堤防が修復された
朝からご婦人達の元気な声が響く。
レアナが提供した食料で朝食を作り、みんなに配っていたのだ。
「おいで、みんな。まずは食べてからだよ。たらふく食べて頑張ろう!」
「おおっ、すごいな。今日はパンもあるのか? ありがたい」
「そうよ。発酵させてないから、膨らんでないけどね。少し硬いけど美味しいから食べな」
「温かいご飯、嬉しいね」
「俺、頑張る。すぐに堤防を直して見せる」
「まあ、威勢が良いね。無理せず頑張りな!」
残った村人は、大人子供合わせて100人。
ゴルドンの話だと、他の村人達からは「この地は復興しない」と言われ、既に周囲の貴族家の領地へ籍を移したらしい。
彼らが住んでいた家には、何も残っていないそうだ。
堤防の寝ずの番には子供もいたから、本当に厳しい状況だったのだろう。
「働き盛りの若い男衆が少なくて気になったけど、村を捨てたのね」
幸い怪我人だけで、亡くなった者はいないと聞いたから、ここにいるのが全村人なのだろう。
ゴルドンは援助が届かない状況で、彼らを止めることも出来なかった。長くここを治めてきた彼だから、きっと酷く裏切られた気がして悔しかったことだろう。
だけど彼は逃げなかった。
それが全てなのだ。
◇◇◇
食事を終えた後、堤防の決壊へ麻袋に砂を詰めた土嚢を当てて補強をしていく。先に土で川の縁を整え、麻袋を積み上げていく。そして周囲をさらに土で覆う。
カーブで水圧に弱い部分を拠点にして補強していく。
雨が降っていなくて助かった。
水嵩が増え越水したり、ぬかるんで足場が悪ければ、今日のように早く作業はできなかった。
「やったぞ。これで川は当分大丈夫だ!」
「すごいぞ。こんなに早く修繕できるなんて」
「奇跡だな、本当に。ありがたい、本当に」
「父ちゃん、やったね!」
「おおっ、お前も頑張ったな!」
「うん。うえ~ん、良かったぁ」
「良くやったよ、あんた達。今日はご馳走にしようね」
「ありがたい。けど、平気なのか、食料は?」
「ああ。ハルが鹿を狩って来たんだ。立派な牡鹿だから、焼いて汁にして、余った分は干して保存もしとくさ」
「ハルさん、助かります。ありがとう、みんなもありがとう。うお~ぉ」
「気にしなくて良い。狩りは得意なんだ」
「良い奴だな、お前。ここに住んで欲しいくらいだぜ」
「済まんな。俺も仕事があるから」
「そうか……。ずびっ、頼りになりそうでついな。すまん」
「ぐすっ、男が泣くんじゃないよ。もう川は直ったんんだ。人なんかすぐ戻るよ! 元気出しな」
「ははっ。ルルファには敵わんな」
「頑張るぞ、みんな!」
「「「「おおっ!!!」」」」
緊急な危機は去り、安堵が周囲を包んだ。
壊れた家の修繕に、大木や枝や土砂が流れ込んだ畑の整備、減った村人の畑分けなど、やることは山積みだった。
けれど、みんなの顔は明るかった。
次は川の中腹で一時的に水を貯め、河川へ流れ込む水量を減らす、遊水池を作る作業だ。
これは先に穴を掘り、池を作る作業が必要だ。川が補強されたことで、同じ場所から越水はないだろう。
急ぐことはないけれど、遊水池があれば格段に安全性は上がる。そして今、みんなの気持ちもそちらに向いていた。
スコップも100本ある。
使いきれないくらいだ。
ゴルドンも遊水池を掘る作業に参加し、レアナは芋の皮むきを手伝う。今は食事がみんなの励みになっているから、力になりたい。
「奥様は休んでいて下さい」
「大丈夫よ。私はずっと自分で食事を作ってきたから、意外と上手なのよ」
「そんなこと……。いや、貴族だっていろんなことがあるものね。良いわ、じゃあどんどん頼みます。よろしくお願いします」
「ええ。任せておいて」
40代くらいのきびきびして痩せた美人は、ルルファと言うらしい。朝もみんなに発破をかけていた、気持ちの良い女性だ。彼女が笑うのにつられ、レアナもいつの間にか微笑んでいた。
ハルはと言えば、山で木を切って集会所に運んでいる。ロープで括り、何本も引っ張って来ていた。
「どうするの、それ」
「簡単な家を作るんだ。荷馬車じゃ休めないだろ?」
「ええ。でも大丈夫なの。徹夜で川を見張っていたのでしょ?」
「ああ、平気さ。相手が人間じゃないから、少し気楽だったくらいだ」
「まあ、それは……。苦労をかけるわね、いつも。でも疲れたら休んでね」
「ああ、分かってるって。それより、ほっかむりして皮むきか? いつもの書類仕事より楽しそうじゃん」
「ええ、楽しいわ。お喋りしながらの作業は良いわね」
「まあ、怪我しないようにやんなよ」
そう言って、作業に戻るハル。
土もずいぶん深く掘って杭を打ちつけ土台を作り、長く使えるものになりそうな気がする。
(村の人が使えるように、ちゃんとしたものを建てているのかしら? 真面目な子だから)
微笑んでハルを見ていると、ルルファが「彼氏かい?」と聞いてきた。レアナは慌てて否定する。
「まさか。あの子とは10(歳)も違いますわ」
「別に、20と30なら変わらないわよ。急に結婚したのも政略だろうし。ダグラス様は当てにならないから、どうせ伯爵に頼まれたんだろ?」
「それは…………。まあ、いろいろですわ。ふふっ」
鋭いなと思う。
けれどみんながそう思っているなら、ダグラス様は本当に困った人なのかもしれない。
(私も条件を付けたし。もしかしたら、私の方が酷いかもしれないわね。それに彼女には、ハルが恋人に見えるのかしら? あんなに若い子供が)
レアナは怒ることはなく、ただただ意外な言葉がおかしかった。




