第八話
投稿まで時間がかかってしまって申し訳ありません。やっと最終話です。これまで読んで頂き、本当にありがとうございました!!
第八話
舞台の下では、放出さんと三宮さんが戦闘部隊を相手に戦っている。
観客はこの混乱に恐怖する者、興奮する者、さまざまだが皆一様に舞台に注目している。
舞台上で、私は鎌瀬とその従者と対峙している。
「葵」
鎌瀬の従者に捕えられ、身動きの取れない葵に声を掛ける。
「祇園ちゃ――」
「寺町祇園。お前と葵さんはもう友人ではない。赤の他人だ。その赤の他人が何の用だ?」
葵の言葉を遮って鎌瀬が言う。
だけど、鎌瀬の言葉など気にしない。
「私ね、ずっと自分は一人ぼっちで友達なんていないし、できないって思ってた」
トイレでぼっち飯。体育のペアは先生と。お話をするクラスメイトもいない。
これまでも、そしてこれからも、そんな生活が続くのだと思っていた。
「葵さん、耳を傾ける必要はない」
鎌瀬が言う。
構わない。誰が何と言おうがこの気持ちを伝える。
例え、強引にでも。
「でも、思い出したよ。葵はずっと私の友達でいてくれたんだね。幼い日の約束をずっと覚えていてくれて、それを忘れていた私とも仲良くしてくれて、傍にいてくれて……」
考えなくても、自然と言葉が口から溢れてきた。
もっと、もっと伝えたい事があるよ。
「一緒にいる時間が一番楽しかったよ。ゲームしたり、オタロードに行ったり、ちょっとすれ違いでケンカしたり、文化祭回ったり、白雪姫の劇やったり……その全部が最高に楽しかったよ!」
一度は、鎌瀬により引き裂かれた私たち。
けれど、毎日毎日思い出すのは葵の事ばかりで……
とめどなく溢れてくる葵への想い。
もう、この気持ちを抑えることはできない。
「葵と友達になれて本当に嬉しかった。葵、大好きだよ……! だから、今度は私から言わせて……!!」
そのまま私は葵に向かって走り出した。
火事場の馬鹿力というのだろうか。自分でも驚くほどのスピードが出た。
突然の行動に鎌瀬もその従者も驚きの表情を浮かべる。
従者に捕えられている葵。その葵の手を掴み、強引に引き寄せる。
葵と目が合う。
もう、躊躇なんてなかった。
例え引き裂かれても、潰されても、何度だってこの言葉を言おう――
「私と、友達になってよ!」
あぁ、やっと言えた。これが、今私が葵に一番伝えたいこと。
「祇園ちゃん……私も、私も、大好き……! ずっと一緒にいて!!」
葵の瞳には涙が溜まっている。けれど、それは悲しみの涙なんかではない。
私たちは見つめ合い、頷きあい、走り出す。
「葵さん! 戻って来るんだ!!」
鎌瀬が大声で言う。
でも、そうはさせない。
もう二度と、この手を離さない!
葵が私の手をさらに強く握った。それは、私の心を強くさせた。
このまま二人で逃げよう。そう思った時――
『金の剣』
私たちの後方で鎌瀬がそう呟いた。
すると、もの凄い轟音と共に、巨大な文字通りの金の剣が出現する。
もう少しで天井に届くかというくらい巨大な剣だ。
「四条葵……俺よりもそいつを選ぶのか?」
さきほどの態度からは一変、鎌瀬はいつも以上に冷徹にそう問うた。
「はい」
迷いのない返事。
葵が私を選んでくれたこと、素直に嬉しい。
「そうか……」
そう言った鎌瀬は下を向いたかと思うと、不気味に笑いだした。
「くくくくくくくく……俺の言う事を聞かなかった罰を与えてやるよ……」
そして手を振るう。
その手に呼応して巨大な金の剣がゆっくりと私たちに向かって振り下ろされる。
チート能力。以前敗北を喫した巨大な力。
けれど何故だろう。今は一向に恐ろしくない。
「葵、行くよ……!」
「はい! 祇園ちゃん!!」
私たちの手に出現する旧式の携帯電話。
これまでにないほど強く振動している。
さぁ、見せてあげるよ。私たちの友情を!!
『友情フォーエバー!!』
「ここまで来れば……大丈夫かなっ!」
葵の手を引き、誰もいない小さな公園に入る。
二人とも息を切らしてしまい、へばってベンチに座り込む。
汗を拭い、空を見上げる。あぁ、夕日がきれいだ。
ウェディングドレスの葵と、普段着の私が手を繋いでベンチに座っている光景は、はたから見ると少しシュールかもしれない。
「祇園ちゃん、この公園……」
そうか、ここがあの公園だったね。葵と私が初めて友達になった場所。
「……」
しばらく、二人とも無言で空を見つめた。
「……ねぇ、葵、私どうしても葵に伝えなくちゃいけないことがあるんだよ」
「……はい」
「私、お話しするの苦手だからさ……でも、一生懸命伝えるから、聞いていてくれる?」
少し気恥ずかしいけれど、葵の瞳を真っすぐに見つめる。
「はい……!」
葵は優しい笑顔でゆっくりと頷いた。
「鎌瀬と結婚することは、もしかしたら葵にとって幸せなことだったかもしれない。だって、鎌瀬は社長で、お金持ちで、地位も名誉もあって……」
私はもしかしたら葵が手に入れるはずだった幸せを、破壊したかもしれない。
「それに比べて、私には何にもなくて……でも、葵はこんな私と一緒にいてくれて……それがとっても嬉しくて……」
ぼっちで、オタクで、口下手で……こんな自分が好きじゃなかった。
でも、葵はこんな私を選んでくれた。
そんな葵の気持ちに応えたい。
葵を、幸せにしたい!
