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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
二章 路地裏の小さな店

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7話 新たな生活



 わたしの恩人の名前はケーセトラ・ガルシニエ。元魔法絵師のおじいさん。中流階級居住地区の外れに小さな自宅兼店舗をかまえてる。お店の名前は『白い花の奇跡』


 このお店に、わたしは五日前から勤めてる。住みこみだ。長らく使われてなかった屋根裏部屋がわたしの寝室として提供された。仕事の内容は今のところ掃除や台所の雑用と、お店の売り子なんだけど、それでもいいんだ。これで住処が見つかったし、ともかく食べていくことはできる。


 早朝。寝巻きを着替えて屋根裏からおりていくと、台所には朝食の準備ができていた。じつをいうと、これ、兄弟子のマクシミリアンさんが作ってくれてる。つまり、ガルシニエさんの一番弟子だ。わたしは二番弟子ってことになる。


 マクシミリアンさんはたぶん三十歳まではなってない。ものすごく筋肉量が多くて、いわゆるムキムキ。ブラウンの髪を短く切って、いつも鉢巻をしてる。ちょっと怖いんだけど、でも……でも、だ。この人の料理は絶品だ! 昔、どっかの料理店でコックをやってたとかなんとか。そんな人がなんで絵描きの弟子になったのかわからない。


 ふむふむ。今朝は野菜とひき肉をまぜこんで焼いたオムレットですか。あつあつチーズをたっぷりかけて、ふうふう。味を想像しただけで食欲が刺激されちゃう。そえられたバケットにのせて食べても美味しいよね。神殿の朝食より、むしろ上等。


「おはようございます。マクシミリアンさん」

「……」


 マクシミリアンさん。料理の腕は抜群なんだけどね。無愛想なんだ。いまだにほとんどしゃべってくれない。絵師の弟子だっていうけど、描いてはいないみたい。おもな仕事は絵の具の材料の顔料集め。だから、店にいるのは朝と夕方以降。昼は出かけてるので、わたしが店番に雇われたってわけ。


「今日も顔料とりに行かれるんですか? 今はグリーンが少ないので、マラカイトをお願いします」

「……」


 大丈夫。返事がないのは了解の印だ……たぶん。このくらいで、へこたれないんだから。


「マクシミリアンさんはいつも良質の顔料を持って帰ってくるけど、商人から買いつけてるんですか? それとも、鉱山まで買いに行ってるの? まさか、自分で採集してるなんてことないですよね?」

「……」


 へ、へこたれたい……わたしが気にくわないなら、こんな美味しい料理作ってくれないはずだし。


「マクシミリアンさん、夕食のために何か買い出ししといたほうがいいですか? 下ごしらえなら、しときますけど」


 マクシミリアンさんは無言で首をふった。ダメだ。つけいるすきがない。兄弟子はそのまま外へ出ていった。むっ、くぅ。負けないもんね。いつかきっと、尻尾ちぎれるほどふりちらせてみせる(認識が野良犬)。


 残った食器を洗うのは、わたしの仕事。この家にはせまいけど裏庭があって、贅沢に専用の井戸がある。ふつう井戸や噴水、水飲み場は市民共用だ。仕事で水をたくさん使う料理店などは例外で自宅に井戸がある場合も。届け出をして役所の許可が必要だから、これでもかなり稼いでるってことね。そういえば、ガルシニエさん、身なりはよかった。


 そのガルシニエさんは老齢なので、自室からあまり出てこない。食事も部屋で一人。食事を運ぶのはマクシミリアンさんだから、いっしょに暮らしてても、わたしはほぼ顔をあわせない。


 さて、お店をあける前に家のなかの掃除をして、洗濯して。それから昼食まで店番。昼食がすんだら、また店番。日が暮れる前に洗濯物をとりこんで……なんだけど、この店番ってのが問題。だって、お客さんが来る日のほうが少ないんだから。退屈で退屈で。絵の具屋ってことは、画家にしか需要はないわけで、しかも、たいていの画家は微妙な色合いにこだわりがあって、自分で絵の具を合成してる。それでも儲かってるってことは、どっかと大量に取り引きしてるのかな?


 あんまり退屈なので、お店のすぐ奥にある工房に入ってみた。ここなら、表から人が来ても物音で気づく。この工房ではガルシニエさんが現役だったころ、店番しながら絵の製作をしてたらしい。今でもたくさんの画材がそのままになっている。キャンバスをかけたままのイーゼルや、絵の具のこびりついた木のパレット。パレットナイフ。スケッチに使う紙や炭の棒。ポーズを確認するための大きな鏡。

 表の通りに面した窓からは明るい光がさしこみ、裏庭がわの窓もあければ風が吹きぬける。とても心地よいアトリエだ。広くはないけど、小さな肖像画や静物画を描くには充分の環境だ。


 いいなぁ。こんな場所で絵を描いて暮らせたらなぁ。でも、わたしが工房の娘だったってことは、まだガルシニエさんにも話してない。もしも、ガルシニエさんがクノルエさんの知り合いだったら、わたしの居場所がまたなくなってしまう。そこらへんはだんだんにさぐりを入れていこう。


 日のあたらない壁ぎわの棚のなかには絵の具の材料がたくさんあった。おどろいたことにマジックポピーの実が瓶に入れられている。近くには精油機もあった。


 あれ? このお店で作ってる絵の具って、もしかして、魔法絵の具なの?

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