1 閉店のベル 終わりのレバー
はじめまして、ねむるです。
夢で見た内容を小説にしました。
地下100階
ここは、この世界最大のデパート《グラン・バザール101》
天井には本物の空のような魔法のスクリーンが広がり、昼は青空、夜は満天の星空になる。
歩いているのは人間だけではない。
買い物袋を提げたオオカミの獣人。
家族連れのゴブリン。
三メートルを超えるトロールが家具売り場でソファを試し座りし、小さな妖精たちはアクセサリーショップの周りを飛び回る。
ここでは、それが普通だった。
「おはようございます!」
新人スタッフの伊織は、元気よく頭を下げた。
この巨大デパートで働く唯一の人間だ。
「伊織くん、今日も笑顔が固いぞ。」
店長の熊獣人が笑った。
「す、すみません!」
周囲は異世界の住人ばかり。
最初は驚いたが、一週間もすれば自然と慣れてしまった。
トロールもレジに並ぶし、スライムだってアイスを食べる。
この場所は、人間の常識なんて通用しない。
その日の午後。
伊織は荷物を運ぶため、初めてバックヤードの奥へ入った。
そこには鎖で覆われた
『関係者以外立入禁止』
と赤い文字で書かれている鉄の扉があった。
「この先って何があるんですか?」
先輩のエルフは真顔になる。
「絶対に近づかないで。」
「え?」
「万が一入ってしまっても中のレバーだけは触れないで。」
理由は教えてくれなかった。
閉店後。
伊織が忘れ物を取りに戻ると、バックヤードから物音が聞こえた。
「誰かいますか?」
奥へ進む。
そこには、小さなゴブリンの子どもがいた。
誤って入ってしまったのだろうか。
「そこは関係者以外立入禁止なんです。」
伊織はゴブリンに優しく話しかけた。
「ご、ごめんなさい……。」
怯えた声でゴブリンが声を出す。
「こうしなきゃならないんです。」
ゴブリンの手の先には、大きな黒いレバー。
ガコン。
世界が静止した。
館内放送が鳴る。
『警告。ダンジョンモードを起動します。』
「……え?」
天井の照明が赤く染まる。
床が揺れる。
ゴゴゴゴゴ……
壁が動き始めた。
売り場だった場所に石の壁がせり上がる。
ブランドショップは古代遺跡へ。
フードコートは毒沼へ。
エスカレーターは崩れ、果てしない階段が現れる。
一部のお客様の目の色が変わった。
館内中から悲鳴が響く。
「逃げろ!」
「モンスターだ!」
「出口が消えた!」
店長が青ざめた顔で走ってくる。
「最悪だ……。」
「何が起きたんです!?」
店長は震えながら答えた。
「このモールは昔、伝説のダンジョンを封印して建てられた。」
「え……?」
「さっき引かれたレバーは、その封印を解く装置なんだ。」
「そんな大事なものがレバー一本!?」
「普段は五重の魔法錠で守られている……。」
「誰かが錠を解除していたんだ。」
店長は真剣な顔で語った。
その時、モール全体が大きく震えた。
地下101階へ続く巨大な階段が姿を現す。
誰も見たことのない階。
そこから、重い足音が響く。
ドン……ドン……ドン……
闇の中で、二つの赤い瞳がゆっくりと開いた。
館内放送が最後に告げる。
『最下層の管理者が目覚めました。』
伊織は息をのむ。
ただのショッピングモールだった場所は、伝説の巨大ダンジョンへと変わってしまった。
そして彼はまだ知らない、このダンジョンが目を覚まさなければならない理由を。




