レアナ・グラナディフェン侯爵令嬢 その1
レアナは由緒正しき侯爵令嬢であった。
そう言われる年齢からは、遠く離れてしまったけれど。
元々グラナディフェン侯爵家は、彼女の母アヴィラが継いでいた爵位。第一子継承権は王族だけでなく、貴族家にも適応されていた。
結婚も勿論政略が主で、レアナの父ブルニュストは婿養子である。
アヴィラには心から愛する者がいたが、家の方針に従いブルニュストと結婚した。
アヴィラはプラトニックであったが、ブルニュストには秘密の愛人マーガレットを囲っていた。
周囲には別れたと報告していたが、それは従者カインズと結託した偽装であった。従者の能力で彼女の気配を隠し、密会を重ねていたのだ。
若い令嬢達には品行方正で眉目秀麗と憧れられるブルニュストだったが、アヴィラは胡散臭い気がして好きになれなかった。親の命令だから結婚しただけの夫。
顔には出さないものの、それは彼にも伝わっていたかもしれない。
金髪碧眼で柔らかい髪を揺らす優しげなブルニュストと、銀髪とつり目気味の紅い瞳のアヴィラは印象が逆だった。
二人とも美しい容姿をしていたが、印象だけは違っていた。
彼女の性格がキツそうに見えることで、ブルニュストが我慢しているようにも見えた。
けれど彼女は侯爵家の当主として侮られないならそれで良いと、特に訂正もせずにいたことが仇になる。
彼女が病に倒れ亡くなった後、彼を健気に支えた元の恋人のマーガレットが周囲に容認されたのだ。
「一度は彼を完全に諦めて離れていたのに、彼とレアナ嬢を真摯に支えて素晴らしい」
「彼女が後添えなら、安心だわ」
受け入れられた世論。
婿養子と言えども、ブルニュストはグラナディフェン侯爵家の傍系である為、彼を当主に据えることに。
アヴィラには弟がいたものの、既に公爵家の婿になっていたことで、この対応に落ち着いたのだ。
アヴィラの喪が明け、レアナが2歳の時にブルニュストは再婚。
継子虐めなどない温かい家庭。
幼いレアナはマーガレットを本当の母親と思いながら育ち、3歳下に妹リンディが生まれてもそれは続いていくと思われていた。
けれどその後にレアナは体調を崩し、ベッドで過ごす生活が続いていくことになる。
「体調はどう? ゆっくり休んで早く良くなってね」
「無理せず、安静にな。ほら、プレゼントだよ」
「お姉ちゃん。お庭のお花を摘んで来たよ。また遊んでね」
みんなの労る言葉。メイドのジャスミンが窓際に花を生けてくれた。リンディの摘んでくれた花を見る度に、嬉しいけれど儘ならない体が恨めしくなる。
そして次第に体調の悪くなるレアナは、部屋から出ることがなくなっていく。
徐々に彼女の部屋への訪問が、遠退いていく家族。
窓から聞こえてくるマーガレットとブルニュスト、リンディの楽しげな声がレアナの胸に突き刺さる。
「どうして来てくれないの? 私のことを嫌いになったの。うえーん」
「うっ、お嬢様……。私がおります。私だけはおりますから」
ジャスミンはレアナの手を握り泣きながら慰めるが彼女の涙は止まらず、啜り泣くような嗚咽が部屋に響き続けた。
寝たきりのままのレアナの使用人は減らされ続け、今は若いメイドのジャスミンだけしかいなくなった。
それでもレアナは、まだ家族を信じていた。




