支援金の到着
ギャマイラス伯爵領の被災は、日を追う毎に復興を見せた。
堤防の補強と遊水池の完了後は、農地に流れ込んだ倒れた木々や枝、溢れた土砂などを取り除く作業が行われた。
村にある食料はレアナの持ち込んだ物だけだったが、作業を行う間に国への被災申請が通り、支援金がゴルドンの元へと届けられた。
その資金を用いて、新たな食料と被害にあった家屋の建築が進む。被災にあった家は、今後も危険地域と見なし、別の場所へ建築された。
幸いかどうかは分からないが、住民票を再度確認し他領へ移った家は空き家になった。
その土地の管理も加わる為、それらの家を取り壊し更地にした。
その上で村人へ割り当てられる農地区分を増やし、取り壊した大黒柱や梁を再利用しながら、新たな家を立てていくことになった。
大工を数人雇い、不足な素材は彼らに任せれば、手際よく家が完成していく。彼らを雇う資金があればこそ可能なことだった。
資金がなければせいぜい空き家に移り住むか、元の家を危険地域だと分かったまま、村人の手で補修し住むしかなかった。
支援金は堤防の修復と補強、食料、見舞金、家屋の補修などを含めたものだった。
遊水池の着工、よもや完成など考えていない額だった。
けれど現在はレアナの手配により、川の補強を終えて遊水池まで完成した後だ。土嚢を買う、または作る土木作業者の費用も不要なのだ。
村人の中にはアルバイトで他領での作業を行い、手順を知識として持つ者がいたので不足もなかった。
そらに満足な食料さえ儘ならないと思われていたが、レアナの持ち込みとハルの狩りにより不足なく賄われていた。その分を大工や家の建築に回すことができ、その間に村人は畑の整地に回ったのだ。
当然ながら村人の意欲は高まり、ハルが整えたバンガローは整えられ、立派な建物となった。
寝ずの番をするハルは、昼の間集会所で眠ることになり、その間にバンガローでゴルドンとレアナが執務を行うことになった。被災処理の膨大な申請書である。
「大丈夫なのに。勝手に決めるなよ!」
「もう、看過できないわよ。目の下の隈を鏡で見てから言いなさい!」
どちらも引かない言い争いだ。
けれど心配と労りがそこにあった。
ゴルドンもそこに参戦し、「私が命をかけてお守りしますので、ご安心下さいませ!」と言うものだから、限界寸前だったハルは根負けした。
「分かったよ、任せたからなゴルドンさん。寝てくる」
もう振り向くことなく、毛布を持って集会所に向かって歩いて行く。
残された2人は顔を見合わせ、安堵の微笑みを浮かべる。伯爵夫人と代官以上の信頼がそこにはあった。
◇◇◇
ゴルドンの方にも変化があった。
彼はまだまだ村人達と労働をすることを望んだが、「もう十分して貰いましたよ、ゴルドン様。貴方には俺らに出来ない、書類仕事の方に回って下さい」と告げられたのだ。
村人達はゴルドンが口だけの貴族じゃないと分かり、体を労って欲しいと思った。それにもう猫の手も借りたい状態は終わっている。
元の役割に戻って良い頃だと思っていた。
「そ、そうか。やはり老体では足手まといかの。すまんが後は任せたぞ、ロッチ」
「はい、お任せ下さい(ゴルドン様も無理しないで下さい)。本当に感謝しております」
深く頭を下げて作業に戻っていく彼へゴルドンは「頼むぞ」と、まるで息子のように呟いていた。
彼の妻子は国全体に酷い流行り病が蔓延した時、彼を残してなくなった。脱け殻となった彼に寄り添い、励ましたのがギャマイラス伯爵だった。だから彼は逃げないで踏ん張ったのだ。
それに…………。
ずっとここを守ってきた彼は、この村を愛し生き甲斐にしてきた。だからここが滅びるなら、諸共にと逃げなかった。
流行り病では、ギャマイラス伯爵夫妻も大きな痛手を受けていた。3人の息子のうち、生き残ったのは末子のダグラスだけだった。
だからこそ、甘やかしてしまったのだ。




