星の隠れ家
駅までは、およそ1kmある。普通に歩いていても疲れるだけなので、星の数でも数えよう、そう思った。
「1つ、2つ、3つ・・・」
落ち着く時間だった。前を見て歩けば、トラックの排気ガスで霞む世界も、上を向いて歩けば花畑みたいだ。
ふと、こんなことを思い出す。
「そういえば、天文学者になりたかったなぁ・・・」
昔のことだ。小さな湖の周りを囲むような形で、僕と友達は立っていた。
「落ちるかな、星」
「落ちるでしょ、星」
年端も行かない子供は、星は朝になると湖に隠れると思っていた。
一人はその落ちる瞬間をフィルムに残そうと思い、カメラを持参していた。別の一人は、今にも落ちそうな目蓋を懸命に上に押し上げていた。僕はというと、祈り続けていた。
日が昇る頃になると、さすがの子供たちも諦め、ここが桃源郷ではないことを悟る。
「落ちなかったね」
「きっと、ここじゃなかったんだよ」
「じゃあ何処だろう」
「何処かな」
おとぎ話だなんて、信じたくはなかった。皆が皆、そう願った。理科の授業中に、星が宇宙にあるものであって、決して地球の、湖の、僕らの手の届く世界に落ちることはないことを知るその日まで、僕らは祈り続けた。
天文学者になんて、ならなくて正解だった。
「17、18、19・・・」
今夜は星が、よく見える。
駅に着き、もう料金版など見なくても分かる駅までの切符を買うと、もう上は天井だ。数えることを諦め、そそくさと電車に乗り込む。
「じゃあさ、今度はもっと遠くまで行ってみないか?」
「俺はいいよ・・・」
「何でだよ、先生の言うことを黙って信じるのかよ!」
「・・・ないんだよ!」
「何が!」
「星が落ちる場所なんて、どこにもないんだよ!」
電車の窓から見える、近くのビルの灯りは、流れ星のように一瞬で姿を消す。それらを流れ星に例えてしまう僕は、どうかしてる。
車内アナウンスが流れ、電車が速度を緩める。それに釣られて、姿勢を崩す。
僕はこの駅で下車する予定。
「もっと遠くまで行けば・・・」
そんな真似、することはない。
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