「だから、なんて言うのかな……その……えっと……」
私は口ごもり、黙り込んでしまう。
あともう一息なのに……葵を幸せにするって、ずっと一緒にいようねって、その一言が出てこない。
私はいつもそうだ。臆病になって、大切な時に大切なことが言えない。
葵が大好きだっていう気持ちは誰にも負けないのに……!
「祇園ちゃん……」
その時だった。葵が私の頬に手を添えて優しく言った。
「大丈夫。いつだって、大好きですから……」
笑顔の葵。いつも、その笑顔には助けられっぱなしだよ。
あぁもう! 私は情けないなぁ……
女の子にこんなこと言わせるなんて……って、私も女の子か。
臆病な気持ちにムチを撃つ。
息を吸って、吐いて、心を落ち着かせて、そして、声を出す。
「葵を、世界一幸せにするから!」
心を葵のことだけでいっぱいにして、大きな声で言った。
そのまま葵の返事を待つ。
葵はさきほどからの優しい笑顔から、少し顔をしかめた。けれど、その顔にはどこか安心したような、そんな色がうかがえた。
すると、葵が肩を震わせて言った。
「祇園ちゃん……やっと……嬉しい、です……」
葵の頬を雫が伝う。それは夕日に照らされ美しく輝いた。
そして、私に抱きつき、その泣き顔を私の胸にうずめる。
「葵……」
わんわん泣きじゃくる葵を優しく抱きしめる。
これまで、葵はずっと我慢していたのだろう。
親に縛られ、友達も出来ない生活……
そして、やっとの思いで友達に再会するも、今度は強引に結婚させられそうになって……
これまでの我慢が爆発したのだろう。
「祇園ちゃんだって、悪いんですからね!」
「えぇ!?」
「私のこと、忘れていましたし……」
「ご、ごめんね……」
葵は拗ねたように唇を尖らせる。
あ、なんだか可愛いな。
「もう、私のこと忘れませか!?」
「うん」
「また、一緒に遊んでくれますか!?」
「うん!」
「私のこと一番好きですか!?」
「うん!!」
「本当に本当に本当ですか!?」
「うん……!」
辛い思いさせて、ごめん……
葵の気持ち、全部受け止めるから。これまでの我慢なんて忘れ去ってしまえるくらい、幸せにするから……!
「また一緒に『リンクバトル』しましょう! また一緒にゲームしましょう! また一緒にオタロード行きましょう! まと一緒にお泊まりしましょう! そして、一緒にやりたいこと、全部しましょう!!」
「うん……! うん……!」
葵は泣きじゃくりながら凄い早口で言う。
こんなにも私を想ってくれること、本当に嬉しい。
「祇園ちゃん……祇園ちゃん……すっと、傍にいてくれますか……?」
「うん……! もう、二度と離さないよ……!」
ありったけの想いをこめて、言葉を紡ぐ。
その言葉を聞くと、葵は私の胸から顔を離した。
そして――
「じゃあ……誓いをください……」
「ち、誓い!?」
「文化祭の劇で、約束してくれましたよね……?」
もちろん、覚えている。部隊の上で葵の頬にキスをした時、唇にはちゃんとした時にすると、そう約束した。
そして、今がその時。
躊躇いも、臆病な気持ちも、もう私にはなかった。
葵に幸せを、ずっと傍にいることを誓う。
「葵――」
大切な人の名前を呼び、その手を取る。
「祇園ちゃん――」
そして、逆の手を葵の背中へと回し、身体を私の方へと引き寄せる。
「大好き――」
これから、私たちの未来はどうなるのだろうか。
きっと、平らな道じゃないだろうな。
悲しいこと、悔しいこと、辛いこと、痛いこと、怖いこと、不安なこと……
そして、楽しいことも。
いろいろなことがあるだろうけれど、いつだって、どんなときにだって、私の隣には葵が、葵の隣には私がいる。
二人でなら大丈夫。どんな困難も乗り越えられる。
だって、葵が大好きだから。
そんなことを考えながら、葵の唇に優しくキスをした――
おわり
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございます。
初めてのオリジナル小説投稿で多くの不安がありましたが、ここまで続けてこられたのも、読者の皆様あってこそだと感じております。
本当にありがとうございます。
さて、祇園と葵の物語はここで一旦おしまいとなります(続きを書くかもしれませんが……)
今後の創作活動の参考としたいので、今作に関する感想、評価等頂ければ大変ありがたいです。もし、御暇がありましたら是非。
では、このへんで!ありがとうございました!
無事良生