざけるためだ」

 今度はフードの男が質問に答えた。

 なるほど。神の使者、すなわち、ザビエル教頭の差し金なんだろう。

 ザビエル教頭は警報で一般生徒を避難させ、私たちにバトルをさせたんだ。

 しかし、どうしてザビエル教頭はそんなことを?

 その疑問を口にすると、

「ふふ……限りなく万能に近い我らでも、知らぬこともある」

「ふんっ! なんでもは知らぬ、知ってることだけだ」

 と答えた。前から思ってたけど、フードの方ちょっとおかしいよね。

「そんなことより、占ってくださいよ!」

 きらきらと目を輝かせて葵が一歩前に出た。

 そうだった。本当の目的を忘れるところだった。

 葵の占いに来たんだった。

「ふふ……良いだろう。何を占う?」

「相性占いです!」

「ふんっ! 良かろう……想い人の顔を思い浮かべるのだ」

 その言葉を聞いた葵は何故か私の顔をチラっと確認し、目を閉じた。

 そうすると、中二男たちはわけのわからない呪文を唱える。

「~~~~! 結果が出たぞ!」

「どうですか!?」

 葵が目を煌めかせる。

「ふっ! 相性は抜群だ! そしてさらに――」

「さ、さらに……?」

 興奮状態の葵。

「ふふ……近い将来、接吻をするであろう!」

「接吻!? キ、キスですか!?」

 キス!? 葵が!? ちょっと待って!!

 そんなの認めないんだから!

「キ、キスですか~」

 葵はぽーっとした表情で呟いた。

 



