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第七話 ③

 

大きな扉を開け、城へと入る。

 城の中は外に劣らず豪華絢爛だった。

 シャンデリア、毛皮のじゅうたん、大理石の彫刻……

 しかし、人がいない。

 辺りを見回しても、全く人影がないのだ。

「だ、だれかいますか~」

 自分の声が反響している。

 ため息をついて床に視線を向けた。

 ……!?

 床には大きな影がある。

 周囲に影になるようなものはない。

 すなわち……

「上!?」

 上を向くと、人影が降って来た。

 間一髪でそれをかわす。

 人影はすたりときれいに着地した。

 全身を黒いスーツで覆い、顔もサングラスで隠れて見えない。

 人影が口を開いた。

「……鎌瀬犬吉様の命により、寺町祇園を暗殺する」

 暗殺!?

 ちょっと待って! あいつ、そこまでするの!?

 人影は懐からナイフを取り出す。

 すると、私に猛烈なスピードで向かって来る。

 ――避けられない!!

『恋人トゥルーエンド!!』

 恐怖で閉じてしまった瞳を開けると、そこには巨大なブーケがあった。

 大型トラックほどの大きさで、本当に大きい。

 ブーケの中をよく見ると、植物のツタに人影か絡まっている。身動きがとれないようだ。

「リアル触手プレイ……」

 一応、助かったのかな……?

