睡眠を取りましょう
レアナは、食事を終えた人から順番に、2枚ずつ毛布を配っていく。
「新品じゃないけど、質は良い物だから使って頂戴ね」
そう言いながら、惜しみなくそれらを渡すのだ。
「ありがたい。こんなに暖かい毛布を」
「赤い毛布、可愛い。お姫様のみたい」
「でも良いのですか? こんなに高そうなものを」
「当然よ、受け取って頂戴。家が水没して、服も駄目になった人も多いでしょ。夜くらいはゆっくりと、暖まって休んで欲しいもの」
毛布は大きいので、くるまっていれば床で眠っても体も痛くならない筈だ。
「「「「「「」ありがとうございます、奥様 」」」」」
みんな感謝しながら、家路と集会所へ向かっていく。
氾濫した河川まで歩き、周囲を観察するレアナと従者ハル。簡易的に補強された場所は脆そうに見え、少しの雨にも耐えられない気がする。
決壊し崩れた場所は土砂や折れた木々で埋まり、畑の痕跡は跡形もなく消えていた。
だが補強するには素材も道具も、さらに人員も不足しているようだ。
レアナは見張りの男性達に、労いの声をかけた。
「お疲れさま。今晩の見張りは私達がするから、みんなは休んで頂戴」
「そんな、奥様にそれはさせられません。食事が出来て元気ですから、大丈夫よ」
「良いから、良いから。私と従者は元気だし、明日はみんなに工事を頑張って貰うから。早く眠りなさいな」
「……良いのですか? 奥様、ありがとうございます」
「本当は限界でした。すいません、感謝します。ぐっ、すぐっ」
「足手まといと思われたくなくて、辛いって言えなくて。うえ~ん」
「クスッ。まだまだ先は長いわよ。泣いてないで、早く休みなさいな」
「「「「は、はい。では、おやすみなさい」」」」
「はい、はい」
レアナは川を見張る若者達を帰して、後を追って来たゴルドンにも休むように指示した。
みんな、いつ氾濫するか不安で、気も休まらなかったことだろう。
(見張りにはまだ幼い、12、3歳の子もいたわ。みんなと頑張っていたのね)
「そして貴方もよ、ゴルドン。貴方がいたから、みんなが生きて来られた。お礼を言うわ」
「いいえ、そんな。私の力等、微力なものです。奥様が来て下さり、本当に助かりました。私とて代官ですから、まだまだ頑張れます!」
休もうとしないゴルドンに、レアナは言う。
「休める時は休みなさい。私は一度死の淵を見て来たわ。健康の大事さは人一倍知っているつもりよ。良いから、集会所で寝て来なさい。命令よ」
「奥様……。ありがとうございます。その代わり、明日はお任せ下さい。では向かいます」
「ええ、おやすみなさい」
ゴルドンはレアナの噂を知っていた。若い時に重い病気にかかり奇跡の回復を遂げたが、その際に障害が残り、婚姻をせずに王宮女官になったのだとか。
確か今は、30(歳)手前の筈。貴族令嬢としては、行き遅れと呼ばれる年齢だ。きっと伯爵は王女の信頼厚い彼女に、助けを求めたのだろう。
王宮女官が貴族の領地に乗り込むなんて、可笑しな話だから仮初めの入籍と言うところか?
(たぶん食料は、アン王女が援助下さったのではないだろうか? 彼女は王女の懐刀だと言うから。魔道具の水筒まで…………。本当に素晴らしいことです)
ゴルドンはレアナの人脈に感謝したが、さすがのアンとてあの量の手配は、量・金額ともに無理である。
隠しているが、これはレアナの能力の賜物だった。




