婚約者の本音がダダ漏れで、今日も愛おしい。
手と手が触れた時だけ、その人の本心が伝わってくる。
だから、僕の婚約者はそれを使って、僕を揶揄ってくるのだ。
「ねえ、ルーベルト」
僕の名前を呼ぶと、自分から手を握ってきた。
『今日もかっこいい。ルーベルト大好き。初夜の時は、絶対メガネを外させるんだから』
ブランカは淑女の微笑みを携えながら、赤裸々な本心を僕に聞かせてくる。
「君、本当に顔に出なくてすごいね…」
「あら、愛の告白は聞こえたかしら?」
「僕が食べられそうって話?」
『だって、余裕なさそうに乱れているところを、早く見てみたいんだもの』
にこっと笑っているお淑やかな令嬢が、そんなことを思っていると誰が気づくというのだろうか。
はじめて手を繋いだ時からこんな感じなので、もはや僕も照れることがなくなった。
いい意味でブランカは、表と裏がはっきりしている。
それは令嬢としては、かなり頼り甲斐のある人だと思っているけれど。
『早く結婚して、1週間くらいルーベルトのこと閉じ込めておきたい』
これだから、ブランカは…。
僕の脳内でブランカが舌舐めずりをして、獲物(僕)を狙っているようにしか見えないのは、気のせいではないと思う。
「ファーストダンスを踊っていただけませんか?」
「喜んで」
ブランカを誘って夜会で踊ろうとした時、ふいにブランカの声が聞こえてきた。
『あの女、またルーベルトのこと見てる…!手を出してきたら、絶対に消してやる』
不穏な声が聞こえてきて、ブランカを見た。
そんな相手、いるのか?
僕の思っていることがわかったのだろう。
これ以上ないくらい綺麗に微笑んで、僕のリードで美しく舞った。
『最近、男を誑かしているって噂の子爵令嬢よ!顔がいいから、ルーベルトのことも狙っているの!ほっんと身の程知らず!頭の弱い殿方たちに囲まれているだけで満足しなさいよ、この股ゆる女…!』
最後の罵倒は聞かなかったことにしよう…。
でも例の子爵令嬢かぁ、厄介だな。
最近社交デビューしたばかりの令嬢のはずなのに、彼女のことはよく耳にする。
ブランカの言う通り、いい噂はあまり聞かないので、お知り合いにはなりたくないところだ。
秘密を隠せない女など興味はそそられないけれど、ブランカに靡く可能性があると思われているのは面白くない。
「僕には、ブランカだけなのに」
そう言うと、僕にしかわからないくらい少しムッとしてみせた。
ブランカはわかっていないのだ。
こんなおかしな能力を持っているというのに、これを使って想いを伝えてくる君だけに、僕が救われているということを。
『あの女にちょっかいかけられたら、ルーベルトを殺して、私も死ぬから』
僕の婚約者は、すこーし過激なのである。
ブランカが化粧直しに行っている間、ブランカの言うように例の子爵令嬢が近くまでやってきた。
さて、僕の方が身分が上だというのに、どうやって話しかけるつもりなのかな。
お手並み拝見とばかりに、視界の端に入れていると、躓いたように体を傾けてきた。
まるで、僕の腕の中に入ってきそうで、仕方なくその腕を掴んで距離を取った。
相手の令嬢は思ったようにならなくて驚いたようだったが、すぐに可憐な少女のような照れた笑みを浮かべた。
う〜ん、これならブランカの方が何枚も上手だな。
「も、申し訳ありません。緊張していて、足元をよく見ていなかったようです…!」
「そうですか、お気をつけて」
そう言って腕を離すと、え?それだけ?みたいな顔をされる。
それだけだろう、なんで何かあると思っているんだ。
これで簡単に誑かされるなんて、体の関係に都合がいいと思われているだけだろうに、そのことに愉悦を感じるタイプなのか?気が知れんな。
「ああ、メガネがずれてしまいましたね。すみません」
そう言って、勝手に手を伸ばしてきて僕のメガネを取ると、にっこり笑った。
男の物に気安く触るなんて、どんな教育を受けてきているんだか。
「返していただけますか」
「ルーベルト様は、メガネを外してもお美しいんですね」
会話が通じないタイプかぁ。これ以上探っても何もなさそうなくらい、頭空っぽらしい。
触りたくないが、仕方なく彼女からメガネを取ると、次々と声が流れ込んできた。
『ああっ、跪かせたい!貢がせたい!ボロボロになるまで、掻き乱してやりた〜い!こんなに可愛い私が相手してやってもいいと思っているのに、つまんない男〜!』
つまらない男で、結構です。
メガネをかけ直した時、ちょうどブランカが戻ってくるのが見えて、「では失礼」とさっさとその場をあとにした。
今度関わらなくてよさそうな相手だとわかったので、これ以上はいいだろう。
「ブランカ、おかえり」
「……」
「どうかした?」
僕が顔を覗き込んでも、笑みを貼り付けたまま何も言わない。
「手、握ってもいい?」
僕がそう言うと、コクリと頷いた。
『あの女がよくなっちゃったの…?』
「え」
思わず声が漏れたけど、ブランカの目が揺れているから、たまらなくなって抱き締めてしまった。
壁の隅で恋人が抱き合っていても、誰も気にしないだろう。
気にされても、特に問題ないし。
「早く帰ってきて欲しかったくらいだよ。僕を1人にしないで、ブランカ」
「…男として、それはどうなの?」
いじけているとわかって、嬉しくなってしまう。
僕は再びブランカの手を握り直すと、ブランカはやっぱり笑みは崩さなかった。
『あの女、あなたのメガネ、外してた…』
そこなの?
『私があなたのメガネを外したかった。その時は、初夜だと決めてたのに。そしたら一晩中愛せるのに…!』
「それは結婚がますます楽しみだね」
『あんな女に揺らがないで!』
「僕の声も、君に聞こえたらいいのにね」
僕がそう笑うと、ブランカは僕の手を引いて会場を出て行った。
「あれ、もういいの?」
「帰りましょう、あなたの胸の内を聞く方が大事だわ」
「それは、馬車の中で熱烈に口説いていいって話?」
『口説くのは、私がするの!他の女に目がいかないように、私だけを見てもらうんだからっ!』
「ずっと前から、ブランカしか目に入っていなんだけどなぁ」
僕がそう言っても納得しないようなので、ブランカの気が済むまで付き合うことにしよう。
『初夜でメロメロにするのは、私なんだからっ!』
こう、どうして、初夜にこだわるのかは、ついでに訊いてもいいのだろうかと、いつものように悩んでしまうのだった。
了
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(追記)誤字報告ありがとうございました!修正いたしました!(2026.5.21)