「あんな占い絶対当たらないよ!」

「そんなことありません!!」

 『漆黒の館』を後にした私たちは軽い口論になっていた。

「当たらないよ!」

「当たります!」

 しばらくにらみ合った後、お互いに目を逸らした。

 怒らせちゃったかな……

「まぁいいです……次はどこに行きますか?」

 葵がそこまで深刻に怒っていないことに安心しつつ、再びパンフレットを広げる。

「あ、ここなんてどう?」

 地図を指さす。

「『爆笑漫才!』ですか。祇園ちゃん、漫才とか好きなのですか?」

「う~ん、特別好きってわけじゃないんだけど……」

「だけど?」

「一つ、確認したいことがあってね」

 葵は不思議そうにしていたが、『爆笑漫才!』へ向かうことに了承してくれた。




「はいど~も~放出浪花です~」

「三宮渚よ」

「「二人合わせて~「なぎさなにわ」です~」」

 ここは落語研究部の部室。『爆笑漫才!』を見に来ている。

 放出さんと三宮さんとは以前『リンクバトル』をしたことがある。やはり、彼女たちもここの生徒だったんだ。

 しかし、あまりにも予想通りすぎるよ……

「ウチな、最近不安に思うことがあんねん!」

「なに?」

「高校卒業して、大学に行くやん?」

「え……? あなた、卒業できるの?」

「できるわ!! 問題はその後や! 就活や!」

「確かにあなたは不安でしょうね。あなたの学力だと間違いなくFランでしょうし……」

「うっさいわ! どうせウチは成績悪いですよ!」

「そうね」

「否定せえへんねんな……まぁええわ。そこでや、面接の練習を今の内にしときたいんや!」

「一人でやれば?」

「いやいやいや! ここは一緒にやる流れやろ?」

「はぁ。じゃあ、私が面接官ね」

「よっしゃ!」

「まず、名前、趣味、スリーサイズを教えてください」

「待たんかい! スリーサイズなんて聞いてどないすんねん!?」

「それもそうね」

「案外素直に認めるねんな」

「ええ。もう知ってるし」

「え!? なんでや!? いつの間に!?」

「あなたが寝ている間に毎日測定してるの」

「怖っ!」

「次に、今日のパンツの色を教えてください」

「ちょい待ちぃ! なんでさっきからセクハラ面接やねん!」

「ごめんなさい。今の質問も意味はないわ」

「え?」

「だって、知っているもの。今日のパンツはピンクの縞よね」

「え!? ちょっと! 台本では赤パンツってことになってるねんけど……」

「アドリブ効かせなさい」

「う、うん。でも、ホンマに今日はピンクの縞やからびっくりしたわ」

「知ってるから」

「……」

「知ってるから」

「……なんかホンマに怖いなぁ」

「では、最後の質問です」

「おっ、最後か! 気合入れな!」

「あなたの好きな人は誰ですか?」

「え……」

「だ れ で す か ?」

「そ、そんなん……な、な、なぎs……」

「なんですか? ハッキリ言いなさい」

「渚が好きや!」

「私もよ!! 本気で愛してる!」

「それも台本にないセリフやな!」

 そう叫ぶと同時に幕が下りた……


 こうして「なぎさなにわ」の漫才は幕を閉じた。

「ステキな漫才ですね~」

 葵が大きな拍手を送る。

 ステキかなぁ……

「アドリブなのか台本なのか分からないセリフが多かったね」

「愛が溢れています~」

「……想いの一方通行があるのは確かだね」

 そんなやり取りをしていると、

「ウチらの漫才どうやった?」

 と後ろから声を掛けられた。

 振り向くと、放出さんと三宮さんがいた。

「この前はスマンかったなぁ。教頭に頼まれて……」

「あなたの進級単位と引き換えにね」

 頭を下げる放出さんに対し、三宮さんがさりげなく教頭の職権乱用を暴露する。

 やはり、この二人も教頭の差し金だったんだね。

「漫才、ステキでした!」

 葵は無邪気に漫才を称賛する。

「そうか? ありがとうな。渚のアドリブに上手く反応できへんかったからちょっと心配やってん」

 放出さんは、頭をぽりぽりと掻く。

「あれはただのアドリブではないわ」

 三宮さんが横から口を出す。

「では、何なのですか?」

 それに対し、葵が疑問をぶつける。

 そうすると、三宮さんは少しメガネを押し上げて、今にも消え入りそうな声で言った。

「私の……気持ち……」

「気持ちの入ったアドリブってことやな!」

 乙女モード全開の三宮さんとは対照的に、放出さんは元気に言い放った。

「………………………………………………ばか」

 三宮さんはため息を吐き、そして少しの沈黙の後、一言そう呟いた。

「なんでウチがバカやねん!?」

 放出さんが大声で抗議する。

 その様子を見ていた葵は急に三宮さんの手を取った。

「三宮さん!」

「な、なに?」

「鈍感な人って困りますよね! 気持ち、よ~く分かります」

 そう言われた三宮さんは少し驚いた後、私の顔をちらりと見た。

「そうね。あなたも苦労しているようね」

 何故、私を見て、全てに納得したような顔をしたのかが分からない。

 私と放出さんは、ただただ首を傾げるしかなかった。




「やっぱり次は、ここだよねぇ」

「ですね」

 『爆笑漫才!』を後にした私たちは現在、中等部の教員達が営む喫茶店『ハニーダーリン』に来ている。

 まぁ、予想通りと言うべきか、ウェイトレスの格好をしたハニーさんと、執事の格好をしたダーリンさんがいた。

 いや、正しくはハニー先生とダーリン先生と言うべきだろうか。

「お二人は、この学校の教員だったのですね」

 葵は注文したナタデココを一口すすったあと、そう言った。

「ふふ。そうだよ。僕たちは中等部の教員だから、高等部の君たちは知らなかったようだね」

 安定のナルシストな笑顔で髪をかきあげるダーリン先生。

「やはりお二人もザビエル教頭の依頼で私たちを?」

 私もタコヤキドリンクを一口すすり、質問をする。

「そうよ。やり方は強引だけれど、彼の意思には共感できるところも多いわ」

 ハニー先生が答える。

 教頭の意思、か……

「四条さん」

 ダーリン先生が真剣な眼差しで言う。

「ここに来たという事は、もう分かっているのだろう? 教頭の意思、そして、それに対する君の結論」

 その言葉に対して、葵は静かに頷いた。

「結論を聞くことはしませんわ。けれど、一つ覚えておいて欲しいことがありますわ」

 ハニー先生も真剣に言う。

「あなたはもう、一人ではないということ。そして、二人でなら乗り越えられる壁があるということ」

葵は、あいまいな表情で頷いた。




『ハニーダーリン』を後にし、しばらく校内を散策した。

 その間、葵の態度はいつもと変わらないような気がした。

 だから、私もとりたてて深入りしたりはしない。

 けれど、やっぱり気になる。友達が何か困っているのなら力になりたい。

 葵のためなら、どんなことでもできるよ?

 でも、それってお節介かもれない。

葵がどんな秘密を抱えているのかは、分からない。でも、それを私に話さないってことは、きっと、私から聞くべきじゃないんだと思う。

 …………。

 頭では、そう分かっている。

「ねぇ、葵」

「はい」

 困ってることがあったら、何でも言ってね。

「……なんでもない」

「……そうですか」

 そんなこと、なかなか言えないよね。

「祇園ちゃん、そろそろ戻らないと」

「あ、もうそんな時間か」

 劇の開始まであとちょうど一時間。準備のためにステージへ向かわないと。

 人生初の友達と回る文化祭も、もうすぐ終わりか。すっごく楽しかったけれど、なんだか少し名残惜しいな。



次回、祇園と葵、遂に初××……!

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