もんもんぐんぐん(鶉音ゆーきVer)
「くそっ、株価が大下落してやがる」
スーツの上から腹巻を巻いて、赤色の短髪にネクタイを巻いたオジサンが、スマホの取引ツールを見ながらもんもんとしていた。
オジサンはスマホを閉じると、タバコを加えて火を付けながら、何か気晴らしになるものがないかと、炎天下の荒野の中を歩きだした。
「ん、なんだあの子は……」
そんなオジサンの目に留まったのは、黄色のお下げ髪をした10歳くらいと思われる女の子が、酒ビンを持ってしゃがみ込む様子だった。
てっきり熱中症で倒れそうなのではと思い、介抱しようかと思って近づいたが、その少女は笑顔で地面のある1点を見つめていた。
少女の見つめる地面からは1本の小さな苗が出ていた。この乾燥した土から1本だけ出ている苗が、とても異質に見えた。
「おおきくな~れ~」
少女はそう言いながら、手に持った酒ビンの中身を苗にかけ始めた。
「可愛いことしているなぁ」
オジサンは、それで苗が育つとは思っていなかったが、その様子を微笑ましく眺めていた。
するとその苗はぐんぐんと大きくなり、紫色の太い幹をした大きな木へと変貌を遂げた。
「なんなんだあれは!」
禍々しい雰囲気を出すその木の頂点には、おかっぱ頭の少年の顔をした実が次々と現れ、それらの実は一様に「もんもん」と泣き出した。
そんな、もんもんがぐんぐんと現れる状況に、オジサンは目が離せなかった。
すると、少女がオジサンの方を向き、オジサンは少女と目が合ってしまった。
「あらら……まさか見られていたなんて。まあいいわ、あのオジサンは生贄にしましょう」
「生贄だと」
「ええ、大魔王ルクスビアス様の復活のためのね。さあ、行きなさい!」
少女の指示を合図に、木に実っているたくさんのおかっぱ頭の顔が敵意を持ったものに変わり、木を飛び出して「もんもん!」と叫びながらオジサンに体当たりをしてきた。
「当たるか!」
オジサンは軽やかな身のこなしでそれを避けた。避けられたおかっぱ頭は地面に激突し、トマトが潰れたような音がしたあとで、「もんもん……」と断末魔をあげながらその場から消滅した。
だが、木からは絶えず新しいおかっぱ頭が生まれて、オジサンに向かって体当たりを続けてきた。
「くそ、このままじゃ体力が持たない」
流石に焦って来たオジサンの目に、少女が持っている酒ビンが映った。それはスピリタスのビンだった。
それを見てピンときたオジサンは、くわえていたタバコを木に向かって投げた。木に当たったタバコは瞬く間に大炎上をした。
スピリタスは非常に引火性の高い酒である。さっき少女がそれをかけた木の周りには、いまだにたくさんのスピリタスが残っており、その中にタバコを投げればどうなるかは火を見るよりも明らかだった。というか文字通り火を見たわけだが。
「も~んも~ん」
木に実ったたくさんのおかっぱ頭は、そんな断末魔の悲鳴を上げながらすべて焼失していった。
「なっ、大魔王様の復活に捧げるもんもん坊やが!」
どうやらあのおかっぱ頭は、もんもん坊やというらしい。
「キサマ、ユルサンゾ」
少女は感情のない声でそう言うと、オジサンの方にゆっくりと向き直った。その少女の目からは一切の光が消失していた。
そして、少女はおもむろに酒ビンのスピリタスを一気飲みし始めた。 するとその少女の身体はぐんぐんと成長し、身長190cmくらいの毛むくじゃらなオッサンに変貌した。
「我が主である、大魔王ルクスビアス様の復活を妨げるものは、誰であれ許さない。覚悟してもらおうか!」
「大魔王の復活なんて俺は知らん、勝手にやってくれ」
オジサンとしては体当たりしてくる、もんもん坊やから身を守るために燃やしただけだ。大魔王の復活を妨げるというような、いらない正義感を持った覚えはない。
「そうはいかん。もんもん坊やを生み出すには血が必要だ。特にお前みたいな汚いオジサンの血がな」
そう言って少女が変身したオッサンは錆びた金棒を持って、オジサンに向かって殴りかかった。 慌ててオジサンはスーツの上から巻いていた腹巻を外すと、それで金棒を受け止めた。
オジサンの腹巻は超合金性なので、金棒の攻撃など易々と受け止められた。
「汚いオジサンの血が必要なら、お前の血を捧げればいいじゃないか」
「そうはいかん。ワシは汚いオジサンではなく、汚いオッサンなのだからな」
オッサンとオジサンの何が違うのか、もんもんとしながらもオジサンはオッサンの攻撃を受け流し続けた。
やがてオッサンが疲れた頃合いを見計らって、オッサンに体当たりをした。たまらず吹っ飛んだオッサンは、地面に激突した衝撃で金棒を落としてしまった。
オジサンはすぐに金棒を拾って、オッサンに金棒の先を向けた。
「くそ、酒が抜けてなかったらお前みたいなオジサンに負けなかったのに」
「どうやらスピリタスを飲んだ時点で、お前の負けは決まっていたようだな」
「ああ、そうだな。変な温情はいらん、とどめを刺してくれ」
オジサンは金棒を使って、オッサンの頭部を破壊した。その快感にオジサンの中にぐんぐんと溜まっていたもんもんは、すべて霧散していくように感じた。
「ありがとう、オッサン」
スッキリしたオジサンは、オッサンの遺体をいまだに燃えている、もんもん坊やが実っていた木の側に運んだ。木と一緒に燃やして供養するためだ。
やがて火が収まったのを確認したオジサンは、頭に巻いていたネクタイを燃え殻の側に備えると、オッサンの残したスピリタスを飲み干し、鼻歌を歌いながらまた荒野を歩いて行った。
その後、さらに株価が大暴落して、オジサンは全財産を失った。