 何がなんだか分からずに、ぼけーと呟く私。

 すると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。

「やぁ、久しぶりだね。寺町さん」

 ブーケの影から姿を現したのはダーリンさんだった。

 何故か、白いタキシードを着ている。

「ハニーおいで」

 ダーリンさんに呼ばれてハニーさんも姿を現す。

 ハニーさんはウエディングドレスを身に纏っていた。

「今日は僕たちの結婚式でね」

「このホテルで結婚式をしているの」

 なんということか。

 この二人、ゴールインしたんだね。

 どうりで『リンクポイント』である『恋人』のパワーが前に戦った時よりも強くなっているわけだ。あの超巨大なブーケにも頷ける。

「おめでとうございます……それと、助けてくださったことも、ありがとうございます!」

 この二人が助けてくれなくちゃ、私は人影に殺されているところだった。

 感謝をこめて、頭を大きく下げておじぎをした。

 私を見て二人は微笑む。

「寺町さん」

 ハニーさんはダーリンさんと目配せをすると、私の方に一歩出てくる。

「はい、これ」

 ハニーさんはそう言って何かを私に向けて投げる。 

 緩やかな孤を描いて飛んでくる物体を、私は慌てて受け止めた。

「これは……」

 小さなウエディングブーケだ。

 一般的に、花嫁の投げるブーケを受け取った者は……

「次はあなたたちの番かもね!」

 ハニーさんがいたずらっぽく言う。




「四条さんの結婚式なら最上階だよ」

 ダーリンさんにそう言われ、私は最上階を目指す。

 しかし、なぜエレベーターもエスカレーターも動いていないのか。

 螺旋階段を登りながら腕時計に目をやる。

 式はもう始まっている。

「……急がなきゃ」

 もう少しで辿りつく。大切な葵の元へ。

 辿りついてどうするのかは分からない。

 ただ、今は葵が大好きだという気持ちのみに従って行動している。

 不思議と疲労感はない。

 最上階が見えてきた。

 大丈夫。もう少し。

「着いた……」

 階段を登り終えた私の目の前には巨大な扉がある。

 扉から盛大なオーケストラが聞こえる。

 おそらく、ここで式が行われている。

 この扉を開けば、葵がいる。

 もう、迷いはない。

 どうなるのか、どうすべきなのかは分からない。

 けれど、私は壮大な見切り発進をした。




「――永遠の愛を、誓いますか?」

 新郎に神父が問いかける。

「誓います」

 そして、新婦にも。

「誓いますか?」

 …………

 沈黙。

「その結婚、ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!」

 私は下品に大げさに扉を蹴飛ばして、式場に乱入する。

 式場にいる全ての人間が私の方を振り向いた。

 客席がざわめく。

 葵と目が合う。

 驚いている。

 けれど、次の瞬間には涙を潤ませて笑顔を見せる。

 その笑顔のためなら、私はなんだってできるよ。

「お静かに願います」

 鎌瀬が一声をあげた。

 静まりかえる観客。

 全て鎌瀬の部下や会社の人間なのだろう。流石の統率力だ。

「戦闘部隊、寺町祇園をつまみだせ」

 鎌瀬の命令と同時に、どこからともなく大量の人間が出現し、私に対して垂直に整列した。

 老若男女いろいろな人間がいる。

 だが、彼らは皆、二人ひと組でペアを作っている。

「寺町祇園よ。彼らは皆『リンクバトラー』なのだ。それも、俺ほどではないにしろチートの!」

 鎌瀬は大声で得意げに言う。

「式場まで来たことは褒めてやろう。だがな、お前はここで終わりだ!」

 『リンクバトラー』の数は目算で二十組を超える。

 それも、全員チート。

 でも、私は恐れない。

「葵、こいつらも、鎌瀬も倒して私と一緒に行こうよ」

「祇園ちゃん……!」

 かすれる声で葵が叫ぶ。そして、駆け出そうとする。

 だが、鎌瀬が葵の腕を掴んで引っ張る。

 そうして自身の従者に捕えさせた。

「~~~~!!」

 葵が声にならない悲鳴をあげる。

「葵!」

 今、助けに行くから。

 一歩を踏み出そうとしたその時――

「一人やと流石に難しいんとちゃうか?」

 相変わらずの関西弁が背後から聞こえた。

 私が振り向くよりも先に彼女たちは私を守るかのように前に来る。

「放出さん! 三宮さん!」

 台本かアドリブか分からないことに定評のある百合漫才のエキスパート、放出浪花さんと、三宮渚さんだ。

「フルキャスト総出演やのに、ウチらが来んわけないやろ!」

「……鈍感なパートナーを持つ者同士、助け合う」

 その言葉と同時に彼女たちの手にハリセンが出現する。

「ザコは任せぇ!」

 そう言ってハリセンを構える。




「浪花可愛いわ浪花!」

「それ台本にないセリフやん!?」

 放出さんに抱きつく三宮さん。

 安定の台本かネタか分からない温度差百合漫才を繰り広げる。

 しかし、その漫才の威力は以前よりも大幅に上昇していた。

「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 鎌瀬ほどではないにしろ、チート能力の戦闘部隊を蹴散らす。

「これがカンボジアでの修行の成果や!」

 ドヤ顔で放出さんは言い放つ。

 なるほど、通りで強いわけだ。

「浪花、嫌な予感がするわ……」

 得意げな放出さんに対し、冷静な三宮さんが注意を促す。

 三宮さんの勘は的中する。

「「「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 倒したはずの戦闘部隊がまた起き上がった。その様はまるでゾンビようであった。

「な、なんやこいつら……!」

 気味悪がる放出さん。

「浪花、この戦闘部隊は攻撃力を切り捨てて再生能力に特化した『リンクバトラー』よ。おそらく、鎌瀬の改造ね」

「なんで分かるん!?」

「このメガネで」

「あぁ、そうやったな」

 え!? どうしてそこで納得したの!?

 相手を分析できるメガネなの!? ていうか、メガネ設定まだ生きてたんだ……

 覚えてない人は第二話を読んでね!

「でも、ほんならどないしたらええねん!?」

「私に考えがあるわ」

 そう言って放出さんに耳打ちをする。

「よっしゃ、わかった! 行くで!!」

 頷くと同時に二人はハリセンをクロスさせた。




『漫才ファイアー!!』

 二人のハリセンから巨大なファイアボールが放たれる。

 それは鎌瀬たちがいる舞台に向かって一直線に、ゆっくりと飛んでゆく。

 ファイアボールは戦闘部隊を蹴散らす。

「今よ、寺町さん!」

 三宮さんが大きな声で言う。

 私もその意図を察した。

 黙って頷く。

 そして、走り出す。

 ファイアボールの通過した道には、戦闘部隊がいない。

 つまり、ファイアボールの跡をつければ舞台に到達する。

 前を見ると、ファイアボールはもう鎌瀬の目の前まで到達していた。

『金の盾』

 鎌瀬がそう呟くと、色とりどりの宝石が散りばめられた巨大な金の盾が出現し、ファイアボールと衝突した。

 ファイアボールは虚しい音を立てて消滅してしまう。

 けれど、その隙に私はもう舞台に到達していた。



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