落ち着いた領地
まだ完全に回復したとは言えないが、困らないくらいには村の環境は整った。
支援金はゴルドンが管理し、村人にも見舞金が支払われた。今年の税金は免除が約束され、みんなは安堵の表情を浮かべる。
今後は畑の整地を続けながら収穫しやすい作物を作り、他領の農地へアルバイトに向かう手配もレアナがつけていた。
復興には資金がかかる為、今期の収穫資金は今後の運営に回して良いと、国からの伝令も出ている。
恐らくは、借り入れしたものを返す期間と見なされているのだろう。
ただ今回はレアナが殆ど持ち出しで援助したことで、伯爵が(レアナが来る前に)していた借金は返済することができていた。
最初の借り入れは善意の貴族が受けてくれ、利息が低く助かったものの復興資金全部を補うことは無理だった。その後も近隣の貴族、特に高位貴族にも借りようと奔走したが、いろいろな思惑(高い利息をつけられたり、返済遅延時の担保のことなど)で折り合いがつかず、八方塞がりになっていた。
普段から領地に回す資金はギリギリで、災害用の資金を貯蓄していなかった為、不足分を泣く泣く民間の金貸しに頼った。結果は途端に借金まみれに。
その為に、いつも自転車操業のようだった伯爵領の会計はすぐに破綻していった。
今回はレアナの持つ自己資金で、いち早く高利貸しの借金精算を行った為、大事にならずに済んでいた。
今の領地財政は少しだけ余裕ができ、ゴルドンも心穏やかに過ごせるだろう。
レアナが対処したことをギャマイラス伯爵は知らない。
あろうことか、領地経営をレアナに丸投げにしていたからだ。
「あの嫁は優秀だから、任せておけば安心だ。最悪でも後ろには、アン王女が付いているのだから」
「ええ。私達が手を出さない方が、うまくいきそうですわ。良かったですね」
伯爵夫妻は悪人ではなく人が良い方ではあるが、何しろ他人任せのことが多い。だからいつも踏み出しが遅く、行動がギリギリとなる。
ただ他人にはそれを見せず、夫婦だけで決めて行動に移す為、周囲はそれに気付けない。空回りしているくらいにしか思われていないのだ。
さらに彼らは大人しいと言えば聞こえは良いが、押しが弱くて貴族らしくない。
第一子相続が主流のこの国で、爵位を継いだアンソニーが今代のギャマイラス伯爵になり、幼馴染みのダマラが妻になった。
当然に貴族との付き合いも下手な為に侮られ、時に詐欺紛いの投資なども持ちかけられ騙されていた。
だからこそ頼れる者が少なく、最終手段でレアナに頼った訳である。アン王女の側近の侍女である彼女に。
ダグラスとレアナの結婚は多くの貴族に裏切られてきた、夫妻なりの祈りのようなものであった。養女よりも貴族の婚姻関係の方が、結び付きが強くなるからと考えて。
ただその約束の裏には、しっかりとした対価があった。ギャマイラス伯爵にとっての価値は乏しいが、レアナが望むものが。
次期伯爵のダグラスはそれに気付いており、父であるアンソニーより、叔父チャーチルが伯爵になる方が良いと以前から思っていた。当然のように、自分が伯爵家を継ぐつもりはなかった。
◇◇◇
レアナが嫁ぐ以前も。
周囲から「ギャマイラス伯爵領は大変でしたな」とか「被害はどの程度なのですか?」と、心配を装った貴族達に声をかけられても、ゴルドン任せで理解していなかった伯爵夫妻。
「ええ、まあ。でも何とか頑張っています。ははっ」
「そうですか? ならば安心しました」
何処が大変なのか、具体的な話は当然にできなかった。彼らはとにかく「お金を送れば何とかなる」と思っていただけなのだから。
暫く災害のなかった領地だっただけに、ただただ慌てることしかできなかったアンソニーは当主には向かないようだ。




