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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
二章 路地裏の小さな店

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8話 試験



 五日ぶりにマジックポピーを見た。神殿では毎日、さわってたんだけど。


 マジックポピー。それはふつうの芥子の実とはあきらかに違う。よく似てるけど、ひとまわり大きく、殻の色がちょっと緑がかってる。オイルにするには専用の機械がいるから、どこの家でも置いてあるものじゃない。大きな工房なら圧搾機を持ってるとこもあるけど、なみの画家ならオイルになったものを神殿から買ってくる。なぜなら、精油をする人の手際によって、魔法絵になったときの効果がぜんぜん違うからだ。もちろん、けがれない乙女じゃないといけないのは大前提として。


 ヴェネルティア神殿でマジックポピーの精油をおこなってたのは、経験のある上位の芥子乙女。でも、それだけじゃない。見習いのころから、じょじょに精製法も教わる。でも、誰もが得意なわけじゃないのだ。なぜかはわからないけど、その人が精製すると魔法効果が高まる、という芥子乙女がまれにいる。たぶん、本人の魔法や絵の素養なんだと思う。


 わたしはこれが得意だった。

 すごく評判がよくて、わたしの作ったオイルはすぐに完売しちゃう。だからこそ、エメベラさまはわたしを嫌ってたんだろう。魔法力の高い上質なマジックオイルを精製できるのは、芥子乙女としてもっとも優れた資質だ。貴族の姫君のエメベラさまより、庶民のわたしのほうが優れていたんじゃ示しがつかないとか、そういうふうに思ってたんじゃないかな?


 ああ、残念。自分で描けないなら、せめて、わたしの作ったマジックオイルで、魔法絵の奇跡を起こす助けになりたい……そう願ってたのに。それさえできなくなって。


 もし、この店で魔法絵の具を売ってるなら、誰が精製してるんだろう? マクシミリアンさん? なんか、イメージじゃない。ガルシニエさんだろうか? 昔は魔法画家だったらしいから、今でも絵の具だけは作ってるのかも。いやいや、ダメか。男の人は魔法芥子の実にさわれないから。前は女の子を雇ってたのかも?


 それにしても、ガルシニエさんはどんな絵を描いてたんだろう? 見てみたいなぁ。でも、絵はきっと売ってしまって手元に残ってないんだろうな。せめてガルシニエさんが調合した絵の具を見れば、画家としての技量もあるていどわかるんだけど。


 探してみたけど、作りたての絵の具は戸棚のなかにはなかった。マジックオイルもない。魔法芥子じゃないポピーオイルやリンシードオイルは置かれてる。マジックオイルは画家の想いがこもるように、ふつうは使用直前に精油される。きっと絵の具にする直前にヴェネルティア神殿から買ってくるんだろうな。


 澄んだエメラルドみたいな芥子粒をながめていると、階段のほうから足音がした。ガルシニエさんだ。足が悪いのに、二階へあがったんだろうか? 二階はマクシミリアンさんの寝室と物置がある。物置へなら、わたしが行ったのに。


「ガルシニエさんですか? 大丈夫ですか?」


 階段まで行くと、ガルシニエさんがおりてくるところだった。わたしを見ておどろいたものの、意外と足どりはしっかりしてる。


「二階へ行くときは、わたしに言いつけてください」

「いやいや、このぐらい、かまわんよ。それより、アトリエを見ていたのだね」

「すみません。お客さんが誰も来ないので……」

「興味のひかれるものがあったかね?」


 わたしは迷った。雇われてまだ五日。兄弟子のマクシミアンさんさえ、描かせてもらってないのに、ものすごく図々しいかも? でも、でも、これはチャンスだ!


「あ、あの、わたしに魔法絵を描かせてください!」


 い、言っちゃった。

 やっぱり、図々しかった?

 それに、ガルシニエさんは紳士だけど、クノルエさんと親しかったら? 画家ギルドを通して顔見知りではあるだろう。とくに親しければ、父さまの工房の乗っ取りに、この人も加担した可能性だってある。共謀でこそなくても、見ないふりをして黙ってるってことも……。


 不安でいっぱいになりそうなころ、やっと、ガルシニエさんは口をひらいた。


「魔法絵は誰でも描けるものじゃない。まずはテストをしてみよう」

「えっ? ほんとですか?」

「才能があれば、こっちから頼んででも描いてもらいたいからね。できるなら、この店をただの絵の具屋ではなく、もう一度、魔法絵店としてよみがえらせたい」

「じゃあ、わたしに才能があれば、魔法絵を描かせてくださるんですね?」

「最初のテストはマジックポピーの精油だ。君は女の子だから、試してみてくれ」


 それなら、大丈夫。

 得意ちゅうの得意よ。

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